医療DXとは?メリット・懸念点、事例や推進方法をわかりやすく解説
医療DXとは、医療や介護におけるさまざまなデータをデジタルで効率的に管理し、より良質な医療を提供できるよう、社会の枠組みを変えていくことです。
政府は医療DXの実現のために注力していますが、ITリテラシーの低さやデジタルツールの導入コストなど、医療業界独自の課題から、他産業と比較して圧倒的にDX化が遅れているのが現状です。
しかし、これから深刻化する超高齢化社会と、それに伴う人材不足に最も影響を受けるであろう医療業界において、医療DXの促進はもはや急務といえます。
そこでこの記事では、医療DXの概要や現況、導入によるメリットや具体的な事例、推進方法などをわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、医療DXの効果的な導入方法や、患者サービスの向上が目指せるため、ぜひご一読ください。
医療DXの推進にもおすすめ!放射線科医が開発!
クラウド型PACS「LOOKREC」と「遠隔画像診断」の資料はこちらよりダウンロード
▼
目次[非表示]
- 1.医療DXとは?基本と医療業界における重要性を簡単に解説
- 2.医療DXの現状
- 2.1.医療業界の課題
- 2.2.日本政府の動き
- 2.2.1.1. 全国医療情報プラットフォームの創設
- 2.2.2.2. 電子カルテ情報の標準化等
- 2.2.3.3. 診療報酬改定DX
- 2.3.日本と世界の医療DXの状況比較
- 3.医療DXのメリット
- 3.1.メリット1. 医療現場での業務効率化
- 3.2.メリット2. 医療における質・満足度の向上
- 3.3.メリット3. 予防医療につながる
- 3.4.メリット4. データの保存性が向上する
- 4.医療DXの具体的な施策事例
- 4.1.カルテや処方箋の電子化
- 4.2.予約・問診・診療のオンライン化
- 4.3.公費負担医療制度の資格確認、費用請求のオンライン化
- 4.4.ビッグデータの活用
- 4.5.AIデータの活用
- 5.医療DX成功の推進方法
- 6.医療DXの懸念点
- 6.1.懸念点1. データ保護・セキュリティ管理
- 6.2.懸念点2. 医療従事者のITリテラシー
- 6.3.懸念点3. デジタル格差
- 6.4.懸念点4. 導入コスト
- 7.まとめ
医療DXとは?基本と医療業界における重要性を簡単に解説
「医療DX」が具体的に何を指し、どれほど今の医療業界に重要なのか、よくわからないという人も少なくないでしょう。
ここでは、医療DXの基本的な内容と、医療業界における重要性を解説します。
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは
医療DXのDXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略であり、デジタル技術によって業務の効率化や競争優位性の獲得を図り、消費者へのサービス向上を目指す変革のことです。
新型コロナウイルス流行に後押しされる形で、国内でも近年さまざまな分野・業界でDX化が進んでいます。
今後の医療業界においては、超高齢化社会やそれに伴う人材不足、さらには地域間格差の深刻化が予想されており生産性の向上は必須課題となっています。医療の効率化や質の向上が期待できるDX化が強く求められています。
医療分野におけるDXとは
医療分野におけるDXとは、保健・医療・介護において発生する情報やデータを、クラウドなどの共通基盤を介して一元的に管理し、データの共通化や標準化を図ることで、より良質な医療の提供を目指すことです。(厚生労働省ホームページ「医療DXについて」より)
例えば、これまでバラバラに管理されてきた電子カルテやお薬手帳・予防接種歴などの医療情報も、デジタル化によってクラウドで一元的に管理することで、医療従事者はより情報を把握しやすくなります。
さらに、患者自身もマイナンバーカードで自身の医療情報にアクセスできることで、自発的な健康促進も期待でき、双方にとって有益です。
ほかにも、電子カルテの標準化や診療報酬改定の自動管理など、さまざまなデジタル化が進んでいます。
医療DXの現状
2022年5月、自由民主党政務調査会はこれまでの医療分野の情報のあり方を根本から解決し、医療DXを促進すべく「医療DX 令和ビジョン2030」を提唱しました。
しかしながら、独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によれば、医療・福祉産業のDX取組状況はわずか9.3%と、他産業と比較して圧倒的に遅れているのが現状です。
産業 |
DX取り組み状況(%) |
---|---|
金融業・保険業 |
45% |
情報通信業 |
45% |
不動産業・物品賃貸業 |
23% |
サービス業 |
23% |
製造業 |
23% |
卸売業・小売業 |
23% |
建設業 |
21% |
運輸業・郵便業 |
17% |
宿泊業・飲食サービス業 |
16% |
医療・福祉 |
9% |
独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」より抜粋し筆者作成
超高齢化社会を迎える日本の医療業界には課題も多く、それらの課題解決のために日本政府は医療DXを促進させる必要があります。
ここでは、医療業界の課題や日本政府の動きについて解説します。
医療業界の課題
医療DXの促進によって解決が期待できる、医療業界の抱える課題は下記の通りです。
- 人材不足
- 小規模医療機関の経営難
- 働き方改革
- アナログ文化
厚生労働省が公表している「将来推計人口(令和5年推計)の概要」によれば、2070年には日本の総人口は8,700万人まで低下し、そのうち65歳以上が3,367万人(38.7%)にのぼると推計されています。
また、人手不足や診療報酬の低さから経営難に陥っている医療機関は少なくなく、特に小規模な医療機関では深刻な問題です。
それに加え、働き方改革が断行されたことにより、少ない労働時間でこれまで以上の診療をこなす必要があります。
これらの背景から、今後患者と医療従事者の需給バランスはさらに逼迫し、このままいけば患者に提供できる医療の質や量が低下するのは間違いありません。
しかし、旧態依然とした医療業界ではいまだにアナログ文化が残っており、紙媒体でのデータ処理・保管を行っていることで無駄なコスト・時間が発生しています。
日本政府の動き
これらの課題を解決するためにも、業務効率化の図れる医療DXが今強く求められており、日本政府は医療DX推進本部を立ち上げ推進してきました。
2022年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」において、医療DXの実現に向けて、下記の3つを柱にすると打ち出しました。(参考資料「医療DXの推進に関する工程表(案)」)
- 全国医療情報プラットフォームの創設
- 電子カルテ情報の標準化等
- 診療報酬改定DX
その後会議を繰り返し、2023年5月29日の「医療DX推進本部幹事会第3回会議」にて、具体的な工程表が作られ、各施策の到達点や到達期間が明らかになりました。
1. 全国医療情報プラットフォームの創設
全国医療情報プラットフォームの構築によって、医療機関や患者、さらには介護事業者や自治体などの持つ医療情報を一元的に共有できるようになるため、医療の質や利便性の向上が期待できます。
それに伴い、電子処方箋を実施する医療機関・薬局の拡大、救急医療の現場で患者カルテを共有閲覧できるシステム作りを2024年度中に完結させる予定です。
2025年以降は実際にプラットフォームの運用を開始するとともに、診療情報提供書やアレルギー・検査データなど、共有できる医療情報の拡充を行う予定です。
2. 電子カルテ情報の標準化等
これまで電子カルテは、各医療機関で独自に構築したものを使用しており、情報共有に手間やコストがかかっていましたが、標準化されれば医療機関同士での情報共有はよりスムーズになります。
2024年度内に、各医療機関の電子カルテの規格の標準化を目指しています。
2025年以降は順次、標準化電子カルテα版を提供開始し、遅くとも2030年までに全ての医療機関に導入予定です。
3. 診療報酬改定DX
これまで、診療報酬改定のたびにコスト算定や計算システムの変更などに多大な労力を割いていましたが、2024年度中に各医療機関に対して、マスタ及びそれを活用した電子点数表を改善・提供します。
さらに、2026年度以降は共通算定モジュールを実装開始する予定で、これにより医療機関やベンダーのコスト軽減が目指せます。
日本と世界の医療DXの状況比較
フランスではすでに「マイ健康情報スペース」と呼ばれるサービスによって、全国の医師・患者間で電子カルテ等の健康医療情報が共有可能です。
同様に、イギリスでは「GPオンライン」、イスラエルでは「EITAN」と呼ばれるサービスを用いて医療情報を共有できています。シンガポールでは、2011年に全国医療記録(NEHR:National ElectronicHealthRecord)という集中型の地域医療情報連携(EHR:ElectronicHealth Record)システムの構築を開始し2024年現在100%に近い医療機関が登録しています。
さらにEUでは、各国間で診断時の患者情報や電子処方箋がやりとりできるようインフラ整備を進めています。
日本ではようやくデータ提供が始まった段階であり、残念ながら諸外国と比較して遅れているのが現状です。
参考資料:日本経済団体連合会「医療DXの推進状況と各国比較」
医療DXのメリット
医療DXのメリットは主に下記の4つです。
- 医療現場での業務効率化
- 医療における質・満足度の向上
- 予防医療に繋がる
- データの保存性が向上する
メリット1. 医療現場での業務効率化
医療DXによってさまざまな医療情報や事務作業がデジタル管理できるため、医療現場での業務効率化が図れます。
他医療機関からの資料取り寄せ、医療資源の在庫管理、経理関連業務など、これまで時間やコスト、手間のかかっていた作業が省略され、さらにはヒューマンエラーも予防できます。
また、これらの業務に割いていた人件費削減にもつながるため、コスト削減も可能です。
メリット2. 医療における質・満足度の向上
医療DXによって医療機関は過去の患者情報を正確かつ迅速に取得できるため、患者に提供できる医療の質・満足度向上が目指せます。
自施設には情報がなくても、過去の他院での診療情報があれば、過剰な検査や投薬を避けることもできます。
また、患者は問診票の記載などの手間が省け、今後オンライン診療も普及すれば、病院での待ち時間も削減可能です。
メリット3. 予防医療につながる
医療DXによって、これまで以上に膨大なデータを一元的に管理・分析できるため、ある病気のリスク因子をビッグデータから予測することで、予防医療を促進できます。
また、ビッグデータは新たな治療法や新薬の開発にも有用です。
メリット4. データの保存性が向上する
医療DXによってデータをクラウド上で管理することで、データの保存性が向上します。
これまで紙媒体で保存していたデータや、病院内に設置したサーバーにデータ保存する、いわゆるオンプレミス型電子カルテの場合、その医療機関に地震や火災が生じるとデータが全て失われる危険性がありました。
インターネット上のクラウドにデータ保存すれば、いつでも自由に情報を引き出すことができ、医療機関で災害が起きてもデータは守られます。
医療DXの具体的な施策事例
医療DXを進めることで、医療現場にはどのような変革がもたらされるのでしょうか。
ここでは、具体的な施策例を紹介します。
カルテや処方箋の電子化
カルテや処方箋を電子化することで、これまで必要としていた紙媒体のコストや保管スペースの削減が目指せます。
また、先述したようにクラウド上で管理すれば、データ損失のリスクも軽減できるのもメリットです。
予約・問診・診療のオンライン化
予約受付や問診表の記載をオンライン化することで、受診の手続きに伴う時間や手間を削減でき、医師もスケジュールを管理しやすくなります。
診療もオンライン化することで受診の手間を省き、院内での感染リスクも軽減できます。
また、遠隔地からの受診も可能となるため、地域間医療格差の是正にも有用です。
公費負担医療制度の資格確認、費用請求のオンライン化
乳幼児医療費助成制度や障害者医療費助成などの公費負担医療制度を利用する場合、現状では医療機関でマイナンバーカードによる身分確認とともに、公費受給者証を窓口で提示する必要があり、二度手間です。そこで、公費受給者証をマイナンバーカードに一本化することで、手間を省くことができます。(参考資料:健康保険組合連合会「オンライン資格確認による公費負担医療制度の受給資格の確認について」)
また、レセプト請求もこれまで紙媒体や光ディスクで行われてきましたが、2024年4月1日以降は原則オンラインのみとなりました。これによりセキュリティの強化や利便性の向上が期待されます。(参考資料:厚生労働省「オンライン請求への移行に向けて」)
ビッグデータの活用
先述したように、医療DXよってこれまでより膨大な医療情報を容易に管理できるようになります。
得られたビッグデータは、新薬や新たな治療方法の開発、予防医療の促進などに活用可能です。
AIデータの活用
医療情報をAIに学習させるためには膨大なデータが必要ですが、膨大なデータを効率よく得られる医療DXと組み合わせることで、より効果的に活用できます。
AIデータを活用することで、診断支援・治療計画の最適化・化合物の検索・患者の予後予測などに利用できます。
医療DX成功の推進方法
医療DXを実際に導入し成功させるためには、下記のような3ステップが重要です。
- 医療現場における実践的・具体的アプローチ
- 組織文化の変革と人材教育
- 導入コストの見積もり
STEP1:医療現場における実践的・具体的アプローチ
まずはじめに、医療現場における実践的・具体的アプローチを考える必要があります。
無目的に医療DXを導入すれば、コストだけかさんで思ったような効果は得られないためです。
例えば、待合室が患者で飽和していることが課題であれば、順番受付システムやキャッシュレス決済システムの導入が適切なアプローチです。
それぞれの医療現場によって抱えている課題は異なるため、自院で何を改善させれば患者サービスの向上や業務効率化を図れるのか評価し、スモールスタートで始めましょう。
STEP2:組織文化の変革と人材教育
次に、医療DX成功のためには組織文化の変革と人材教育が重要です。
従来のアナログな方法に依存し、デジタル化への理解に乏しい組織風土では医療DXは成功しないため、病院全体で医療DXに対する不安やネガティブなイメージを払拭していく必要があります。
そのためには、ITに強い人材を外部から確保し、医療DXを推進する担当者を中心に、院内でITに携わる職員の教育が必要不可欠です。
また、それらのシステムやツールを実際に使用する全ての医療スタッフにも、DX化の取り組み内容を理解してもらい、導入前から共通認識を持っておくことが重要です。
STEP3:導入コストの見積もり
最後に、実際に医療DXを導入するコストの見積もりを出しましょう。
よくある間違いとして、医療DXを金銭コスト削減と同義と捉えてしまうことがあります。医療DXは多くの場合、金銭的コストが発生しますが、それによる業務効率化等で人的および時間のコスト削減を行うことで、安定した業務フローの構築を目指します。
しかし、医療DXの導入に伴うコストは高額となる可能性もあり、またランニングコストが負担となることもあるため、特に小規模な医療機関では導入コストによって経営が圧迫される可能性もあります。
主な費用は、システム端末代・ソフトウェアやクラウドのライセンス料・人材確保や教育のための費用などです。
施設規模に見合った設備を、まずはスモールスタートで導入するように注意しましょう。
医療DXの懸念点
医療DXの導入はメリットも多いですが、いくつかの懸念点もあり、具体的には下記の4つです。
- データ保護・セキュリティ管理
- 医療従事者のITリテラシー
- デジタル格差
- 導入コスト
懸念点1. データ保護・セキュリティ管理
医療DXにおいては、これまで紙媒体で管理していた医療情報を一元的にクラウド上で管理するため、情報漏洩やハッキングなどのリスクがあります。
サイバー攻撃や第三者の不正アクセス防止のためにも、強固なシステム設計はもちろんのこと、利用者もセキュリティ意識を高く保つことが重要です。
懸念点2. 医療従事者のITリテラシー
医療DXが導入されても、医療従事者のITリテラシーが低ければ有効活用できません。
取り扱うには、トラブル対応やシステムアップデート・メンテナンスなど、医学的知識とはまた別の知識が必要となるため、専門人材の採用・育成や、全ての医療従事者のITリテラシーの向上が求められます。
懸念点3. デジタル格差
デジタル格差とは、なんらかの理由でデジタルツールを利用できない人と利用できる人を比較した時に、受けられる医療の質に格差が生まれることです。
例えば、医療過疎地に暮らす若者にとってオンライン診療は非常に有用ですが、オンライン診療に必要なPCやスマホを持たない高齢者にとってはメリットがありません。
医療DXが進めば進むほど、デジタル格差も広がっていく可能性が示唆されます。
懸念点4. 導入コスト
先述したように、デジタルツールの購入や人材育成にコストがかかるため、小規模な医療機関や跡継ぎのいないクリニックの場合、初期費用を回収できない可能性があります。
一方、政府は一定の要件を満たす企業や事業者を対象に「IT導入補助金」の交付も行なっているため、ぜひチェックしてみると良いでしょう。
まとめ
今回の記事では、医療DXの現況やメリット・懸念点などを解説しました。
日本の医療業界には多くの課題があり、このまま何もしなければ悪化の一途を辿るため、課題解決のためには医療DXの推進が必要不可欠です。
自院の現状における問題点を洗い出し、適切なデジタルツールの導入や人材育成を行うことで効果的に医療DXを導入できます。
ぜひこれを機に医療DXを取り入れ、業務効率化や無駄なコストの削減を目指しましょう。
弊社のクラウド型PACS "LOOKREC" は、導入費用0円・更新費不要と、コスト削減にも一役買ってくれる心強い存在です。また、セキュリティ面においてもGoogle Partnerとして、世界最大級のプラットフォームを利用しているため安心して医療DXの推進にもおすすめです。
医療DXの推進を考えている方は、以下より資料をダウンロードしご検討の際にお役立てください。