RSNA(北米放射線学会)企業ブースから見たこれからの放射線診断【セミナーレポート】
RSNA(Radiological Society of North Americaの略。以下、RSNA)とは、北米放射線学会の総会で、放射線科医だけでなく世界各国から様々な分野のプロフェッショナルが集結する非常に大規模な学会です。
「RSNA2024」は、例年と同じくアメリカ・シカゴで2024年12月1日〜5日まで開催され、約4万弱の参加者・722社の企業が参加しました。
エムネスではRSNA2024に現地で企業ブース出展&見学をしてきました。現地参加した放射線診断専門医・島村より、今回の展示会から見たこれからの放射線診断についてお伝えします。
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目次[非表示]
- 1.RSNA 2024はAIが大きなテーマに!
- 2.RSNA2024で紹介されていたAIの4分類
- 2.1.分類1. AI統合プラットフォーム系の動向
- 2.1.1.Blackford(Bayer)
- 2.1.2.Aidoc
- 2.1.3.Intelerad
- 2.1.4.Carpl
- 2.2.分類2. 診断支援(画像解析・検出)の動向
- 2.3.分類3. ワークフロー効率化・フォローアップ支援
- 2.4.分類4. 画像取得・品質向上(モダリティ連携)
- 3.RSNA2024で紹介されていた放射線診断における社会的課題
- 4.医療現場への影響と課題
RSNA 2024はAIが大きなテーマに!
━━ 実際にRSNA2024に参加され、どのようなトレンドやテーマを感じられましたか?
島村泰輝(以下、島村) まず、RSNA 2024では、AIが全方向で大きなテーマとなっていました。
現在、FDA(Food and Drug Administrationの略。アメリカ食品医薬品局。以下、FDA)が承認した医療用アルゴリズムは1,000件以上あり、そのうち約8割が医療画像に関連するものです。その多くがRSNA 2024の会場で展示され、AIを展示した企業は参加企業722社に対し204社にも上りました。このことから、RSNAが世界最大級の臨床AIカンファレンスとなっているといっても過言ではありません。
以前はAIブームが一過性のものではないかという懸念もありましたが、AIはもはや流行ではなく「放射線診断の新たな標準」として認識されていると言えます。現在では放射線診断におけるパラダイムシフトとして受け入れられていることを身をもって感じました。
━━ ついにAIの波は医療分野にまできているんですね!
島村 RSNAの大会長であるカーティス・ラングロッツ氏は、基調講演で次のように述べています。
「AIが放射線科医を置き換えることはないが、AIを使いこなす医師が、使わない医師に取って代わるだろう。」
この発言からも、AI活用の重要性が強調されていたことが分かります。
━━ AIを活用することでの課題やリスクを感じている医師も多いと思います。そのあたりについての言及もあったのでしょうか?
島村 AIが放射線領域に浸透することを前提に、次のような議論も行われました。
- AIを使用する際のリスクと、その低減策
- 倫理的に問題なくAIを活用する方法
AIを単なるツールとして適切に利用するために、どのような課題があるのか、それをどのように解決すべきかといったロードマップが示されました。
特にAI活用の分野では、医療のワークフロー改善を目的としたAI にも関心が集まっており、病変検出などの従来の画像診断支援にとどまらず、業務効率化や情報連携を支えるAIが脚光を浴びていました。
例えば、以下のような技術が各社のブースで紹介されており、これらは放射線診断そのものではなく、診断を支える周辺技術であり、放射線科業務全体を最適化するためのAIと言えます。
- 検査前後のデータ処理や加工
- 検査画像・患者情報の自動取得
- 読影の優先度付け(プライオリティ設定)
- レポートの作成支援
- コーディング・請求補助
こうした 「非読影系」のAI は、画像ではなくテキストデータを処理するものが多いため、FDAの承認が不要な場合が多く、医療ITシステム(PACS、RIS など)の基盤システムに組み込まれる形で実装が進んでいることも、今年の特徴として見受けられました。
RSNA2024で紹介されていたAIの4分類
━━ RSNA2024のAIとして取り上げられていたものは、どのようなものがありましたか?
島村 RSNA 2024で紹介されたAIは、大きく以下の4つに分類されていました。
- AI統合プラットフォーム系
- 診断支援(画像解析・検出)
- ワークフロー効率化・フォローアップ支援
- 画像取得・品質向上(モダリティ連携)
総じて、RSNA 2024では 「AIをいかに日常の放射線診療ワークフローに溶け込ませるか」 が全体のトレンドとして浮き彫りになっていました。
今回RSNA 2024に参加し、AI技術が単なる「診断支援」から「業務効率化」「ワークフロー統合」「診療全体の最適化」へと進化していることが明確になったと感じました。
今後の医療現場におけるAIの活用において、これらの動向がどのように影響を与えるのか、さらなる展開が注目されます。
参加企業も各社「すでに先進的な施設を超えて広く普及している」 という点を大々的に発表していました。実際にどの施設で使用されているかを示しつつ、AIの浸透度をアピールする動きが見受けられました。
分類1. AI統合プラットフォーム系の動向
━━ 各分類ごとの動向や、目立っていた企業などがあればぜひ教えてください。
島村 AI統合プラットフォームを提供する企業として、以下の4社が特に目立っていました。これらの統合プラットフォームを提供する企業は、病院やクリニックにおけるAI導入の基盤構築に重点を置いていました。
それぞれの特徴も踏まえて紹介します。
Blackford(Bayer)
- 135以上のAIアプリケーションを統合した実績を持つエンタープライズ向け
- 単一プラットフォームから様々なAIを呼び出せる柔軟性を提供
- 既存システムとのシームレスな統合により、ワークフローの効率化を実現
Aidoc
- 元々、救急疾患向けソリューションで有名な企業
- 今年は「統合プラットフォーム」と「基盤モデル戦略」を前面に打ち出す
- 複数のAIアルゴリズムを束ねたエンタープライズ展開や大規模モデルの実装例を紹介
Intelerad
- 医療画像ITベンダー各社のブースに AIプラットフォーム連携の展示を実施
- プラグインのようにAIを使える環境の実現が進んでいることを紹介
Carpl
- 放射線診断・各種臓器対応の140以上のAIアプリケーション を提供(65社以上のAIベンダーと提携)
- ワンストップでアクセス・評価・統合が可能なベンダーニュートラルなAIプラットフォームを提供
- 病院全体・クリニック全体で統制の取れた導入運用を実現
分類2. 診断支援(画像解析・検出)の動向
━━ 続いて、診断支援系の動向についてはいかがでしたか。
島村 診断支援系AIでは、大きく2つのトピックが注目されていました。
- 実運用での有効性
- 対応疾患領域の拡大
診断支援AI自体は成熟しつつあり、今年は「対応可能な疾患の幅が広がっているか」や「どのように実用化されているか」が主要なテーマとなっていました。
例えば、脳卒中の自動検出とスマホへのアラート通知するAIや、冠動脈CTから血流速(FFR-CT)の算出するAIなどが発表されていたり、FFR-CTは「米国心臓病学会(ACC)や米国心臓協会(AHA)の診療ガイドラインにも組み込まれています」と、どこで実用化されているかをアピールされていました。
また、単一疾患の評価のみにとどまらず、診断後の次のステップをサポートすることにも活用され始めています。例えば、オーダーした医師や診断結果を受け取る医師に向けて、「次の一手をどう取るか?」というアシスト機能も強化されつつあります。
診断支援AIの多くは、感度・特異度の向上だけでなく、PACS上での結果表示やレポート自動記載といった臨床ワークフローへの統合に重点を置いています。
「AIで病変を見つけられます」ではなく、「臨床の現場で役に立つAIを提供します」 という点が今年は特に強調されていたように感じました。
分類3. ワークフロー効率化・フォローアップ支援
━━ 続いて、ワークフロー効率化・フォローアップ支援系のAI動向についてもお聞かせください。
島村 今年の RSNA では、バックエンドで放射線科の業務を支えるAI技術も着実に進化していました。これらのAIの台頭は、放射線科の業務プロセス全体を最適化すると言えるでしょう。
例えば、Agamon Health社は「患者のケアギャップを埋める AI」として、放射線科と臨床医の連携を促進し、検査レポートに記載された偶発所見のフォローアップの受診漏れを防ぐという仕組みを提供していました。こういった画像診断後のネクストステップに対する仕組みは、医療の質向上や診療漏れの防止に直結するため関心を持つ医療関係者が多かったように思います。
また、RAD AI(ラッド・AI)社では、生成AI技術を活用したレポート作成の自動化や分析を発表し、患者ケアの向上を目指す取り組みを行っていました。
他にも、Enlitic(エンリティック)社は、データ管理とワークフローの改善にフォーカスしていました。 同社は、画像データの標準化・匿名化を行うプラットフォームの新バージョンとして、検索機能やレポート作成の支援機能を備えた新モジュール を公開していました。
こうしたAI技術は、主に研究や業務分析向けの機能として紹介されており、膨大な画像データから必要な情報を迅速に引き出すという点が特に強調されていました。
分類4. 画像取得・品質向上(モダリティ連携)
━━ 4つ目の画像取得・品質向上のAI活用についても解説をお願いいたします。
島村 画像品質向上系のAI活用は、以前から取り組みされていた分野ではあります。
こちらの分野では、主要な医療装置メーカーが目立っており、ワークフローの簡素化によりMRI撮像時間の短縮や、精度向上を強調されていました。
例えば、GE社がRSNAで公開した新製品の中で、特に注目を集めたのは超音波検査の自動最適化技術です。熟練度の低い施行者でも診断に適した画像を取得できるよう、深層学習を用いたプローブの誘導支援を行えるというものでした。この技術により、検査の質を均一化し、診断精度の向上に貢献することが示されました。
また、Saturn Medical社は、RSNAのAI ショーケースのスポンサー企業の一つとして、MRI 検査における撮像時間の大幅短縮に関する発表を行いました。同社によると、最大80%以上の撮像時間短縮を実現しつつ、従来よりも高画質な画像を提供できるとのことでした。
このような高性能なアルゴリズム は、医療機器メーカー自身が開発するのではなく、AIベンダーが画像補完技術を提供する形で進化しています。
これらのAI活用が、放射線科医の負担軽減に直結するかは議論の余地がありますが、「患者の検査時間短縮」「CT における被曝低減」「画質劣化を防ぎながら高速検査を実現」などにより診断しづらい荒い画像が減ることで再撮影や診断の迷いが減少することで、結果として医師の負担軽減につながるという見解が示されました。
RSNA2024で紹介されていた放射線診断における社会的課題
━━ 他にもRSNA2024内で目立った議論はありましたか?
島村 以下のような放射線診断における社会的課題についても、AIを用いて課題解決しようと議論されました。
- 画像診断のコスト上昇
- 放射線科の人員不足
- 放射線科医の燃え尽き症候群(バーンアウト)
特に、アメリカの放射線技師のバーンアウト(燃え尽き症候群) も注目トピックの一つでした。
ある調査によると、半数以上の放射線技師が、月に数回以上「感情的に疲弊している」と感じており、約60%が「仕事で評価されていない」と感じていると発表されているそうです。
このような状況のなかAIを活用することで、少ない労力で適切な業務を遂行できる環境を整えることや、放射線技師の負担を軽減するためにAIを活用できないかということが議論されていました。
医療現場への影響と課題
━━ 最後に、今回のRSNAに参加を受けて、島村さんは今後の医療現場にどのような影響があると感じられたかを教えてください。
島村 ここまでRSNA 2024の主要トピックについて述べてきましたが、AIの潮流として「実臨床への本格統合」と「次なる確信技術の台頭」を感じました。
実際に多くの企業が、放射線科医の負担軽減、診断精度向上、診断ワークフローの最適化に寄与するAI技術を披露しています。
これらのAI技術と放射線医療は、今後当然の組み合わせという前提で進んでいく可能性が高く、今後数年で医療現場に大きな変化が起きていくことが予想されます。
一方、AI普及における問題点としても、以下のようなことも発表されていました。
異なるAIのオーケストレーションなどのシームレスな流れを作るためにはデータプライバシーの保護やアルゴリズムの確保が重要になってくるなど、新たな課題も見えてきています。
AIは医師を代替えするものではなく、強力なアシスタント役であり、放射線科医の働き方を質的に変革をもたらせたり、検査後の患者フォローの徹底など提供する医療の質を向上するために活用されるものです。
今後もAI技術の進化が医療のワークフローにどのように影響を与えるのか、生産性と負担軽減の両立を目指した取り組みが期待でき、継続的な注目が必要ですね。
━━ AI が放射線診断の標準として組み込まれてきているんだと感じました。今後もAI技術の進化から目が離せませんね。ありがとうございました!
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また、医療用画像診断のAIに関することは、こちらの記事でも詳しく解説しています。ご興味のある方はぜひ参考になさってください。