電子カルテとは?導入によるメリット・デメリットを徹底解説!
多くの病院で導入されている電子カルテですが、「必要ない」「入力が面倒くさくて時間がかかる」「コストがかかる」などの声があるのも事実。開業を検討している先生方は電子カルテの導入、機種選定に悩むことでしょう。
2015年に政府は「日本再興戦略 改訂2015」内で「2020年度までに400床以上の一般病院における電子カルテの全国普及率を90%に引き上げる」と発表しました。目標達成に至っていない状況の中、奇しくもコロナ禍で医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目され、強力に推進されることとなりました。
この記事では、電子カルテについて基本的な事項からメリット・デメリット、そしてなぜ今電子カルテが必要とされているのか、特にクラウド型電子カルテが持つ意味について詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.そもそも電子カルテとは?その役割と3つの原則
- 1.1.電子カルテが果たす役割
- 1.1.1.役割1. 診療内容の記録
- 1.1.2.役割2. レセプトコンピューター
- 1.1.3.役割3. 院内の診療情報共有
- 1.1.4.役割4. 施設間の診療情報共有
- 2.電子カルテを導入するメリット
- 2.1.メリット1. 情報共有がしやすい
- 2.2.メリット2. 診療時間を短縮できる
- 2.3.メリット3. 緊急時の迅速な対応に役立つ
- 2.4.メリット4. 紙カルテの保管スペースを減らす
- 2.5.メリット5. 書き間違い、読み違いのミスを防ぐ
- 2.6.メリット6. 記録、指示を効率化できる
- 3.電子カルテを導入するデメリット
- 3.1.デメリット1. 操作に慣れるまでの時間、手間がかかる
- 3.2.デメリット2. 導入費用、運用コストがかかる
- 3.3.デメリット3. 紙カルテからの移行期間が必要
- 3.4.デメリット4. すでに使用しているシステムとの連携
- 3.5.デメリット5. 停電時、災害時の対応が難しい場合がある
- 4.電子カルテの種類(オンプレミス型・クラウド型)
- 4.1.オンプレミス型電子カルテ
- 4.2.クラウド型電子カルテ
- 5.電子カルテの普及率と近年の動向
- 5.1.コロナ禍と医療DXの影響
- 6.ニーズが高まるクラウド型システム
- 7.まとめ
そもそも電子カルテとは?その役割と3つの原則
電子カルテとは、診療や処方など紙カルテに記載する内容を電子情報として記録したものです。
厚生労働省は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6版」にて、電子カルテを含む医療情報システムの安全管理として以下3つの基準を満たすように求めています。
- 見読性:必要に応じ電磁的に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る伝計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにすること
- 真正性:電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中における当該事項の改変又は 消去の事実の有無及びその内容を確認することができる措置を講じ、かつ、当該電磁的記 録の作成に係る責任の所在を明らかにしていること
- 保存性:電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中において復元可能な状態で保存することができる措置を講じていること
電子カルテは、ただ単純にカルテ内容を電子化したというだけのものではありません。
電子カルテが果たす役割について見ていきましょう。
電子カルテが果たす役割
電子カルテが果たす役割は主に以下の4つが挙げられます。
- 診療内容の記録
- レセプトコンピューター
- 院内の診療情報共有
- 施設間の診療情報共有
役割1. 診療内容の記録
電子カルテは紙カルテと同じように、診療内容を記録する役割を果たします。電子データの内容はすぐに呼び出し、後から参照できます。
役割2. レセプトコンピューター
医療機関は主に電子レセプト(診療報酬明細書)を各都道府県の健康保険などに提出することで、診療報酬を受け取ります。紙カルテの場合、記載された診療内容をレセプト作成用のコンピューターへ入力しますが、電子カルテでは記録すると同時にレセプトへ反映できるため、レセプト作成の役割を果たしていると言えます。
役割3. 院内の診療情報共有
忙しい日常業務の中、分厚い紙カルテを参照する時間がとれないことがあります。電子カルテであればスタッフは目の前の患者さんがどのような病状なのかすぐに把握できるので、迅速な情報共有が可能になります。
役割4. 施設間の診療情報共有
超高齢化社会となった日本では、地域ごとで医療・介護・生活支援を一体として提供する地域包括ケアシステムを構築しています。システム構築に欠かせないのが、病院-クリニック、医療機関-介護施設・介護保険など施設間での情報共有です。情報共有のツールとして、電子カルテは紙カルテよりも迅速かつ正確と言えます。
電子カルテを導入するメリット
電子カルテ導入のメリットは主に以下の6つが挙げられます。
- 情報共有がしやすい
- 診療時間を短縮できる
- 緊急時の迅速な対応に役立つ
- 紙カルテの保管スペースを減らす
- 書き間違い、読み違いのミスを防ぐ
- 記録、指示を効率化できる
メリット1. 情報共有がしやすい
電子カルテではアクセスのしやすさ、きれいな字といった理由から情報共有がしやすいというメリットがあります。特に「クラウド型」であれば、院内だけでなく院外の施設と連携をとりやすくなります。
メリット2. 診療時間を短縮できる
電子カルテでは、患者さんのIDを入力すればすぐに情報を呼び出すことができます。ID順に並べられた紙カルテを探しに行くことなく診療の準備ができるため、患者さんを待たせる時間を減らすことができます。
メリット3. 緊急時の迅速な対応に役立つ
万が一患者さんが急変した場合、紙カルテをのんびりと探している時間はありません。電子カルテであればすぐに患者さんの病状を把握することができます。
メリット4. 紙カルテの保管スペースを減らす
クリニックでも診療を長く続けていると患者さんの数は相当なものになり、紙カルテの保管スペースが必要です。電子カルテであればPCやモニタ、サーバーなどがあれば事足ります。
メリット5. 書き間違い、読み違いのミスを防ぐ
医療スタッフはみな人間ですから、書き間違いや読み間違いをする可能性があります。書き殴られた文字が元で、医療事故が起きた事例もあります。字が読みづらいと言われると耳が痛い先生も少なくないのではないでしょうか?
メリット6. 記録、指示を効率化できる
ルーチンで行う検査や点滴の指示、処方のdo指示、紹介状に記載する挨拶の文言など、繰り返しカルテに記載する内容は少なくありません。電子カルテではテンプレートやクリニカルパスの利用により、効率よく記録・指示を行うことができます。
電子カルテを導入するデメリット
電子カルテのデメリットとしては、以下の5つがあります。
- 操作に慣れるまでの時間、手間がかかる
- 導入費用、運用コストがかかる
- 紙カルテからの移行期間が必要
- すでに使用しているシステムとの連携
- 停電時、災害時の対応が難しい場合がある
デメリット1. 操作に慣れるまでの時間、手間がかかる
最近では直感的に操作できる電子カルテが多く、先生方が入力操作を苦にすることは減ってきています。それでも実務を進めていくとさまざまな問題に直面するもの。機種選定の際にはサポートが充実しているものを選ぶのが良いかもしれません。
デメリット2. 導入費用、運用コストがかかる
電子カルテの導入費用はシステムにより様々で、無料で開始できるケースもあれば1000万円を超えることもあります。一般的には300-500万円程度であることが多いようです。継続的なメンテナンスが必要となるため、運用にもコストがかかります。
デメリット3. 紙カルテからの移行期間が必要
これまで紙カルテを運用していた施設では、電子カルテにする場合移行期間が必要です。継続的にかかっている患者さんは、以前の紙カルテを参照しながら電子カルテに記録していくという作業が必要になります。
デメリット4. すでに使用しているシステムとの連携
すでにオーダリングシステムやレセプトコンピューターを導入している場合、新たに採用する電子カルテと連携がとれるのか確認が必要です。相性が悪い場合、全てを更新しなければならないことがあります。
デメリット5. 停電時、災害時の対応が難しい場合がある
停電してしまうと電子カルテを起動できず、内容を確認できなくなります。蓄積された情報が消失してしまう可能性もあります。ただし紙カルテでも物理的な破損、消失のリスクはあります。
電子カルテの種類(オンプレミス型・クラウド型)
電子カルテには、主に以下の2種類があります。
- オンプレミス型電子カルテ
- クラウド型電子カルテ
オンプレミス型電子カルテ
オンプレミスとは院内に専用のサーバーを設置し、電子カルテを院内で運用する方法です。
データはサーバーに蓄積され、原則として外部との連携がないため、セキュリティ面で安全性が高いと考えられています。
自院に合わせたカスタマイズ性がある反面、導入費用やメンテナンスコストがかかることがデメリットといえます。
クラウド型電子カルテ
クラウド型は院内に情報システムを設置せず、クラウドサービスを利用する方法です。
導入費用やメンテナンスコストが安価であることが多く、コストメリットの大きさが特徴です。
データはクラウド上に保存されるため、インターネット回線があればどこからでもアクセスできます。その一方、セキュリティ対策やサイバーテロ・災害時などに事業をどのように継続するかといった計画が重要になります。政府は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」を策定し、厳しい安全管理を課しています。
ただし、クラウドサービスは常に最新のものにアップデートされるため、オンプレミス型よりもむしろ安全であるという考えもあります。
電子カルテの普及率と近年の動向
様々な分野でデジタル化が進む中、1999年に電子カルテが誕生しました。
その後爆発的に広まると思われた電子カルテですが、コストや技術的な問題などがあり、普及は思ったように進んでいません。厚生労働省が公表したデータによると電子カルテの普及率は令和2年時点で一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%となっています。
年度 |
一般病院 |
一般診療所 |
|
---|---|---|---|
平成20年 |
14.2% |
14.7% |
|
平成23年 |
21.9% |
21.2% |
|
平成26年 |
34.2% |
35.0% |
|
平成29年 |
46.7% |
37.0% |
|
令和2年 |
57.2% |
49.9% |
厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」
コロナ禍と医療DXの影響
コロナ禍で病院受診を含めて外出が制限される中、急速に注目が集まったのが医療DXです。
コロナ禍に対応するため政府は2020年4月「時限的・特例的な対応」として初診のオンライン診療を解禁しました。
しかし必要な機器や運用システムを備えている医療機関は少なく、医療業界全体のDXが遅れていることが社会的な課題として注目されることとなったのです。
政府は「医療DX推進本部」を設置し、様々な指針を打ち出しています。
その中の一つ、「オンライン診療の実施に当たっての基本理念」に次のような記載があります。
- 患者の日常生活の情報も得ることにより、医療の質のさらなる向上に結び付けていくこと
- 医療を必要とする患者に対して、医療に対するアクセシビリティ(アクセスの容易性)を確保し、よりよい医療を得られる機会を増やすこと
- 患者が治療に能動的に参画することにより、治療の効果を最大化することを目的として行われるべきものである
オンライン診療では対面で得られる情報がないため、過去の医学的情報が重要になります。
オンライン診療以外にも、救急車で初めて来院する意識のない患者さんや、お薬手帳を記録していない方など、日常診療でもすぐに医学的情報が得られず困る場面は少なくありません。
医療DXではこれらの問題を解決するため地域医療情報ネットワークを構築し、迅速な情報共有を目指しています。もちろん紙のやりとりで迅速な情報交換は難しく、電子カルテは必須のツールであると言えます。
現在電子カルテの導入は義務ではありませんが、医療DX推進本部では「電子カルテ情報の標準化」が重点項目として定められるなど、電子化へ向けて大きな流れが起きていることに注意が必要です。
ニーズが高まるクラウド型システム
クラウド型電子カルテで診療を行うと、同時に診療情報がクラウド上に保存されます。
つまり紙のデータを再度入力したりデータを移動したりする必要がなく、診療しながら医療ネットワークが構築されることになります。
電子カルテを含むクラウド型医療システムを用いて診療を行うことは、まさに医療DXが目指す方向性と合致します。
電子カルテと連携できる代表的な医療システムのひとつが「クラウド型PACS」です。
レントゲンやCTなどの検査画像は情報量が多くフィルムでは閲覧に手間がかかり、ディスクの読み込みに時間を要するなど情報共有が難しい領域です。そこで役立つのが、クラウド型PACSです。
クラウド上に保存された画像データを読み込むシステムであれば、すぐにアクセスできます。
データ量が多いだけに通信や処理能力が問題になるのですが、圧縮技術の進歩などにより低スペックのPCでも利用可能となるなど一般に普及しつつあるシステムです。
現在の流れに乗り、より広く拡大していくと見込まれます。
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まとめ
電子カルテの基本的事項からメリットとデメリット、最近の社会的動向を踏まえてクラウド型電子カルテが持つ意味まで紹介しました。電子カルテ導入にはメリットとデメリットの両面があるのは事実です。導入費用や目の前の費用対効果を気にせざるをえないのは当然のことです。
しかしながら昨今の社会的情勢や動向を見ると、電子カルテは医療を行う上で電気や水道などと同じように欠かすことのできないインフラになりつつあると言えます。ただの記録装置から情報共有のツールとして発展する電子カルテに、引き続き注目しましょう。