
AI画像診断とは?医療現場への導入メリットや課題、活用事例、今後の展開を徹底解説!
AI(人工知能)によって医療の質の向上を目指す取り組みを医療AIと呼び、特に画像診断AIをはじめとし、医療分野でもAIの活用が急速に進み、診療の質と効率を大きく変えつつあります。
AIの活用は医師の業務負担軽減や地域間格差の是正などさまざまなメリットが期待される一方で、信頼性や法整備など、さまざまなデメリット・課題も残されています。
本記事では、AI画像診断の基本からメリット・デメリット、実際の医療現場での活用事例、今後の展望までを医師監修で詳しく解説します。
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医療分野におけるAI活用とは?

医療分野におけるAIの活用や実用化は、介護支援や手術支援などさまざまな分野で日々進んでいます。
厚生労働省によれば、AI技術が比較的実用化しやすい医療領域は、下記の4つとされています。
(参考資料:厚生労働省「保健医療分野におけるAI開発の方向性について」)
- 画像診断支援
- ゲノム医療
- 診断・治療支援
- 医薬品開発
画像診断支援
画像診断支援の領域ではAIの活用が進んでおり、2016年には病理所見から病理医とAIが乳がん転移の判別を競うコンテストにおいて、AIは病理医を大幅に上回る成績を上げ、話題になりました。
また、2024年末に行われたRSNA(Radiological Society of North Americaの略)・北米放射線学会の総会でも、AIは大きなテーマとなっていました。
画像診断支援に関しては、次章以降でさらに詳しく解説していきます。
ゲノム医療
ゲノム医療とは、がん患者の遺伝子変異を解析し、患者一人ひとりの病気の発症リスクや薬への反応性を予測し、最適な医療を提供する技術です。この際、解析した遺伝子情報を過去の大量のデータベースと照らし合わせる必要がありますが、この作業をAIが代行することで作業時間の大幅な短縮が期待できます。
診断・治療支援
診断・治療支援の分野では、AIが過去の膨大なデータから患者の病状に合致する病気の診断や、最適な治療計画の立案を行い、診療を支援してくれます。
医薬品開発
従来の医薬品開発では、創薬ターゲット(標的とすべき病気の原因)を研究者が手探りで推定し、効果のあるであろう新薬を開発後も繰り返し動物実験を行う必要があるため、開発には膨大な時間・労力・資金が必要でした。しかし、世界中の膨大な数の論文や遺伝子情報をAIが正確に分析することで、適切な創薬ターゲットを推定できるため、開発にかかる時間やコストを大幅に削減可能です。
画像診断AIとは?

画像診断AIとは、人工知能であるAIを利用して医療画像(X線やCT・MRI など)の解析や病変の検出を行う技術のことです。AIは膨大な画像データを学習し、人間の医師が経験的に見分けてきた「異常の特徴」や「疾患のパターン」を自動で抽出できます。近年では、AIが示す診断結果をもとに医師が最終判断を下すAIを活用した診断支援が世界的に広がっています。
高い精度を誇る画像診断AIの開発は急速に進んでおり、臨床現場においても急速な広まりを見せています。そのAI技術を適切かつ効率的に管理するため、厚生労働省は2024年度の診療報酬改定において、「画像診断管理加算3もしくは4」を算定するために必要な施設基準の中に、「画像人工知能安全精度管理」(※)と呼ばれる基準を新たに設けました。
※「画像人工知能安全精度管理」とは、関係学会に定める指針に基づいて、人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの適切な安全管理を行っていることを指します。
このように、管理体制を含めた画像診断AI普及の流れは今後も加速していくことが予想されます。
AIの診断精度を高める「ディープラーニング」とは?
AIは、大量のデータから学習することで知識や経験を備え、規則性や関連性を見いだして正確に判断や予測を行えるようになるため、病変部位の判断や診断を正確に下すことができます。
AIの学習方法は主に下記の2つです。
- 機械学習:対象を認識する際の着目点を人が設定する必要があり、思考は単層的
- 深層学習(ディープラーニング):対象を認識する際の着目点をAIが自ら学習して設定するため、思考は多層的
例えば、目の前を通過する動物が「猫」であると認識するために、我々人間は全体的なフォルムや色、輪郭、動きなどを見て多層的に判断します。
一方で、機械学習したAIの場合、人がAIに「耳の形や色に注意」と着目点を設定し、過去のデータと目の前の動物の「耳の形や色」を照らし合わせることで猫と判断します。つまり、着目点を人間が設定する必要があり、それ故に単層的な思考での判断しかできません。
しかし、ディープラーニングを行ったAIの場合、人の脳と同様に着目点の設定や組み合わせを自らが考えて決定・変更するため、より多層的な思考の元に判断が下されます。
このディープラーニングの技術は近年飛躍的に向上しており、特に画像診断領域はAIのディープラーニングとの親和性が高く、ディープラーニングを活用することで画像の異常所見や病変の抽出を可能としています。(参考資料:特許庁「画像診断機器におけるAIの応用 」)
画像診断AIが注目される背景は、医師不足と業務負担の軽減
画像診断AIが注目される最大の理由は、医師不足と業務量の増大です。
日本は人口100万人あたりのCT・MRI保有台数が世界最多クラスである一方、放射線科医の数は先進国の中でも極めて少なく、一人あたりの読影件数が年々増加しています。
こうした過重労働に加え、医師の働き方改革による時間的制約もあり、効率的な診断体制の確立が急務です。画像診断AIは、医師に代わる存在ではなく「医師を支援する存在」となり、以下のような課題を解決する効果が期待されています。
- 読影時間の短縮や作業効率の向上
- 見逃し防止による診療の質向上
- 地方・夜間医療での診断格差是正
医療用画像診断AIを導入するメリット

医療用画像診断AIのメリットは主に下記の3つです。
- 作業効率の向上による労働負担の軽減
- 診断精度の向上
- 病院経営の改善
メリット1. 作業効率の向上による労働負担の軽減
医療用画像診断AIの最大のメリットは、作業効率の向上と、それによる労働負担の軽減です。
日本は現在、検査画像の読影を行う読影医の労働負担が大きな課題となっており、その背景には下記のような要因が挙げられます。(参考資料:日本医学放射線学会「放射線科医の数と業務量の国際比較 -日本放射線科専門医会ワーキンググループ報告」 )
- 人口100万人あたりのCT・MRI装置数が世界でも群を抜いて多い
- 人口100万人あたりの放射線科医数が27人と、国際的に非常に少ない
- 放射線科医一人当たりの業務量が世界最大
AIが読影業務を代行したり、読影レポートを自動作成してくれることで、作業効率が大幅に向上し、読影医の労働負担軽減が期待されます。
メリット2. 診断精度の向上と見落とし防止
医療用画像診断AIのメリットの1つが、診断精度の向上です。医師が見落としてしまう可能性のある小さい病変もAIなら自動で検出できるため、見落としや見逃しが減る可能性があります。
さらに、医師が読影した後にAIを使うことでWチェックも可能であり、より精度の高い診断が可能です。
実際に、胸部レントゲン写真の読影能力を読影医とAIで競う大規模研究では、正常所見の胸部レントゲン写真54,221枚と異常所見の胸部レントゲン写真35,613枚を対象とし、AIが全ての評価項目(感度や特異度など)で有意なパフォーマンスを示しました。(参考資料:National Library of Medicine「Development and Validation of a Deep Learning–Based Automated Detection Algorithm for Major Thoracic Diseases on Chest Radiographs 」)
医療用画像診断AIの高い診断精度を用いれば、読影医不在の医療過疎地や地方でも高い診断レベルを保てるため、医療の地域間格差の是正にも有用です。
地域医療連携に関する以下の記事も参考にしてください。
メリット3. コスト削減への貢献による経営改善
医療用画像診断AIを導入することで、中長期的には病院経営の改善にも寄与します。
医療用画像診断AIを導入する際には設備投資など初期費用がかかりますが、読影時間短縮に伴う人件費の削減や、疾病の重症化予防による医療費抑制効果が期待でき、長期的にはコストを削減できる可能性があります。(参考資料:JCR|日本放射線科専門医会・医会「Japan Radiology Assessment 2024 〜画像診断編〜」)
コスト削減の具体的な方法については、以下の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。
医療用画像診断AIのデメリット・課題
医療用画像診断AIのデメリットや課題は主に下記の通りです。
- 導入コストとシステム連携
- AIの社会的信頼性と責任の所在
- ビッグデータの収集とアノテーション作業の負担
デメリット・課題1. 導入コストとシステム連携
医療用画像診断AIは長期的にはコスト削減が期待できますが、導入にはコストがかかります。
また、院内で使用しているPACSなどの画像管理システムと依頼送信端末の連携や、読影レポートを院内システムに反映させるための連携が必要となり、それぞれにコストが発生します。
特に小規模な医療機関では、この導入コストが足枷となって導入に踏み切れない場合が多いようです。
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デメリット・課題2. AIの社会的信頼性と責任の所在
医療用画像診断AIは、社会的信頼や責任能力が乏しい点もデメリットと言えます。
AIは人間とほとんど同じ精度で診断可能な一方、その診断の根拠を説明することが難しく、病気の患者本人や家族から十分な信頼を得られない可能性があります。診断内容における根拠の抽出が今後の課題であり、「説明可能なAI」の開発が求められています。
デメリット・課題3. ビッグデータの収集とアノテーション作業の負担
AI画像診断の精度を高めるためには、ディープラーニングによる学習が欠かせません。この学習を成立させるには、以下の2点が必要となります。
膨大な医療画像データ(ビッグデータ)の収集
AIが正確に判断できるようになるためのアノテーション作業
しかし、単一の医療機関やIT企業だけでは、AIのディープラーニングに必要十分量のビッグデータを確保するのは困難です。この課題を解決するため、日本医学放射線学会では全国規模の医用画像を収集する画像診断ナショナルデータベース、Japan Medical Image Database(略称「J-MID」)の構築を進めています。
また、収集した画像データには、医師の所見を付与するアノテーション作業が必要となります。
アノテーション作業とは、例えばAIが胸部CT画像の陰影を読影する際、どの画像が結節で、どの画像が腫瘍かといった所見をラベル付することを指します。しかし、データ量が膨大になるほど、当然この作業負担は膨らみます。
こうした課題を背景に、最近ではアノテーション作業を必要としない新たな学習法の研究が進められており、これらの技術が実用化することで、より効率的にAI画像診断の発展が期待されます。
医療現場での画像診断AIの活用事例

画像診断AIは画像診断のみならず、画像から得られた情報から最適な治療計画の立案を行ったり、治療効果の判定など、さまざまな活用法があります。
ここでは、実際に行われている活用事例を3つ紹介します。
- 胸部X線から心臓弁膜症を診断
- 内視鏡所見の自動解析で早期発見を支援
- がん放射線治療計画支援で医師の負担を軽減
事例1. 胸部X線から心臓弁膜症を診断
大阪公立大学の研究では、AIを活用して胸部X線から心機能の評価や心臓弁膜症の分類を高精度で推定するモデルの開発に成功しました。(参考資料:大阪公立大学 プレスリリースより)
この研究では、2013〜2021年の間に4施設から胸部X線画像22,551枚と心臓エコー検査結果22,551回のデータを収集し、3施設でAIモデルの訓練と内部検証、1施設で外部検証を実施しています。
その結果、AI診断モデルの能力を示す指標の「AUC」数値(1に近いほど診断能力が高い)は、それぞれの評価項目で下記の通りです。
- 心機能評価:左室駆出率を用いて評価し、カットオフ 40%でAUCは0.92
- 心臓弁膜症評価:AUCは0.83~0.92
いずれも高い精度を誇っており、このシステムが普及することで、診断の効率化や専門医不在の地域での診断精度の向上が期待できます。
事例2. 内視鏡所見の自動解析で早期発見を支援
国立がん研究センターと日本電気株式会社は、大腸内視鏡検査中にリアルタイムでAIが所見を診断できるシステムを共同開発しました。
国立がん研究センターの所有する1万病変以上の早期大腸がん及び前がん病変の内視鏡画像をAIに学習させ、大腸内視鏡検査中にAIが病変を疑う部位を発見すると、通知音と円マークで病変の検出を通知してくれるシステムです。(参考資料:国立がん研究センター プレスリリースより)
AIによる病変の検出精度は、隆起型の病変に対しては経験豊富な内視鏡医と同程度であり、経験の浅い医師4名がこのAIシステムを使用したところ、表面型の病変の検出が6%も高くなったそうです。
事例3. がん放射線治療計画支援で医師の負担を軽減
大阪大学を中心とする研究チームは、AI機能を搭載した放射線治療計画支援装置「Ai-Seg」を開発しました。(参考資料:大阪大学 研究専用ポータルサイト より)
がんの放射線治療では、がん周辺の正常細胞を極力被曝させないように腫瘍の形状に合わせて正確に照射する必要があります。そのためには、事前に臓器の領域データを作成する必要がありますが、この作業は患者あたり数時間程度要します。
しかし、Ai-Segを活用すれば、医師の経験年数による技術的な差を埋めることができ、また領域データはなんとわずか数分で作成可能になると発表されています。
Ai-Segの普及によって、医療従事者の負担軽減や対応可能な患者数の増加が期待できます。
画像診断AIの今後とは?医療現場にもたらす変革と展望

画像診断AIは医療の質を高め、医師の業務負担を軽減する一方で、信頼性や法整備などの課題も残されています。
今後、医療分野にてAIがさらに進化を遂げれば、医療現場の働き方や診断体制に大きな変革が生じると考えられます。ここでは、その一端を解説いたします。
AIの導入により、医師の働き方改革が一層進む
AI画像診断は現時点では、医師の最終判断を支援する補助的ツールとして活用されています。
AIが誤った診断を下しても責任を負うことはできないため、あくまでも臨床現場では医師の判断が中心であり、AIの活用法はまだまだ限定的です。
現在、医療用画像診断AIの運用形態は、下記の3タイプに分類されます。
- セカンドリーダー型:医師が読影したものをAIがダブルチェックする
- コンカレントリーダー型:医師とAIが同時に読影する
- ファーストリーダー型:医師の読影前にAIが診断し、医師がダブルチェックとして読影を実施
(参考資料:兵庫県保険医協会「AI画像診断支援の現状と課題~放射線科医は絶滅危惧種か??~ 」)
もちろん、業務効率の観点では、ファーストリーダー型が最も効果的ですが、現時点で薬事承認を受けている多くのAI診断支援ソフトウェアは、ほとんどがセカンドリーダー型として認証されています。
今後、臨床現場での実績と信頼事例が積み重なれば、AIが一次読影を担うケースも増え、放射線科医の働き方が変化していく可能性があります。
医師の働き方に関する解説は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
AIの新たな学習技術により、稀な疾患の診断を前進させる
従来の画像診断AIを学習させるためのディープラーニングでは、大量の画像データとアノテーション作業が必要でした。画像診断AIの更なる進化に向けては、データ収集やアノテーション作業の負担を軽減できる新たな学習技術がポイントとなり、近年は下記のような学習法のAI開発が注目されています。
- 教師なし学習:アノテーション(正解が付与)されていないデータから特徴を抽出して学習する
- 自己教師あり学習:アノテーション(正解が付与)されていないデータに対して、AI自ら正解を作り出して学習する
どちらも負担の大きくなるアノテーション作業を必要とせず、限られたデータでも高精度な学習が可能となります。その結果、症例数が少なく、大量のデータ収集が難しい希少疾患や初期病変など、稀な疾患へのAI画像診断の促進が期待されます。
画像診断AIに関するよくある質問
Q. 画像診断AIは医師の代わりになりますか?
A. 現時点では、画像診断AIは医師の代わりではなく、診断を支援する補助ツールとして読影の効率化や見落とし防止に寄与する存在と言えます。
AIが誤った診断を下しても責任を負うことはできず、最終的な判断は必ず医師が行います。
以下の記事でも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
Q. 医療現場で画像診断AIを導入するメリットは何ですか?
A. 主なメリットは、作業効率の向上・診断精度の向上・病院経営の改善の3点と言えます。
AIが読影やレポート作成を自動化することで、医師の負担を軽減し、見落としを防ぎます。さらに、読影時間の短縮による人件費削減や、疾病の重症化予防によるコスト抑制も期待できます。
Q.画像診断AIの導入にはどのような課題がありますか?
A. 主な課題は、導入コスト・信頼性・データ整備の3つです。初期投資やシステム連携のコストに加え、AIの診断根拠を説明できる技術の確立が求められています。また、現状の画像診断AIの学習精度向上には、大量の医療画像データとアノテーション作業が必要であり、効率的なデータ収集体制の構築が課題とされています。
Q. 「LOOKREC」では、AIによる画像診断機能はありますか?
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まとめ
画像診断AIは診断精度の向上や医師の業務効率化を実現する重要な技術です。今後の日本では、少子高齢化に伴う医療需給の逼迫や地域間格差の深刻化が予想されるため、AIによる診療支援の必要性はさらに増していくでしょう。
一方で、AIの責任所在の課題なども残されており、最終診断の判断を下すのはあくまでも医師の役割であることは忘れてはいけません。画像診断AIを「医師の判断を支える存在」として位置付けながら、自院の診療体制にあった形で導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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