病院のコスト削減方法と具体策は?コスト構造やフローもあわせて解説!

病院 コスト削減方法


厚生労働省「診療報酬改定について」によると診療報酬(※1)のマイナス改定・物価高に伴う資材高騰・人件費の増加・新型コロナウイルス蔓延による受診控えなど、さまざまな要因によって日本の病院経営はより困難なものとなっています。

今後さらに医療現場では人材不足の深刻化が予想され、収益が大きく増やせない現状では、適切なコスト削減が必要不可欠です。

闇雲にコストを削減して、逆に減収減益となる医療機関も少なくないため、適切なコスト削減のためには病院のコスト構造を理解しておく必要があります。

この記事では、病院のコスト削減の重要性や具体的な手法を詳しく解説します。

コスト削減を成功させるためのフローも紹介するため、本書を参考に自院の経営改善を目指しましょう。

監修者情報:島村泰輝(放射線診断専門医)


目次[非表示]

  1. 1.病院におけるコスト削減の重要性
  2. 2.病院のコスト構造
    1. 2.1.医薬品・材料などの原価
    2. 2.2.委託費
    3. 2.3.人件費
    4. 2.4.設備費(減価償却費)
    5. 2.5.その他経費
  3. 3.コスト削減のための具体的戦略と手法
    1. 3.1.医薬品・材料などの原価の最適化とコスト削減
    2. 3.2.委託費の最適化とコスト削減
    3. 3.3.直接人件費の最適化とコスト削減
    4. 3.4.間接人件費の最適化とコスト削減
    5. 3.5.設備費の最適化とコスト削減
    6. 3.6.ITと医療技術の活用
    7. 3.7.組織文化と教育によるコスト意識の醸成
  4. 4.コスト削減のためのフロー
    1. 4.1.ステップ1:コスト削減のためのプロジェクトチームを立ち上げる
    2. 4.2.ステップ2:現状の問題点を把握し、コスト分析を行う
    3. 4.3.ステップ3:優先順位を策定
    4. 4.4.ステップ4:具体的な達成目標を策定
    5. 4.5.ステップ5:成果を評価する
  5. 5.まとめ

病院におけるコスト削減の重要性

コスト削減の重要性

病院における収益は多くの外部要因によって左右されますが、支出は自院の経営判断によってコントロールできる裁量が大きいため、経営改善のためにはコスト削減が重要です。

まず、病院の収益の源泉はなんといっても診療報酬です。

診療報酬は人件費に当たる本体部分と、材料価格を含む薬価価格の2つで構成されており、直近2024年度診療報酬改定では本体部分は+0.88%、薬価価格は-1.00%であり、改定率全体では-0,12%のマイナス改定でした。(参考資料:厚生労働省「診療報酬改定について」 より)

なんと、過去6回の診療報酬は連続でマイナス改定であり、病院の収益源が削がれているのが現状です。(参考ページ:「全国保険医団体連合会 【2024年診療報酬改定】インフレ率2.4%では実質1.62%のマイナス改定」より)

さらに、新型コロナウイルス蔓延による受診控えによって患者数が減少し、収益が下がってしまった病院も少なくありません。

収益を上げるために、診療報酬の算定や施設基準の取得などの経営努力を重ねている医療機関は多いと思いますが、診療報酬改定の内容や患者数などの外部要因に大きく影響されるため、自院でコントロールできる裁量は小さいです。

一方で、支出に目を向けると、人件費増大・ロシアウクライナ戦争による資材高騰・消費税増税・電気代の高騰など、さまざまな要因で増加傾向ですが、人件費や設備費など自院の経営判断でコントロールできる裁量も大きいです。

全日本病院協会の「2023年度 病院経営定期調査 概要版」によれば、赤字経営の病院の割合が2021年度で65.8%であったのに対し、2022年度は72.8%にまで増加しており、今後生き残っていくためには、適切なコスト削減が急務といえます。

病院のコスト構造

病院のコスト構造


適切なコスト削減のためには病院のコスト構造を理解しておく必要があり、病院で発生するコストは主に下記の通りです。

  • 医薬品・材料などの原価
  • 委託費
  • 人件費
  • 設備費(減価償却費)
  • その他経費

医薬品・材料などの原価

医薬品・材料などの原価とは、診療に用いる医薬品、レントゲンフィルム・ガーゼ・注射針・聴診器などの診療材料費、給食材料費などを指します。

対医業収益比率は一般病院で約20%と大きな割合を占めますが、安易にコスト削減すると診療行為にも支障をきたし、結果として減収にもつながるため、注意が必要です。

委託費

委託費とは、病院が一部業務を外注する費用のことであり、検査委託費、給食委託費、清掃委託費、医事委託費、警備委託費、寝具委託費などが含まれます。

このうち、検査委託費だけは医薬品・材料などの原価と同様、コスト削減すると収益や患者数に影響する、いわゆる変動費です。

人件費

人件費とは、普段従業員に支払う給与や賞与、退職金以外にも、福利厚生費や人材教育のためのコストも含みます。

対医業収益比率は一般病院で約50%と最も大きな割合を占めますが、安易にコスト削減すると病院の収益そのものを大幅に低下させる可能性もあるため、注意が必要です。

設備費(減価償却費)

設備費とは、病院の建物や医療機器・電子カルテなどの情報システムに伴う費用のことで、主に下記の4つに分類できます。

  1. 減価償却費
  2. リース料
  3. 賃貸料
  4. 保守料

対医業収益比率は一般病院で約5%であり、減価償却費やリース料は固定資産を購入した段階で決まってしまうため、基本的には削減の対象となりません。

一方で、駐車場や社員寮の賃貸料、医療機器などのメンテナンスに伴う保守料はコスト削減の余地があります。

その他経費

その他経費として、旅費交通費、職員被服費、通信費、広告宣伝費、消耗器具備品費、会議費、水道光熱費、保険料、交際費、諸会費、租税公課、雑費などが挙げられます。

対医業収益比率は一般病院で約14%であり、特に通信費、水道光熱費、保険料はコスト削減の効果が得られやすい費用です。

コスト削減のための具体的戦略と手法

コスト削減のための具体的戦略と手法

病院のコスト構造を理解した上で、ここではそれぞれのコスト削減の具体的戦略と手法を紹介します。

医薬品・材料などの原価の最適化とコスト削減

医薬品・材料などの原価を最適化するためには、下記の2つの方法があります。

  1. 仕入れ単価の最適化
  2. 仕入れる在庫数の見直し

医療卸売業者と長年の取引を行っていると、気付かぬうちに市場価格から乖離した仕入れ価格で購入している可能性があります。卸業者との関係性に留意しつつ仕入れ単価を見直し、改めて価格交渉を行うことが重要です。

また、過剰に仕入れて余った在庫は管理に手間もかかるため、適正な在庫数の発注を心がけましょう。

一方で、医薬品・材料などの原価は変動費であるため、過剰なコスト削減は診療行為に支障をきたし、減収のリスクが上がるため注意が必要です。

委託費の最適化とコスト削減

委託費を最適化するためには、より良いサービスを、より安価で提供してくれる委託業者の再選定を行うことが重要です。

既存の契約更新の時期から逆算して、早めの時期から着手する必要があります。

価格だけで選定を行うと、サービスの質が低下して利用者の満足度が低下してしまうため、選定においては価格と品質のバランスを重視しましょう。

また、関連する部門の職員と事前にしっかり情報共有を行い、突然の仕様の変更に現場職員が混乱しないように配慮しましょう。

直接人件費の最適化とコスト削減

人件費は、その性質によって下記の2つに分類できます。

  1. 直接人件費:医師や看護師など、患者数や収益に直接関与する職種への人件費
  2. 間接人件費:総務や経理など、患者数や収益に直接関与しない職種への人件費

このうち、直接人件費のコスト削減はそのまま病院の減収につながる可能性があるため、慎重を期すべきです。

そこで、直接人件費を最適化するためには、下記の2つの方法があります。

  1. 業務効率化を図り残業時間を削減する
  2. 院内での適切な人員配置

医療DXや医療クラークを取り入れることで医師や看護師の業務が効率化され、残業時間を短縮でき、人件費を削減できます。

また、院内の適切な人員配置を行うことで業務効率化と人件費削減が目指せるため、改めて院内の状況を見直すべきです。


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間接人件費の最適化とコスト削減

一方で、間接人件費を最適化するためには、業務効率化を図って人員削減を検討すべきです。

これまでアナログで行ってきた様々な事務作業は、デジタル化・IT化の促進によって大幅に効率化されてきているため、これらを自院に導入することで人件費削減を目指せます。

会計の自動化・AIによる受付対応・紙媒体のデジタル化などによって、これまでより少ない人員での経営が可能となります。

設備費の最適化とコスト削減

設備費を最適化するためには、医療機器の保守料を見直すべきです。

多くの医療機器は購入時の費用はもちろん、保守料などのランニングコストが負担となります。

そこで、既存システムの電子化・クラウド化を図ることで保守料を圧縮できます。

例えば、従来のオンプレミス型(サーバーが院内に設置されている)電子カルテでは、サーバー設置にさまざまなコストが発生しますが、クラウド型電子カルテであれば保守料の削減が可能です。

また、医療機器が故障した時の補償の契約内容も合わせて見直すと良いでしょう。


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ITと医療技術の活用

コスト削減のためには、IT化や最新の医療技術の活用もおすすめです。

厚生労働省「医療のIT化に係るコスト調査報告書」によれば、医療のIT化によって紙媒体の保存に伴うスペースコストの削減とそれに伴う人件費の削減や、レセプト入力業務などの事務作業軽減による人件費の削減が可能となり、多くの病院で大幅にコスト削減が実現されたそうです。

今後IT化のさらなる促進が予想されるため、自院の規模や需要に見合った技術の導入を検討すると良いでしょう。もし院内だけで検討することが難しければ外部の識者を交えて検討することもおすすめします。


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組織文化と教育によるコスト意識の醸成

最後に、職員全体のコスト意識の醸成も重要です。

経営陣がコスト削減のために努力しても、実際に医療現場で働く職員のコスト意識が低ければ、思ったような成果は得られません。

医療資材の無駄使い・設備の破損・電気や水道の無駄使いなどは、現場レベルでも改善可能です。

意識の変化ひとつで即効性のあるコスト削減が可能となるため、ぜひ職員全体のコスト意識の向上に努めましょう。

コスト削減のためのフロー

コスト削減のフロー

ここでは、実際にコスト削減するためのフローを5ステップで解説します。

  1. コスト削減のためのプロジェクトチームを立ち上げる
  2. 現状の問題点を把握し、コスト分析を行う
  3. 優先順位を策定する
  4. 具体的な達成目標を策定する
  5. 成果を評価する

ステップ1:コスト削減のためのプロジェクトチームを立ち上げる

コスト削減のためのプロジェクトチームを立ち上げましょう。

コスト削減にはさまざまな部門が関与しており、医薬品などの原価のコスト削減には医師や薬剤師、検査であれば技師長、一般経費なら事務長の意見が必要となるため、各部門からコスト削減の担当者を選定してチームを作るべきです。

その上で責任者を決めることで、プロジェクト全体の進行度を把握しやすくなり、各部門の連携も促進されます。

ステップ2:現状の問題点を把握し、コスト分析を行う

次に、自院における問題点を把握し、コスト分析を行いましょう。

コストを分析することで、経営悪化の原因や改善の余地などが見えてきます。

単純に数字だけ出しても実態を把握しにくいため、過去3年のコスト推移・同規模医療機関との比較・診療科同士での比較・対医業収益比率の比較など、細かく分析することが重要です。

ここで大事なのは、この時点でコストが高いところや無駄遣いを見つけても、原因となっているものに対して叱責したり是正措置を行ったりしないことです。あくまでも事実を見つけるのみとして、次のステップへ移ることを優先しましょう。

ステップ3:優先順位を策定

コスト分析によって問題点を抽出したら、どの問題から着手するか優先順位を策定する必要があります。

コストの種類によっては高くても必要なものがあります。しかし、それぞれがそのように主張してしまっては進みません。削減した際に得られる効果の大きさや効果が得られるまでの期間、収益に与える影響は異なるため、どこから着手するのが自院の状態に適切なのか、各部門で検討するべきです。

また、病院全体としての取り組みなのか、部門ごとの取り組みなのかによって優先順位を分けて考えると更に整理されます。
この際、「声の大きい人」の意見が優先されることが無いようにすることが大事です。

ステップ4:具体的な達成目標を策定

コスト削減の優先順位が決まったら、具体的な数値目標とそれに向けた行動計画を策定しましょう。

「経費を10%削減!」とゴールだけ決めても、どのように目標達成するか検討しないと意味がないため、達成可能な目標や期間を具体的に数値として打ち出し、目標達成に必要な行動計画を検討することが重要です。

また、現場の職員が理解・納得していないと意味がないため、これらの行動計画や達成目標は必ず共有するようにしましょう。
コスト削減は誰にとっても大変なことであり、心情的にも気乗りしないことが多いです。丁寧な説明を何回も繰り返すことが大事になります。

ステップ5:成果を評価する

定められた期限を迎えたら、必ず成果を評価しましょう。

得られた成果を職員と共有することで達成感が得られ、仮に思ったような成果が得られなくても、さらなる改善点を抽出し、次の取り組みに活かすことができます。

また、評価される側のプロジェクトチームの責任感を養うこともできるため、必ず取り組みの最後には評価する機会を設けましょう。

まとめ

今回の記事では病院におけるコスト構造や、コスト削減の具体的な方法について解説しました。

医療従事者の賃金上昇、資材高騰など、病院経営は今後さらに困難が予想されるため、無駄なコストを削減していく必要があります。

一方で、闇雲にコスト削減を行うと病院の収益や職員のモチベーション低下につながるため、各コストの性質を理解し、それぞれのコストに対して適切な方法で削減を目指すことが重要です。

それと並行して、職員全体のコスト意識の醸成を行うことが成功の秘訣です。

ぜひ本記事を参考に、病院のコスト削減を成功させ、より良い病院経営を目指しましょう。


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記事監修:島村 泰輝(医師)
記事監修:島村 泰輝(医師)
株式会社エムネス 画像診断専門医 島村 泰輝 2012年 名古屋市立大学 医学部卒業、2019年 名古屋市立大学大学院医学研究科卒業。放射線診断専門医。 大学病院、地域の基幹病院勤務を経て2019年に株式会社エムネスに入職し、遠隔画像診断を行いながら、プロダクトのデザインを医師目線から行う。医学部生を中心とする学生団体MNiSTも監修している。

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