医療のクラウド化とは?メリットや医療業界に与える影響を紹介

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政府の推進する医療DXに伴い、近年では医療現場でもさまざまな変化が起きており、その1つが「医療のクラウド化」です。(参考資料:自由民主党政務調査会「医療DX 令和ビジョン2030」の提言
医療のクラウド化には多くのメリットがある一方で、デメリットや参入障壁に目がいき、導入に踏み切れない方も少なくないでしょう。

この記事では、医療のクラウド化の概要や、メリット・デメリット、実際の導入方法などについて解説します。本記事を読むことで、医療のクラウド化に対するよくある疑問や懸念を解消できるため、ぜひ参考にしてください。


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監修者情報:島村泰輝(放射線診断専門医)


目次[非表示]

  1. 1.医療のクラウドとは?
  2. 2.医療クラウドのメリット
    1. 2.1.メリット1. 情報へのアクセス・共有がしやすくなる
    2. 2.2.メリット2. リアルタイムでの情報共有と更新
    3. 2.3.メリット3. コストを削減できる
    4. 2.4.メリット4. 業務効率化につながる
    5. 2.5.メリット5. 情報のセキュリティ性
  3. 3.医療クラウドシステムの種類とそれぞれのメリット
    1. 3.1.電子カルテ
    2. 3.2.医療用画像管理システム PACS
    3. 3.3.オーダリングシステム
    4. 3.4.医事会計システム
  4. 4.医療クラウド導入にてよくある課題と解決策
    1. 4.1.課題1. データセキュリティとプライバシー
    2. 4.2.課題2. サイバーセキュリティ対策と個人情報保護
    3. 4.3.課題3.運用コストと技術的課題
  5. 5.医療クラウド導入に向けた4ステップ
    1. 5.1.ステップ1. 自院のワークフローを可視化する
    2. 5.2.ステップ2. 自施設内で事前に認識を共有する
    3. 5.3.ステップ3. ベンダーからの提案や見積もりを比較検討する
    4. 5.4.ステップ4. 既存システムからの情報の移行
  6. 6.医療クラウドの将来展望と革新
  7. 7.まとめ

医療のクラウドとは?

医療のクラウドとは?

医療クラウドとは、医療に関わるさまざまなデータ(患者カルテ・オーダリング・検査画像・医事会計など)を、インターネット上のクラウドサーバーで一元的に管理・保存するシステムのことです。

多くの医療機関ではいまだに電子カルテや会計システムを独自のシステムで構築しており、病院間や地域・行政レベルでのシステム統合が進んでいないため、多くの非効率に溢れているのが現状です。

一方で、近年では少子高齢化や生産年齢人口の低下に伴う人手不足・医療の過疎化・働き方改革の推進などによって、医療現場では業務効率化が急速に求められています。

医療のクラウド化が進めば、スムーズな情報共有や患者情報へのアクセス性の向上が図れるため、業務効率化が期待できます。

ただし、医療のクラウド化では繊細な患者情報を取り扱うため、3省2ガイドライン(厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」と、経済産業省・総務省の「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」)の準拠が必要です。

ガイドラインは医療データの安全管理を主目的とし、すべての医療機関の医療情報システムにおけるセキュリティ対策などの遵守事項がまとめられています。

患者の個人情報や病院の機密事項の漏洩などを防ぐためにも、ガイドラインを遵守して安全にクラウド化を進める必要があります。

医療クラウドのメリット

メリット

医療クラウドのメリットは主に5つです。

  1. 情報へのアクセス・共有がしやすくなる
  2. リアルタイムでの情報共有と更新
  3. コストを削減できる
  4. 業務効率化につながる
  5. 情報のセキュリティ性

多くのメリットを得られるため、クラウド化に躊躇している方はぜひ参考にしてください。

メリット1. 情報へのアクセス・共有がしやすくなる

患者情報へのアクセス・共有がスムーズになる点が医療クラウドの魅力です。

紙媒体での情報管理や口頭での情報伝達では、データの紛失や人的ミスなどが生じやすい環境でしたが、電子データで管理することでトラブルを防止できます。

異なる診療科や部門間でも同じデータを共有できるため、利便性の向上やそれに伴う業務効率化も期待できます。

メリット2. リアルタイムでの情報共有と更新

医療クラウドでは、リアルタイムでの情報共有と更新が可能です。

これまでは、スポーツ選手の遠征先や旅行先で病気になった場合、医療機関がかかりつけ医に診療情報を取り寄せるなど、無駄なコストが発生していました。

しかし、クラウドに保存された患者情報はインターネット上に保管されるため、アクセス権を持つ人であれば場所や時間を問わず情報の共用・更新ができます。

医療クラウドの基盤が整っていれば、医療機関は迅速に過去の患者情報を取得できるため、患者・病院双方にメリットがあります。

また単一の医療機関以外にも、地域医療連携や病診連携にも役立てられます。

メリット3. コストを削減できる

コストを削減できる点も医療クラウドの魅力です。

これまでは自前でサーバーや通信回線・システムを構築する、いわゆるオンプレミス型のシステムが主流でしたが、初期費用が高額かつ、システムのアップデートやメンテナンスにもコストが発生していました。

医療クラウドの場合、オンプレミス型と比較して初期費用が安価なものが多く、またシステムのアップデートやメンテナンスもベンダーが管理するため、ランニングコストも抑えられます。
また、クラウド化によってカルテや問診票などの各種書類の印刷・保管も不要となるため、さらにコスト削減が可能です。

メリット4. 業務効率化につながる

医療クラウドのメリットとして業務効率化が挙げられます。

クラウド化によって、これまで手作業で行なっていた作業を自動で処理したり、電子的なやり取りによって書類の印刷や運搬の手間が省けるためです。

これまでは他部署や他院から患者情報を取り寄せる手間がありましたが、クラウドであれば患者情報を一瞬で共有できるため取り寄せが不要となります。

また、医師のオーダリング(処方や注射・検査など)と会計システムが一元的にクラウド管理されれば、煩雑な手入力のミスなく会計を行うことが可能であり、これらの作業に充てていた人件費を抑えられる点も魅力です。

メリット5. 情報のセキュリティ性

クラウド化のセキュリティ性にご不安な方も多いかと思いますが、実はクラウド利用の方がセキュリティ性が高いです。

クラウドに保存された患者データは、暗号化技術やアクセス管理機能を持つベンダーのセキュリティシステムによって安全に保護されているため、情報漏洩や不正アクセスを防止できます。

また、紙カルテやオンプレミス型のシステムでは災害時にデータが紛失・破損するリスクがありますが、クラウド管理であればインターネット上に保存されるため、自動でバックアップが可能です。

医療クラウドシステムの種類とそれぞれのメリット

今日の医療現場ではさまざまな分野においてクラウドが実装されており、ここではその代表例を紹介します。

  • 電子カルテ
  • 医療用画像管理システム PACS
  • オーダリングシステム
  • 医事会計システム

電子カルテ

患者の医療データや診療録を記録するカルテもクラウド化が進んでいます。

これまで、電子化された診療録は医療機関に準ずる場所に設置したサーバーで管理する必要がありました。

しかし、2010年に厚生労働省が通知した『「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について』において、民間企業が運用するサーバーでのクラウド管理が認められました。

これにより、インターネットに接続できればどこでも電子カルテにアクセスでき、自宅でもレセプト作成やカルテの閲覧・編集が、より低コスト・高セキュリティで可能となったわけです。

また、それぞれの医療機関が独自のシステムを構築しているのが現状ですが、今後政府が進める電子カルテの標準化が進めば、共通のクラウドで患者情報を共有できるようになります。

厚生労働省によれば、2025年度には標準型電子カルテのα版を提供開始し、2026年度から本格運用される見通しです。

  電子カルテとは?導入によるメリット・デメリットを徹底解説! 多くの病院で導入されている電子カルテですが、「必要ない」「入力が面倒くさくて時間がかかる」「コストがかかる」などの声があるのも事実。開業を検討している先生方は電子カルテの導入、機種選定に悩むことでしょう。   2015年に政府は「日本再興戦略 改訂2015」内で「2020年度までに400床以上の一般病院における電子カルテの全国普及率を90%に引き上げる」と発表しました1)。目標達成に至っていない状況の中、奇しくもコロナ禍で医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目され、強力に推進されることとなりました。   この記事では、電子カルテについて基本的な事項からメリット・デメリットについておさらいしていきます。そしてなぜ今電子カルテが必要とされているのか、特にクラウド型電子カルテが持つ意味について詳しく解説します。 株式会社エムネス

医療用画像管理システム PACS

PACS(Picture Archiving and Communication System)とは、CTやMRI・レントゲン・超音波検査・内視鏡検査などの各種画像をデータ化して一元的に保存・管理するシステムです。

画像のデータ容量は時に膨大なものとなりますが、クラウド型のPACSであればデータ保存のためのストレージの拡張が不要であり、全てインターネット上に保存できます。

また、インターネット上で画像所見を共有できるため、遠隔診断にも有用です。

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オーダリングシステム

オーダリングシステムとは、医師のオーダーした処方や注射・検査・処置などを薬剤師やリハビリテーションなどの各部署に迅速に伝達するためのシステムです。

クラウド化によって下記のようなメリットが得られます。

  • 瞬時に各部署でオーダーを共有し、業務効率化により患者の待ち時間を削減できる
  • 情報の伝達ミスなど、ヒューマンエラーを防止できる

また、電子カルテや医事会計システムと連携することで、コスト請求や会計処理などに伴う人的負担も軽減できます。

医事会計システム

医事会計システムとは、診察内容や施術内容から保険点数や医療費を自動で算出し、会計処理を行うシステムです。

医療費や保険点数は定期的に改訂されるため、計算は非常に複雑かつ専門的知識を要しましたが、クラウド化によって自動計算が可能となり、会計の負担や患者の待ち時間を軽減できます。

またシステムによってはレセプト作成やレセプトチャック・未集金管理なども自動で管理できます。

医療クラウド導入にてよくある課題と解決策

医療クラウド導入にてよくある課題と解決策

医療クラウド導入において、障壁となる課題は主に下記の3つです。

  1. データセキュリティとプライバシー
  2. サイバーセキュリティ対策と個人情報保護
  3. 運用コストと技術的課題

それぞれの解決策も含めて解説します。

課題1. データセキュリティとプライバシー

医療クラウドにはデータセキュリティとプライバシーの面でリスクがあるため、注意が必要です。

クラウド上にデータを保存しているため、IDやパスワードが漏れれば第三者の不正アクセスの可能性があります。

ただし、紙カルテやオンプレミス型のシステムと比較してセキュリティ性は高いことが知られており、データの暗号化やユーザー認証の強化などによって解決できます。

近年のシステムでは、IDとパスワードによるログインに加えて、ワンタイムパスワードや指紋認証などの別の認証方法を追加した「2段階認証」が実装されており、安全性は決して低くありません。

もちろんこれらのメンテナンスは医療機関ではなくプロバイダ側が行うため、専門的な知識を必要としません。

課題2. サイバーセキュリティ対策と個人情報保護

クラウド管理においてはサイバー攻撃によって内部の個人情報が漏洩するリスクがあります。

大量のデータを送りつけてサーバーダウンを狙うDDos攻撃や、ウイルスに感染させて情報を抜き取るマルウェアなどの攻撃が挙げられます。

OSやブラウザを最新に保ち、セキュリティソフトを導入することが解決策です。

課題3.運用コストと技術的課題

従来のオンプレミス型と比較し、クラウドは初期費用が安価な点がメリットでしたが、運用していく上でコストがかさんでいく可能性もあります。

システムの利用内容によっては追加費用が発生する可能性があるためです。

日々進化する技術に対応するための新たなシステムのアップデートや、医療機関の特性に合わない無駄な機能の追加、データ容量の肥大などがその原因です。
そのため、医療クラウド導入においてはまずはスモールスタートで、必要になった時に新たな機能やデータ容量を追加していくと良いでしょう。

医療クラウド導入に向けた4ステップ

医療クラウド導入に向けた4ステップ

実際に医療クラウドを導入する上では、何から始めるべきなのでしょうか?
ここでは、医療クラウド導入の実際のプロセスを4ステップに分けて紹介します。

ステップ1. 自院のワークフローを可視化する

まず初めに、自院のワークフローを可視化することから始めましょう。

現在運用されているデータや書類、それに関わる人やモノ・時間・場所の流れを再確認することで、問題点を洗い出せます。
患者が受診してから診療を受け、最終的に会計して院を出るまでに、人やモノがどのように関わっていて、どこに修正の余地があるのかを再確認するわけです。

ワークフローを可視化できれば、自院により適切なシステムの導入が可能となります。

ステップ2. 自施設内で事前に認識を共有する

次に、自施設内の医療スタッフや事務・設備管理などの各部門で、事前にクラウド導入に対する認識を共有しましょう。

クラウド導入によってどのようなメリットがもたらされ、どのようなリスクが生まれるのか、各部署が事前に把握しておく必要があります。

また、施設規模によって必要となる機能も異なるため、クラウドに期待する機能についても他職種で話し合っておくことが重要です。

ステップ3. ベンダーからの提案や見積もりを比較検討する

次に、複数のベンダーからの提案や見積もりを比較検討しましょう。
ベンダーによって提供しているクラウドの機能や使用感・安全性は異なります。

また、自施設の規模に見合った機能や容量での見積もりを比較することも重要です。

ステップ4. 既存システムからの情報の移行

比較検討した上でベンダーを選定したら、既存システムから医療クラウドへの情報の移行を行います。この作業にもコストが発生するため、見積もり時点で確認しておくと良いでしょう。

また、運用が始まる前に実際に使用する医療従事者への説明会も行っておくと、よりスムーズに導入可能です。

医療クラウドの将来展望と革新

医療クラウド

日本はこれからさらに少子高齢化が深刻化し、医療現場では深刻な人材不足に陥ることは間違いありません。

数少ない人的資源で、より多くの患者に適切な医療を提供するためには業務効率化が必要不可欠です。

そのため、業務効率化を図れる医療のIT化や、AI機械学習・遠隔医療サービスなどの技術革新のニーズは今後さらに高まることが予想されます。

これらの医療技術を実際に医療現場で生かすためには、情報のプラットフォームとして医療クラウドが必要不可欠です。

医療クラウドでさまざまな技術・デバイスを統合し、一元的に患者情報を管理できるようになれば、より良い医療を効率的に供給できるようになるため、今後そのニーズはさらに高まっていくことでしょう。


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まとめ

この記事では医療クラウドの概要やメリット・注意点などについて解説しました。

従来のオンプレミス型から医療クラウドへの移行を検討されている方の中には、セキュリティや導入コストに懸念や不安を抱く方も少なくありません。

しかし、医療クラウドを利用すれば患者情報をインターネット上で一元的に管理可能であり、利便性の向上や業務効率化、コスト削減など多くのメリットをもたらします。

想定される障壁よりも得られるメリットの方が大きく、今後必ず訪れるであろう医療の逼迫に対応するためにも、ぜひこれを機に医療クラウドの導入を検討しましょう。

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H1113(ペンネーム)
H1113(ペンネーム)
2014年に都内の医学部を卒業後、患者様の健康を守るべく臨床医として約10年間医療現場で活動。現在も麻酔科として急性期病院にて勤務。その傍ら執筆や発信活動を開始し、これまでに執筆した医療・健康系の記事は300を超える。

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