タスク・シフト/シェアとは?導入のメリットや課題、各職種での実践例を解説
近年、医療現場ではタスク・シフト/シェアが急速に進んでいます。
医師の働き方改革が進む中で、これまでと同等の質の医療を提供するためには、医師の業務負担軽減を目指せるタスク・シフト/シェアが必要不可欠です。
実際に自施設でも効果的に取り入れたいと考えている先生は少なくないと思いますが、メリットだけでなくさまざまなデメリットや課題もあるため、注意が必要です。
そこでこの記事では、タスク・シフト/シェアの必要性やメリット・デメリット、うまく導入するための方法を解説します。
この記事を読むことで、円滑にタスク・シフト/シェアを取り入れることができ、提供する医療の質を向上できます。
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目次[非表示]
- 1.タスク・シフトとは
- 2.タスク・シェアとは
- 3.タスク・シフト/シェアが必要とされる背景
- 4.タスク・シフト/シェアを導入するメリット
- 4.1.メリット1. 専門性を活かした業務に専念でき医療の質が向上する
- 4.2.メリット2. 医師の長時間労働が軽減する
- 4.3.メリット3. 業務効率化が図れ人材不足が解消する
- 4.4.メリット4. 医療機関がコストを削減できる
- 5.タスク・シフト/シェアを導入するデメリット・課題
- 6.タスク・シフト/シェアの実践例
- 6.1.職種を問わず実施できるタスク・シフト/シェアの例
- 6.2.看護師に対するタスク・シフト/シェアの例
- 6.3.薬剤師に対するタスク・シフト/シェアの例
- 6.4.臨床検査技師に対するタスク・シフト/シェアの例
- 6.5.診療放射線技師に対するタスク・シフト/シェアの例
- 6.6.リハビリテーション専門職に対するタスク・シフト/シェアの例
- 7.タスク・シフト/シェアの導入ステップ
- 7.1.ステップ1. 現状把握・業務分析
- 7.2.ステップ2. 役割分担を明確にし適正配分する
- 7.3.ステップ3. 定期的な振り返り
- 8.まとめ
タスク・シフトとは
医療現場におけるタスク・シフトとは、これまである職種が担っていた業務の一部を、資格上実施できる前提で合意形成のもとで他の職種に移管することです。
働き方改革によって医師の労働時間が短縮する中、これまでと同じ量や質の業務をこなす必要があるため、医師の労働負担を分散する必要があります。
今日の医療現場では、医師をはじめとして看護師・薬剤師・臨床工学士・理学療法士・診療放射線技師など、多様な職種が連携して医療を提供しているため、タスク・シフトによって医師の負担軽減を目指します。
ただし、医師の業務全てを移管できるわけではなく、タスク・シフトの対象になる業務は主に下記の2つです。
- 相対的医行為
- 医行為ではない業務
医行為とは「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」と定義されており、医行為は医師以外は絶対に行えない絶対的医行為と、医師や歯科医師の指示監督の元であれば他職種が行っても良い相対的医行為に分類されます。
また、診療録の代行入力や各種書類作成、診療実績のデータ整理など、医行為ではない諸業務についてもタスク・シフトの対象です。
参考資料
厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理」
公益社団法人 日本看護協会「看護補助者の確保・定着に取り組む必要性 タスク・シフト/シェア」
特許庁「医療関連行為発明の特許法における取扱いの在り方」
タスク・シェアとは
タスク・シフトが業務の移管であるのに対し、タスク・シェアはある職種の業務を分け合う、いわゆる共同化を指します。
完全に業務を移管するのではなく、他職種が協力してその業務に取り組む点がタスク・シフトとの違いであり、医師同士で業務を分け合うこともタスク・シェアには含まれます。
例えば、医師の代わりに薬剤師が処方薬の効果や副作用を患者に聞き、それを医師に伝えてより最適な処方内容を医師が考えるのも、1つのタスク・シェアです。
タスク・シフト/シェアが必要とされる背景
近年、医師のタスク・シフト/シェアの必要性は急速に高まっており、その背景には下記のような要因が挙げられます。
- 医師の長時間労働に対する働き方改革
- 求められる医療の高度化
- 医療の地域偏在・診療科偏在
労働基準法では原則として労働を1日8時間以内、週40時間以内とするようにされていますが、令和元年に実施された「医師の勤務実態調査」によれば、全年代の週あたりの平均勤務時間は男性で57時間35分、女性で52時間16分でした。
医師の長時間労働が問題視される中、2019年に働き方改革関連法が成立し、2024年度以降は医師の時間外労働時間の上限規制が設けられるとともに、医師の労働時間短縮を目指す施策として、タスク・シフト/シェアが位置付けられたのです。
さらに、近年では医療の高度化・専門分化が進んでおり、限られた労働時間の中でもこれまで同等、もしくはより高度な医療を提供するためにも、多職種がそれぞれの専門性を活かせるタスク・シフト/シェアは必要不可欠です。
また、医局制度の崩壊や若手医師の価値観の変化など、さまざまな要因で医療の地域偏在や診療科偏在が深刻化しており、これらの課題解決のためにもタスク・シフト/シェアの拡充が期待されています。
タスク・シフト/シェアを導入するメリット
タスク・シフト/シェアを導入するメリットは主に下記の4つです。
- 専門性を活かした業務に専念でき医療の質が向上する
- 医師の長時間労働が軽減する
- 業務効率化が図れ人材不足が解消する
- 医療機関がコストを削減できる
メリット1. 専門性を活かした業務に専念でき医療の質が向上する
タスク・シフト/シェアを導入することで、各職種が専門性を活かした業務に専念できるため、医療の質が向上します。
現在の法律上、医療行為においては医師に与えられた裁量がとても大きいですが、その中でも他の職種が専門性を活かして医師の代わりに行うことのできる業務もあります。
例えば、看護師による外来でのワクチン接種や助産師による院内助産など、タスク・シフト/シェアによって専門性の高い他職種が実施可能です。
これによって医師の労働負担が軽減すれば、医師の診療に割ける時間や労力も増すため、結果として医療の質の向上が期待できます。
メリット2. 医師の長時間労働が軽減する
医師の長時間労働の軽減も、タスク・シフト/シェア導入のメリットです。
医師は本来行うべき診察や検査、治療以外にも診療録の入力やデータの整理、各種書類の作成など、さまざまな業務に多大な時間と労力を割いています。
タスク・シフト/シェアによってこれらの業務を他職種に分担することで、医師は過剰な残業や時間外労働を削減できます。
その結果、職場がよりクリーンになれば、多くの人材も集まりやすくなり、労働時間のさらなる短縮も目指せるでしょう。
なお、これまで医師が自ら行なっていた事務作業を代わりに行う職種、医療クラークのニーズも高まってきています。クラークについては、以下の記事でも解説しています。
メリット3. 業務効率化が図れ人材不足が解消する
業務効率化や人材不足の解消も、タスク・シフト/シェア導入のメリットです。
今まで医師が一人で負担してきた業務を他職種に分担することで、業務の効率化が図れます。
また、タスク・シフト/シェアの拡充に向けてさまざまな法改正が進み、これまで医師以外の職種が実施できなかった業務も徐々に実施できるようになってきているため、医師の数を増やさなくても医療体制を整えることが可能です。
タスク・シフト/シェアによって、医療業界全体で問題視されている人材不足の解消が期待されます。
メリット4. 医療機関がコストを削減できる
タスク・シフト/シェアを導入することで、医療機関がコストを削減できます。
タスク・シフト/シェアによって医療従事者の時間外労働が削減されることで、医療機関が支払う賃金を削減できるためです。
また、最近では手術室看護師の絶対的人員不足が問題視されています。手術器具の扱いに精通した臨床工学士が機械出し業務を行うことを検討する病院も出はじめています。
看護師と臨床工学士の適正配置によってコスト削減を行いたい病院も出てきています。
タスク・シフト/シェアを導入するデメリット・課題
ここまでタスク・シフト/シェアのメリットを紹介してきましたが、一方で下記のようなデメリット・課題も認めます。
- 業務の移管先の負担が増加
- 人材不足により導入や指導が難しい
デメリット1. 業務の移管先の負担が増加
タスク・シフト/シェアのデメリットとして、業務の移管先の負担が増加する点が挙げられます。
業務を移管する側の負担は減りますが、その一方で移管先の負担は当然ながら増加するため、元から多忙な職種に移管する場合、うまく機能しない可能性があり注意が必要です。
最悪の場合、本来その職種が行うべき業務を全うできなくなり、医療の質や効率性が低下する恐れもあります。
こういった課題解決のためには、移管先の余力も考慮した適切な人的配置が必要不可欠です。
デメリット2. 人材不足により導入や指導が難しい
タスク・シフト/シェアのデメリットとして、人材不足により導入や指導が難しい点が挙げられます。
これまで医師が行なっていた医行為を他職種が行う上では、移管先の職種に対して事前の指導・教育が必要不可欠です。
例えば、本来医師が行う特定行為を医師の指示のもと実施できる特定看護師は、特定行為研修を終了する必要があります。
多忙な職場で働く場合、看護師が研修を受けることは困難であり、また仮に特定看護師になったとしても医師のタスクをシフト/シェアするほどの余裕もない可能性があります。
十分な指導・教育ができるほど、ある程度人員の確保された医療機関でないとタスク・シフト/シェアを効果的に導入することは困難です。
タスク・シフト/シェアの実践例
実際に医療機関で導入されているタスク・シフト/シェアの実践例を、職種別に紹介します。
職種を問わず実施できるタスク・シフト/シェアの例
職種を問わず実施できるタスク・シフト/シェアの例は下記の通りです。
- 検査等の説明や同意取得
- 入院時のオリエンテーション
- 各種書類の下書きや仮作成
- 問診聴取やバイタルサインの測定
- 患者の誘導(院内の移送など)
- 臨床実績や各種臨床データの整理
これらの業務は資格の有無を問わずタスク・シフト/シェアを進められる業務ですが、どの業務も医師の適切な関与が必要とされています。
看護師に対するタスク・シフト/シェアの例
看護師に対するタスク・シフト/シェアの例は下記の通りです。
- 特定行為
- 予め特定された患者に対し、事前に取り決めたプロトコールに沿って、医師が事前に指示した薬剤の投与、採血・検査の実施
- 救急外来において、医師が予め患者の範囲を示して、事前の指示や事前に取り決めたプロトコールに基づき、血液検査オーダー入力、採血・検査の実施
- 画像下治療(IVR)/血管造影検査等各種検査や治療における介助
- 注射、ワクチン接種、静脈採血(静脈路からの採血を含む)、静脈路確保・抜去及 び止血、末梢留置型中心静脈カテーテルの抜去及び止血、動脈ラインからの採血、 動脈ラインの抜去及び止血
- 尿道カテーテル留置
上記からもわかる通り、看護師は非常に広い範囲の業務を請け負うことができ、特に特定行為を実施できる特定看護師は医師にとって頼もしい存在です。
厚生労働省の公表しているデータによれば、500床以上の特定機能病院における医師一人当たりの年間平均勤務時間は、特定看護師の配置前後で2390.7時間から1944.9時間と大幅に削減されています。また、特定看護師配置によって医師による1週間の平均指示回数も692回から200回まで減少しており、医師の労働負担が非常に効果的に軽減されています。
薬剤師に対するタスク・シフト/シェアの例
薬剤師に対するタスク・シフト/シェアの例は下記の通りです。
- 手術室・病棟等における薬剤の払い出し、手術後残薬回収、薬剤の調製等、薬剤の管理に関する業務
- 事前に取り決めたプロトコールに沿って、処方された薬剤の変更(投与量・投与方法・投与期間・剤形・含有規格等)
- 効果・副作用の発現状況や服薬状況の確認等を踏まえた服薬指導、処方提案、処方支援
手術室や病棟に薬剤師を配置することで、これまで医師や看護師が行ってきた服薬状況の確認や薬剤の払い出しなどの作業が大幅に軽減されます。
また、近年では高齢化や医療の進歩に伴って、新しい薬剤を多剤併用される患者も増加しており、適切な管理や評価を行うためにも、薬剤師のタスク・シフト/シェアは効果的です。
臨床検査技師に対するタスク・シフト/シェアの例
臨床検査技師に対するタスク・シフト/シェアの例は下記の通りです。
- 心臓・血管カテーテル検査・治療における直接侵襲を伴わない検査装置の操作(超 音波検査や心電図検査、血管内の血圧の観察・測定等)
- 病棟・外来における採血業務(血液培養を含む検体採取)
令和3年の法改正では「医療用吸引器を用いて鼻腔、口腔又は気管カニューレから喀痰を採取する行為」や「内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取する行為」などが追加で実施可能となっています。(参考資料)
今後も法改正によってさらなる業務範囲の拡大が見込まれ、幅広い分野での活躍が期待されます。
診療放射線技師に対するタスク・シフト/シェアの例
診療放射線技師に対するタスク・シフト/シェアの例は下記の通りです。
- 血管造影・画像下治療(IVR)における医師の指示の下、画像を得るためカテーテル 及びガイドワイヤー等の位置を医師と協働して調整する操作
- 医師の事前指示に基づく、撮影部位の確認・追加撮影オーダー(検査で認められた所見について、客観的な結果を確認し、医師に報告)
診療放射線技師においても、令和3年の法改正によって新たに造影剤投与目的の静脈路確保や動脈路に造影剤注入装置を接続する行為が認められました。(参考資料)
当然ながら医師の具体的な指示のもとで実施する必要がありますが、医師の労働負担軽減に大きく貢献しています。
リハビリテーション専門職に対するタスク・シフト/シェアの例
リハビリテーション専門職に対するタスク・シフト/シェアの例は下記の通りです。
- リハビテーションに関する各種書類に対し、理学療法士や作業療法士による書類の記載や、当該書類について患者等への説明や交付を行うこと
- 作業療法を実施するに当たっての運動、感覚、高次脳機能(認知機能を含む)、 ADL等の評価等
どちらも令和3年の法改正によって新たに認められた行為であり、医師への確認や報告を行うことを条件としていますが、それでも医師の負担を軽減することは間違いないでしょう。
タスク・シフト/シェアの導入ステップ
法改正したからといって、闇雲にタスク・シフト/シェアを導入しても思ったような効果は得られず、むしろ業務効率を低下させる可能性もあります。
そこで、円滑に導入するためには下記のようなステップを踏む必要があります。
- 現状把握・業務分析
- 役割分担を明確にし適正配分する
- 定期的な振り返り
ステップ1. 現状把握・業務分析
タスク・シフト/シェアを導入する際は、まずは各職種の業務量の現状把握と、業務内容の分析を行う必要があります。
医師がいかに多忙といえど、余力の少ない他職種にタスク・シフト/シェアを行うと本来その職種が行うべき業務に支障が出るためです。
十分な現状把握と業務分析を行わずにタスク・シフト/シェアを導入すれば、他職種の残業時間の増加や医療の質の低下を招く可能性もあるため、どの職種がどのくらい余力があるのかを正確に見極める必要があります。
ステップ2. 役割分担を明確にし適正配分する
現状把握や業務分析ができたら、次は各職種の役割分担を明確にし、業務を適正に配分しましょう。
特にタスクシェアの場合、1つの業務を他職種で共同化することになるため、役割分担を明確にしておかないと業務が抜け落ちたり、責任の所在が曖昧になります。
また、移管もしくは共同化する業務を適正な職種に、適正な量で配分しなければ、タスク・シフト/シェアが効果的に働きません。
例えば、各種書類作成などの職種を問わず実施できるタスク・シフトは、あえて多忙な職種に分担するのではなく、より余力のある職種に分担するなどの適正配分に努めましょう。
ステップ3. 定期的な振り返り
タスク・シフト/シェアを導入したらそれで終わりではなく、必ず定期的に関連する職種も含めて振り返りを行うことが重要です。
近年急速に進みつつあるタスク・シフト/シェアは、それを管理する管理者も、また実際に実行する医療従事者も、十分な教育を受けて行っているわけではありません。
教育体制や院内ルールの整備など、見直すべきポイントはたくさんあります。
定期的に見直しを図り、それぞれの医療機関の規模や人材に合ったタスク・シフト/シェアを実践しましょう。
まとめ
今回の記事では、近年急速に拡大するタスク・シフト/シェアのメリットやデメリット、実用例や導入のポイントについて解説しました。
タスク・シフト/シェアによって医師の労働負担を軽減できれば、業務効率化や人材不足の解消など、多くのメリットを得ることができます。
一方で、事前に各職種の業務分析やマンパワーの余力を確認せずに導入すれば、むしろ業務効率は低下し、提供する医療の質も低下してしまう危険性があります。
本記事で紹介した導入ステップを参考に、効果的なタスク・シフト/シェアを実践し、より質の高い医療を目指しましょう。
また、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供するチーム医療については、こちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひ合わせてお読みください。
本記事では、医師から他の職種へのタスク・シフト/シェアを中心に解説しましたが、医師から医師へのタスク・シフト/シェアを救急の現場で実践例をこちらのセミナーでお話しいただきました。ご興味のある方はこちらもぜひご確認ください。
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