AI画像診断のメリット・デメリットを解説!医療現場での活用事例や今後の課題も紹介
農業や製造業など、近年さまざまな分野においてAI(人工知能)の応用が進んでおり、医療業界もその例外ではありません。
AIによって医療の質の向上を目指す取り組みを医療AIと呼び、診断や治療計画の立案・新薬の開発・介護など、医療におけるさまざまなシーンで利用され始めています。
特に画像診断の領域ではAIの活用が進んでおり、2016年には病理所見から病理医とAIが乳がん転移の判別を競うコンテストにおいて、AIは病理医を大幅に上回る成績を上げ、話題になりました。(参考資料:厚生労働省「保健医療分野におけるAI開発の方向性について」)
AIの活用は医師の業務負担軽減や地域間格差の是正など、さまざまなメリットが期待される一方で、信頼性や法整備など、さまざまなデメリット・課題も少なくありません。
そこで、この記事では画像診断AIのメリットやデメリット・課題、実際の活用事例などを紹介します。この記事を読むことで、画像診断AIについて理解でき、有効活用するためのリテラシーを得られるでしょう。
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目次[非表示]
- 1.画像診断AIとは
- 1.1.AI技術が活用できる医療領域とは
- 2.医療用画像診断AIのメリット
- 2.1.メリット1. 作業効率の向上による労働負担の軽減
- 2.2.メリット2. 診断精度の向上
- 2.3.メリット3. 病院経営の改善
- 3.医療用画像診断AIのデメリット
- 4.画像診断AIの活用事例
- 4.1.事例1. 胸部X線から心臓弁膜症を診断
- 4.2.事例2. 内視鏡所見の自動解析
- 4.3.事例3. がん放射線治療計画支援
- 5.画像診断AI技術の課題
- 5.1.課題1. 診断の根拠が不透明
- 5.2.課題2. ビッグデータの収集が困難
- 5.3.課題3. アノテーション作業の負担が大きい
- 6.まとめ
画像診断AIとは
画像診断AIとは、人工知能であるAIを利用して医療画像(X線やCT・MRI など)の解析や病変の検出を行う技術のことです。
AIは、大量のデータから学習することで知識や経験を備え、規則性や関連性を見いだして正確に判断や予測を行えるようになるため、病変部位の判断や診断を正確に下すことができます。
AIの学習方法は主に下記の2つです。
- 機械学習:対象を認識する際の着目点を人が設定する必要があり、思考は単層的
- 深層学習(ディープランニング):対象を認識する際の着目点をAIが自ら学習して設定するため、思考は多層的
例えば、目の前を通過する動物が「猫」であると認識するために、我々人間は全体的なフォルムや色、輪郭、動きなどを見て多層的に判断します。
一方で、機械学習したAIの場合、人がAIに「耳の形や色に注意」と着目点を設定し、過去のデータと目の前の動物の「耳の形や色」を照らし合わせることで猫と判断します。
つまり、着目点を人間が設定する必要があり、それ故に単層的な思考での判断しかできません。
しかし、ディープランニングを行ったAIの場合、人の脳と同様に着目点の設定や組み合わせを自らが考えて決定・変更するため、より多層的な思考の元に判断が下されます。
このディープランニングの技術は近年飛躍的に向上しており、特に画像診断領域はAIのディープランニングとの親和性が高く、ディープランニングを活用することで画像の異常所見や病変の抽出を可能としています。(参考資料:特許庁「画像診断機器におけるAIの応用 」)
AI技術が活用できる医療領域とは
厚生労働省によれば、AI技術が比較的実用化しやすい医療領域は、画像診断支援を含む下記の4つです。
- 画像診断支援
- ゲノム医療
- 診断・治療支援
- 医薬品開発
ゲノム医療とは、がん患者の遺伝子変異を解析し、患者一人ひとりの病気の発症リスクや薬への反応性を予測し、最適な医療を提供する技術です。
この際、解析した遺伝子情報を過去の大量のデータベースと照らし合わせる必要がありますが、この作業をAIが代行することで作業時間の大幅な短縮が期待できます。
診断・治療支援の分野では、AIが過去の膨大なデータから患者の病状に合致する病気の診断や、最適な治療計画の立案を行い、診療を支援してくれます。
また、従来の医薬品開発では、創薬ターゲット(標的とすべき病気の原因)を研究者が手探りで推定し、効果のあるであろう新薬を開発後も繰り返し動物実験を行う必要があるため、開発には膨大な時間・労力・資金が必要でした。
しかし、世界中の膨大な数の論文や遺伝子情報をAIが正確に分析することで、適切な創薬ターゲットを推定できるため、開発にかかる時間やコストを大幅に削減可能です。
これ以外にも、介護支援や手術支援など、さまざまな医療分野でAIの実用化が進んでいます。
医療用画像診断AIのメリット
医療用画像診断AIのメリットは主に下記の3つです。
- 作業効率の向上による労働負担の軽減
- 診断精度の向上
- 病院経営の改善
メリット1. 作業効率の向上による労働負担の軽減
医療用画像診断AIの最大のメリットは、作業効率の向上と、それによる労働負担の軽減です。
日本は現在、検査画像の読影を行う読影医の労働負担が大きな課題となっており、その背景には下記のような要因が挙げられます。(参考資料:日本医学放射線学会「放射線科医の数と業務量の国際比較 -日本放射線科専門医会ワーキンググループ報告」 )
- 人口100万人あたりのCT・MRI装置数が世界でも群を抜いて多い
- 人口100万人あたりの放射線科医数が27人と、国際的に非常に少ない
- 放射線科医一人当たりの業務量が世界最大
AIが読影業務を代行したり、読影レポートを自動作成してくれることで、作業効率が大幅に向上し、読影医の労働負担軽減が期待されます。
メリット2. 診断精度の向上
医療用画像診断AIのメリットの1つが、診断精度の向上です。
医師が見落としてしまう可能性のある小さい病変もAIなら自動で検出できるため、見落としや見逃しが減る可能性があります。
さらに、医師が読影した後にAIを使うことでWチェックも可能であり、より精度の高い診断が可能です。
実際に、胸部レントゲン写真の読影能力を読影医とAIで競う大規模研究では、正常所見の胸部レントゲン写真54,221枚と異常所見の胸部レントゲン写真35,613枚を対象とし、AIが全ての評価項目(感度や特異度など)で有意なパフォーマンスを示しました。(参考資料:National Library of Medicine「Development and Validation of a Deep Learning–Based Automated Detection Algorithm for Major Thoracic Diseases on Chest Radiographs 」)
医療用画像診断AIの高い診断精度を用いれば、読影医不在の医療過疎地や地方でも高い診断レベルを保てるため、医療の地域間格差の是正にも有用です。
メリット3. 病院経営の改善
医療用画像診断AIを導入することで、長期的には病院経営の改善を目指せます。
医療用画像診断AIを導入する際には設備投資など初期費用がかかりますが、読影時間短縮に伴う人件費の削減や、疾病の重症化予防による医療費抑制効果が期待でき、長期的にはコストを削減できる可能性があります。(参考資料:JCR|日本放射線科専門医会・医会「Japan Radiology Assessment 2024 〜画像診断編〜」)
医療用画像診断AIのデメリット
医療用画像診断AIのデメリットは主に下記の2つです。
- 導入コストがかかる
- 社会的信頼や責任能力が乏しい
デメリット1. 導入コストがかかる
医療用画像診断AIは長期的にはコスト削減が期待できますが、導入にはコストがかかります。
院内で使用しているPACSなどの画像管理システムと依頼送信端末の連携や、読影レポートを院内システムに反映させるための連携が必要であり、それぞれにコストが発生します。
特に小規模な医療機関では、この導入コストが足枷となって導入に踏み切れない場合が多いようです。
デメリット2. 社会的信頼や責任能力が乏しい
医療用画像診断AIは、社会的信頼や責任能力が乏しい点もデメリットです。
AIの感度や特異度は100%ではなく、なぜその診断を下したのか根拠を示すこともできないため、病気の患者・家族から十分な信頼を得られない可能性があります。
また、AIの診断にミスがあった場合、AI自体が責任を取ることはできないため、臨床現場における医療用画像診断AIの活用法は限定的です。
医療用画像診断AIの活用法は下記の3つに大別されます。(参考資料:兵庫県保険医協会「AI画像診断支援の現状と課題~放射線科医は絶滅危惧種か??~ 」)
- セカンドリーダー型:医師が読影したものをAIがダブルチェックする
- コンカレントリーダー型:医師とAIが同時に読影する
- ファーストリーダー型:AIが読影したものを医師がダブルチェックする
現時点で薬事承認されているAI診断支援ソフトウェアはほとんどがセカンドリーダー型として認証されています。
今後、成功事例を重ねていくことで社会的信頼を勝ち得ていけば、その活用法も変化してく可能性があるでしょう。
画像診断AIの活用事例
画像診断AIは画像診断のみならず、画像から得られた情報から最適な治療計画の立案を行ったり、治療効果の判定など、さまざまな活用法があります。
ここでは、実際に行われている活用事例を3つ紹介します。
- 胸部X線から心臓弁膜症を診断
- 内視鏡所見の自動解析
- がん放射線治療計画支援
事例1. 胸部X線から心臓弁膜症を診断
大阪公立大学の研究では、AIを活用して胸部X線から心機能の評価や心臓弁膜症の分類を高精度で推定するモデルの開発に成功しました。(参考資料:大阪公立大学 プレスリリースより)
この研究では、2013〜2021年の間に4施設から胸部X線画像22,551枚と心臓エコー検査結果22,551回のデータを収集し、3施設でAIモデルの訓練と内部検証、1施設で外部検証を実施しています。
その結果、AI診断モデルの能力を示す指標の「AUC」数値(1に近いほど診断能力が高い)は、それぞれの評価項目で下記の通りです。
- 心機能評価:左室駆出率を用いて評価し、カットオフ 40%でAUCは0.92
- 心臓弁膜症評価:AUCは0.83~0.92
いずれも高い精度を誇っており、このシステムが普及することで、診断の効率化や専門医不在の地域での診断精度の向上が期待できます。
事例2. 内視鏡所見の自動解析
国立がん研究センターと日本電気株式会社は、大腸内視鏡検査中にリアルタイムでAIが所見を診断できるシステムを共同開発しました。
国立がん研究センターの所有する1万病変以上の早期大腸がん及び前がん病変の内視鏡画像をAIに学習させ、大腸内視鏡検査中にAIが病変を疑う部位を発見すると、通知音と円マークで病変の検出を通知してくれるシステムです。(参考資料:国立がん研究センター プレスリリースより)
AIによる病変の検出精度は、隆起型の病変に対しては経験豊富な内視鏡医と同程度であり、経験の浅い医師4名がこのAIシステムを使用したところ、表面型の病変の検出が6%も高くなったそうです。
事例3. がん放射線治療計画支援
大阪大学を中心とする研究チームは、AI機能を搭載した放射線治療計画支援装置「Ai-Seg」を開発しました。(参考資料:大阪大学 研究専用ポータルサイト より)
がんの放射線治療では、がん周辺の正常細胞を極力被曝させないように腫瘍の形状に合わせて正確に照射する必要があります。
そのためには、事前に臓器の領域データを作成する必要がありますが、この作業は患者あたり数時間程度要します。
そこでAi-Segを活用すれば、医師の経験年数による技術的な差を埋めることができ、また領域データはなんとわずか数分で作成可能です。
AI-Segの普及によって、医療従事者の負担軽減や対応可能な患者数の増加が期待できます。
画像診断AI技術の課題
画像診断AI技術は臨床現場にさまざまなメリットを享受する一方で、前項で挙げたデメリットや課題が多いのも現実です。
今後、さらに画像診断AIが進化するためには下記のような課題の解決が必要です。
- 診断の根拠が不透明
- ビッグデータの収集が困難
- アノテーション作業の負担が大きい
課題1. 診断の根拠が不透明
先述したように、AIは人間とほとんど同じ精度で診断可能な一方、その診断の根拠を説明することができません。
診断内容は患者の命に関わるため、根拠の抽出が今後の課題であり、「説明可能なAI」の開発が求められています。
課題2. ビッグデータの収集が困難
医療用画像診断AIの課題として、ビッグデータの収集が困難である点が挙げられます。
先述したように、AIが検査画像を正確に診断するためにはディープランニングによる学習が必須であり、そのためには大量の医療画像データが必要です。
診断の精度は患者の命にも関わるため、どれだけ質の高い画像を収集できるかが鍵となりますが、IT企業や単一の医療機関ではAIのディープランニングに必要十分量の画像データを確保するのは困難です。
これらの課題解決のため、日本医学放射線学会では全国規模の医用画像を収集する画像診断ナショナルデータベース、Japan Medical Image Database(略称「J-MID」)の構築を目指しています。
課題3. アノテーション作業の負担が大きい
仮に膨大な画像データが収集できたとしても、アノテーション作業の負担は少なくありません。
アノテーション作業とは、それぞれの画像に正解となる情報を付与する作業のことです。
例えば、AIが胸部CT画像の陰影を読影する際、それがただの結節なのか腫瘍なのかを判断するためにはディープランニングが必要であり、ディープランニングに用いる画像には、陰影が結節である画像と、陰影が腫瘍である画像、両方をAIに学習させる必要があります。
そのためには、事前に陰影のある画像を大量に集め、医学的に正しい判断のできる医師が正解となる所見(結節なのか、腫瘍なのか)を付与しなくてはならず、この作業こそアノテーションと呼びます。
AIの正確な診断のためにはビッグデータが必要であり、それに比例してアノテーション作業の負担も大きくなるため、いかにアノテーション作業を効率化できるかが今後の課題です。
これらの課題解決のために、ディープランニングに次ぐ新たなAI学習法として下記のような学習法のAI開発が待たれるところです。
- 教師なし学習:アノテーション(正解が付与)されていないデータから特徴を抽出して学習する
- 自己教師あり学習:アノテーション(正解が付与)されていないデータに対して、AI自ら正解を作り出して学習する
どちらもアノテーションを必要とせず、少ないビッグデータからより精度の高い診断を行えるため、稀な疾患へのAI画像診断の促進が期待されます。
まとめ
この記事では、画像診断AIのメリット・デメリットや実際の活用事例を紹介しました。
実際の医師よりも高い精度を誇る画像診断AIの開発は急速に進んでおり、臨床現場においても急速な広まりを見せています。そのAI技術を適切かつ効率的に管理するため、厚生労働省は2024年度の診療報酬改定において、「画像診断管理加算3もしくは4」を算定するために必要な施設基準の中に、「画像人工知能安全精度管理」(※)と呼ばれる基準を新たに設けました。
※「画像人工知能安全精度管理」とは、関係学会に定める指針に基づいて、人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの適切な安全管理を行っていることを指します。
このように、管理体制を含めた画像診断AI普及の流れは今後も加速していくことが予想されますが、AIは責任能力に乏しく、最終判断を下すのはあくまでも医師の役割であることは忘れてはいけません。
一方で、今後の日本では、少子高齢化に伴う医療需給の逼迫や地域間格差の深刻化が予想されるため、AIによる診療支援の必要性はさらに増していくでしょう。
画像診断AIを活用すれば業務効率化や診断精度の向上が見込めるため、最新技術で業務効率化を図りたい医師は、これを機に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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