オンライン診療のメリット・デメリット、システムの選び方や導入手順を解説
新型コロナウイルスの流行に後押しされる形でオンライン診療はその必要性がより議論されるようになり、一気に法整備が進んだことで多くの医療機関が導入しました。
オンライン診療システムを導入することで業務効率化や二次感染の予防など、さまざまなメリットが得られる一方で、導入する前に理解しておくべきデメリットもあります。
この記事では、オンライン診療のメリットやデメリットを解説し、多くのオンライン診療システムから自院に合ったサービスを選ぶための比較ポイントも紹介します。
この記事を読むことで、オンライン診療導入による失敗を避け、より効率的な医療サービスの提供を目指せます。
目次[非表示]
- 1.オンライン診療とは
- 1.1.オンライン診療が注目される背景
- 1.2.オンライン診療の普及率
- 2.オンライン診療を導入するメリット・効果
- 2.1.メリット1. 医療現場の効率化
- 2.2.メリット2. 患者の時間効率や利便性が上がる
- 2.3.メリット3. 二次感染リスクの軽減
- 2.4.メリット4. 集患の強化・診療機会の拡大につながる
- 2.5.メリット5. 地域医療の向上
- 3.オンライン診療を導入するデメリット・課題
- 4.オンライン診療システムの選び方・比較ポイント
- 4.1.比較ポイント1. システムの利便性やシンプルさ
- 4.2.比較ポイント2. スマホアプリに対応をしているか
- 4.3.比較ポイント3. 周辺システムとの連携(電子カルテ・Web問診)
- 4.4.比較ポイント4. 薬の処方方法の利便性
- 4.5.比較ポイント5. 導入後のサポート体制
- 5.オンライン診療の導入手順
- 5.1.ステップ1. オンライン診療研修を受講する
- 5.2.ステップ2. 地方厚生局への届出
- 5.3.ステップ3. オンライン診療システムの選定や機材購入
- 5.4.ステップ4. 合意取得と診療計画書の作成
- 5.4.1.合意取得に用いる同意書
- 5.4.2.診療計画書
- 6.まとめ
オンライン診療とは
厚生労働省「オンライン診療について」では、以下のように定められています。
スマートフォンやタブレット、パソコンなどを使って、自宅等にいながら医師の診察や薬の処方を受けることができる診療です。
デバイスとインターネット環境・マイクやカメラさえあれば、離れた場所でもリアルタイムで診療を受けられるため、患者にとって非常に画期的なシステムです。
一方で、医師からすると対面診察より得られる情報が限られるため、適切な実施のために幾つかのルールも定められています。
オンライン診療が注目される背景
1997年、厚生省健康政策局長通知によって、離島やへき地における医療格差是正のための遠隔診療が初めて認められました。
以降、ICT技術の発展によって遠隔診療の時代が幕を開けると考えられていましたが、資金的・人的資源の不足や、1948年に制定された医師法第20条「無診察治療等の禁止」などの社会意識上の課題により、遠隔診療は頓挫していました。
しかし、近年では下記のような要因によって急速にオンライン診療への注目度が増しています。
- 少子高齢化
- 医療の地域間格差拡大
- 医師の働き方の見直し
- ICT技術の発達
- 新型コロナウイルスの流行
深刻化する少子高齢化や、それに伴う医療の地域間格差拡大・医師の過重労働などの諸問題を是正する上で、オンライン診療による業務効率化が必要であると考えた厚生労働省は、2018年「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を公表しました。
さらに、2019年新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、日本が医療のICT化において世界に大きく遅れをとっていることが皮肉にも明瞭化されました。
これらの背景からオンライン診療に伴う診療報酬の改定や、初診からのオンライン診療対応を可能とするなど、政府主導となってオンライン診療の普及が促進されました。(参考資料:厚生労働省「オンライン診療等の診療報酬上の評価見直しについて」)
オンライン診療の普及率
総務省の「データで見るオンライン診療の現況」によれば、令和2年度における電話・オンライン診療の対応可能な医療機関の割合は全体の約15%でした。
さらに、初診からオンライン診療を実施できる医療機関の割合はわずか6%前後で推移しており、その普及は非常に限定的であることがわかります。
その背景には、下記のような要因が挙げられます。
- 医療従事者のITリテラシーの低さ
- 対面診療と比較して初診料が低い(対面:291点・オンライン:253点)
- 再診料は同一点数だが外来管理加算が取れないため再診時の総点数が低い
- 生活習慣病管理加算の同意書が紙運用を基本としている
- 得られる患者情報に限界がある
一方で、先述したように日本の抱える諸課題を解決するためにも、オンライン診療の普及は急務です。
今後さらに要件緩和や診療報酬の見直しなどが進めば、普及率の増加が推測されます。
オンライン診療を導入するメリット・効果
オンライン診療を導入するメリット・効果は主に下記の5つです。
- 医療現場の効率化
- 患者の時間効率や利便性が上がる
- 二次感染リスクの軽減
- 集患の強化・診療機会の拡大につながる
- 地域医療の向上
メリット1. 医療現場の効率化
オンライン診療を導入するメリットの1つが、医療現場の効率化です。
対面診療の場合、平日夜間や土日など、患者が集まりやすく混雑しやすい時間帯が決まっていますが、オンライン診療を導入すれば直接来院する患者数を減らせるため、混雑を緩和できます。
また、保険証の確認や次回予約などの受付業務も軽減されるため、医師以外の医療従事者も自分の仕事により集中できるでしょう。
メリット2. 患者の時間効率や利便性が上がる
オンライン診療を導入することで、患者の時間効率や利便性も向上します。
特に多忙な社会人であれば、受診における移動距離や時間が高いハードルとなり、受診が難しいケースも少なくないでしょう。
オンライン診療であれば、PCやスマホ1台で自宅で簡単に診療を受けられるため、受診のための移動時間や院内の待ち時間が解消されます。また、待ち時間を自宅で過ごすことで安心して診察までの時間を過ごせます。
インターネット上の予約カレンダーで自身のスケジュールにあった予約枠を抑えられるため、利便性も高いです。
メリット3. 二次感染リスクの軽減
オンライン診療によって、二次感染のリスクを軽減できます。
対面診療の場合、なんらかの感染症に罹患した患者と少なからず接触する可能性があり、病気を治すための病院で新たに感染症に罹患してしまう、いわゆる二次感染のリスクがあります。
オンライン診療を導入すれば、院内の混雑が緩和されることで二次感染のリスクが軽減し、自宅で受診する患者は二次感染リスクを完全に排除できるため、より安心して受診可能です。
メリット4. 集患の強化・診療機会の拡大につながる
オンライン診療を導入することで、集患の強化・診療機会の拡大につながります。
オンライン診療であれば遠方や多忙を理由に受診の難しい患者にもリーチできるため、その利便性の高さから新規患者の獲得が期待できます。
さらに、転居や転勤などを理由に対面診療の継続が難しい場合もオンライン診療という選択肢があれば継続して受診可能です。
医薬品の配送までワンストップで対応しているオンライン診療システムであれば、より診療機会の拡大を図れるでしょう。
メリット5. 地域医療の向上
オンライン診療を導入することで、地域医療の向上に貢献できます。
特に医療機関へのアクセスが困難な過疎地・中山間地域に暮らす患者や、そもそも通院が困難な患者、その他にも自分のために日中の時間を1時間以上確保が困難な方にとって、オンライン診療は有効な手段となり得ます。
今後の日本は超高齢化社会の深刻化がほとんど確実であり、上記のような患者の増加が見込まれるため、地域医療の向上のためにはオンライン診療の有効活用が重要です。
オンライン診療を導入するデメリット・課題
オンライン診療を導入するデメリットや課題は主に下記の3つです。
- 対面診療と比較し、情報収集に限界がある
- ITリテラシーや通信環境を整える必要がある
- 使える薬に制限がある
デメリット1. 対面診療と比較し、情報収集に限界がある
対面診療と比較し、情報収集に限界がある点が挙げられます。
画面上での診察となるため、口頭での問診聴取や視診は行えたとしても、情報量の多い聴診や血液検査などの診察は行えないためです。
安全性を確保するため、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によれば、緊急性の高い患者やこれまで一度も診察したことのない患者を相手にオンライン診療を行うことは推奨していません。
最低限遵守すべき事項として、初診からのオンライン診療は原則かかりつけ医が行い、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」等に抵触する場合、対面診療を行うことが推奨されています。
デメリット2. ITリテラシーや通信環境を整える必要がある
オンライン診療を導入するにあたって、ITリテラシーや通信環境を整える必要があります。
オンライン診療をスムーズに実施するためには、デジタルツールの適切な使用が必要です。しかし、特に高齢者は難聴やITリテラシーの低さが原因で、情報通信機器の使用が困難であるケースが散見されるようです。(参考資料:日本老年医学会高齢者医療委員会「高齢者を診察する医師に向けての「高齢者のオンライン診療に関する提言」」)
厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によれば、病院・診療所ともに医師の平均年齢は増加傾向にあります。患者も医療従事者自身も高齢化が進んでいるため、ITリテラシーの向上は高いハードルと言えるでしょう。
また、オンライン診療の安全かつスムーズな実施においては、十分なインターネット環境が整備されている必要があります。
特に医療機関側は、個人情報及びプライバシーの保護に配慮し、情報漏洩や不正アクセスなどのセキュリティリスクに対し十分な対策を講じた上でサービスを提供する必要があります。
デメリット3. 使える薬に制限がある
オンライン診療では⽇本医学会連合の定める「オンライン診療の初診に関する提⾔」により初診・再診問わず処方が制限されている薬があります。
具体的には向精神薬や麻薬は処方不可であり、過去の診療録、診療情報提供書、地域医療情報連携ネットワーク又は健康診断の結果等で基礎疾患の情報が把握できない場合にはハイリスク薬(抗悪性腫瘍薬、免疫抑制剤、抗不整脈薬等)の処方にも制限が課せられています。
これらの薬の処方が必要となる方にはオンライン診療での対応は困難となるでしょう。
オンライン診療システムの選び方・比較ポイント
オンライン診療システムを選ぶ場合、自院のニーズにあった最適なツールを選ぶべきであり、選ぶ際の重要な比較ポイントは下記の5つです。
- システムの利便性やシンプルさ
- スマホアプリに対応をしているか
- 周辺システムとの連携(電子カルテ・Web問診)
- 薬の処方方法の利便性
- 導入後のサポート体制
比較ポイント1. システムの利便性やシンプルさ
まずはシステムの利便性やシンプルさを比較しましょう。
オンライン診療自体は便利でも、ツールの操作性が悪かったり、複雑でわかりにくい設計だと、特に高齢者にとっては高いハードルとなります。
幅広い年代に定着するよう、よりシンプルでわかりやすいシステムを選ぶことが重要です。
比較ポイント2. スマホアプリに対応をしているか
オンライン診療システムがスマホアプリに対応しているかも重要です。
スマホアプリに対応していれば、予約から診察・支払いまで全てアプリ内で完結するため、PCのみ対応のシステムと比較して、より便利に使用できます。
また、アプリと並行して自院のHPからオンライン診療を利用できるWebサービスを提供しているシステムでは、より広域な集客が可能です。
比較ポイント3. 周辺システムとの連携(電子カルテ・Web問診)
オンライン診療システムを選ぶ上で、電子カルテやWeb問診などの周辺システムとしっかり連携されているかも重要です。
既存の電子カルテと連携できれば、オンライン診療中もリアルタイムに診療情報を電子カルテに反映させることや、過去の診療情報を参照できます。
また、Web上での事前問診機能があれば、患者が事前に問診票を記載することで医師はより効率的に患者情報を収集できるようになるため、よりスムーズで質の高い診療が提供可能です。
比較ポイント4. 薬の処方方法の利便性
オンライン診療後にどのように薬が処方されるかは、患者の満足度にとって非常に重要です。
院内薬局を持つ医療機関であれば、診療後に配送業者に依頼し、患者の自宅に直接処方を配送できます。
また、院内薬局を持たない医療機関であれば、患者に処方箋を送って患者自身が薬局に行くか、配送業者が院外薬局へ集荷に向かい、患者自宅へと直接配送するサービスもあります。
特に薬局での待ち時間は患者満足度を低下させるため、配送サービスのあるシステムを検討すると良いでしょう。
比較ポイント5. 導入後のサポート体制
オンライン診療システムは利便性だけでなく、導入後のサポート体制も非常に重要です。
導入後の運用においては、システムに対する疑問点やトラブル対応など、事業者側からのさまざまなサポート体制が必要となります。
サポート体制が不十分な場合、診察にも影響が出てしまい、結果的に患者満足度を低下させる可能性があるため、迅速かつ十分なサポート体制を提供しているシステムを選ぶべきです。
オンライン診療の導入手順
オンライン診療を実際に導入する手順を4ステップに分けて紹介します。
- オンライン診療研修を受講する
- 地方厚生局への届出
- オンライン診療システムの選定や機材購入
- 合意取得と診療計画書の作成
これら4つのステップを踏むことで、実際にオンライン診療を始められます。
ステップ1. オンライン診療研修を受講する
まずは、厚生労働省の実施するオンライン診療研修を受講しましょう。(申込ページ:厚生労働省「オンライン診療研修実施概要」)
医師がオンライン診療を実施する際に必須とされる、指針や情報通信機器の使用、情報セキュリティ等に関する知識の習得を目的としており、「オンライン診療の適切な実施に関しての指針」においても受講が義務付けられています。
ステップ2. 地方厚生局への届出
次に、地方厚生局に対して「基本診療料の施設基準等」の届出を行う必要があります。
具体的な施設基準は下記の2つです。
- 情報通信機器を用いた診療を行うにつき十分な体制が整備されていること。
- 「オンライン診療の適切な実施に関しての指針」に沿って診療を行う体制を有する保険医療機関であること。
(1)の「十分な体制」とは、必要性に応じて対面診療を提供可能、かつ緊急性に応じて他保険医療機関と連携可能な体制のことを指します。
届出を行うことで、医療機関はオンライン診療による診療報酬請求が可能になります。
ステップ3. オンライン診療システムの選定や機材購入
ここまで準備が整ったら、オンライン診療システムの選定や必要機材を購入しましょう。
オンライン診療システムとして使用できる汎用サービスと、専用のシステムは以下のように大別されます。
メリット |
デメリット |
|
---|---|---|
汎用サービス(ZoomやFace Timeなど) |
低コスト、もしくは無料 |
次回予約や決済などのサービスはない |
オンライン診療専用システム |
予約・問診票作成・決済・処方箋作成など、包括的なサービスあり |
導入費用・月額利用料・決済手数料などのコストあり |
無駄なコストのかからない汎用サービスは一見お得ですが、あくまでコミュニケーションツールに過ぎないため、本人確認の方法、予約方法や決済方法など多くのことを自身で決める必要があります。
一方で、オンライン診療のために開発されたオンライン診療専用システムであれば、コストはかかるものの、多くのサービスが付帯されており、利便性や安全性の面では有利です。
オンライン診療専用システムはたくさんのメーカーから提供されているため、前項で示した比較ポイントを参考に、自院の規模やニーズに見合ったシステムを選びましょう。
ステップ4. 合意取得と診療計画書の作成
実際にオンライン診療を行う場合、事前に医師患者双方での合意取得と診療計画書を作成する必要があります。
合意取得に用いる同意書
合意取得に用いる同意書には、オンライン診療の利点や不利益などを記載し、患者に対して十分な情報を提供した上で、患者の合意を得る必要があります。
診療計画書
診療計画書には、以下の内容を患者個々人の状態に合わせて作成し、やはり双方の合意が必要です。
- 具体的な診療内容
- 受診頻度
- 対面診療への切り替えの条件
- 急変時の対応 など
なお、診療計画は情報を正確に伝えるために文書・メールなどで同意内容を患者に伝えることが望ましいとされています。しかし、患者の不利益とならない限りにおいては、診療計画の内容を口頭で伝えることも可能とされています。
まとめ
この記事では、オンライン診療のメリット・デメリットや選び方、実際の導入方法を解説しました。
これからの医療現場では、少ない人的資源で多くの患者をこれまで以上に効率よく診療する必要があるため、オンライン診療による業務効率化は課題解決の糸口となります。
多くのメーカーがさまざまなシステムを提供しているため、本記事を参考に比較検討し、自院のニーズにあったシステムを選ぶことが重要です。
ぜひこれを機会に、オンライン診療を導入してより効率的な医療サービスを提供しましょう。