医療クラークとは?種類や業務内容、円滑に配置するポイントを解説
医療クラークとは、医師の負担軽減・処遇改善のためにこれまで医師が自ら行なっていた事務作業を代わりに行う職種です。
医療クラークを配置することで医師の雑務の時間が減り、診療への時間が増えるため、結果として患者サービスの向上につながります。
また、令和6年度の診療報酬改定において、大病院や周産期母子医療センターなどでは「医師事務作業補助体制加算」の評価が一律20点引き上げられており、今後はさらに医療クラーク配置の増加が見込まれます。
この記事では、医療クラークの業務内容や運用の効果について詳しく解説します。
医療クラークを効果的に配置できるようになり、業務負担の参考にぜひご一読ください。
目次[非表示]
- 1.医療クラークとは?
- 2.クラークの種類
- 2.1.医療クラーク(医師事務作業補助者)
- 2.2.外来クラーク
- 2.3.病棟クラーク
- 3.医療クラークの業務内容
- 3.1.診療予約の対応、事前問診票の確認
- 3.2.電子カルテの代行入力
- 3.3.予約・検査などオーダーリングシステムの補助
- 3.4.診療データの入力・管理
- 3.5.その他
- 4.クラーク運用の効果
- 4.1.効果1. 医師の作業負担軽減
- 4.2.効果2. コメディカルの作業負担軽減
- 4.3.効果3.患者サービスの向上
- 4.4.効果4. チーム医療の向上
- 5.医療クラークを円滑に配置するポイント
- 5.1.ポイント1. 現場体制を整える
- 5.2.ポイント2. 教育体制を整える
- 5.3.ポイント3. モチベーションを向上させる
- 6.まとめ
医療クラークとは?
医療クラークとは正式には「医師事務作業補助者」と呼び、2008年度の診療報酬改定で勤務医の負担軽減を目的に創設された職種です。
医師の負担となっている各種書類の作成・診療録の入力・カンファレンスの資料準備などの事務作業を医師の指示の元に代行するのが主な業務です。
クラークは医師に専門業務へ集中してもらうための大事な役割を担います。
医療クラークの配置は近年全国的に広まりつつあり、2024年に施行された働き方改革によって医療クラークのニーズはさらに高まっています。
医療クラークと医療事務・看護助手との違い
医療クラークのクラークとは、直訳すると「事務員」という意味があるため、医療事務や看護助手との違いがわかりにくいという声も少なくありません。
医療事務とは、医療機関の窓口で直接患者に対応する、いわば病院の顔となる職種です。
保険証の確認や診療申込書・問診票の配布・診療報酬請求(いわゆるレセプト作成)・会計業務などが主な業務です。
一方で、医療クラークはあくまで医師のサポートが主な業務であるため、基本的に診察室内での業務となります。また、医療クラークは診療報酬請求など会計に関わる業務は基本的に行いません。
次に、看護助手とは看護師のサポートを行う職種です。
患者の食事や更衣の介助などが主な業務であり、医療クラークが行うような事務作業は行いません。
一方で、医療クラークはあくまで医師の指示の元に業務を行うため、看護師の指示で業務を行うことはありません。
厚生労働省の通達においても「医師の指示の下に行う補助業務であることを明確化し、診療報酬請求業務(いわゆる、病院内の医事課で行うべき業務)や看護職員の指示の下に行う業務又は看護業務の補助に携わること等のないようにすること 」と記載されており、明確に区分されています。
クラークの種類
病院内で活躍するクラークは下記のようにその役割や業務内容によって下表のように分類できます。
職種 |
業務内容 |
---|---|
医療クラーク |
医師の指示に基づく事務作業全般(診療録入力、診断書作成、検査予約など) |
外来クラーク |
外来患者に関する書類、予約、電話対応など |
病棟クラーク |
入退院手続きに関する書類、病棟内事務、患者・家族対応、部門間連絡など |
医療クラーク(医師事務作業補助者)
クラークの中でも、医師の指示の元に医師の業務を代行する職種が医療クラークです。
国家資格を保有していないため医療行為は行えませんので、主に書類作業の補助をおこなうことが多いです。下記に記載されている外来や病棟の業務と兼務することもあります。
また、他のクラークと異なり、患者やその家族・面会者に対応することはありません。
外来クラーク
外来クラークとは、クラークの中でも主に外来受付での事務作業を担当する職種です。
主な業務は、外来での医療文書作成補助・診療録の代行入力・検査の案内・次回受診のお知らせなどです。
病棟クラーク
病棟クラークとは病棟での事務作業を担当する職種であり、基本的に1病棟あたり1名が常駐しています。
主な業務は、病棟での医療文書作成補助・入退院の管理・家族や面会者の案内・リハビリや薬剤など他部署への諸連絡などです。
医療クラークの業務内容
医療クラークの業務内容は主に下記の通りです。
- 診療予約の対応、事前問診票の確認
- 電子カルテの代行入力
- 予約・検査などオーダーリングシステムの補助
- 診療データの入力・管理
- その他
診療予約の対応、事前問診票の確認
医療クラークの業務の1つに、診療予約の対応、事前問診票の確認が挙げられます。
事前に医療クラークが問診票の確認を行い、注意点やリスクをピックアップしておくことで、医師はより効率的に患者情報を得ることができます。
他にも、お薬手帳の確認や残薬の確認など、医師の診療前の業務負担を軽減するのも医療クラークの業務の1つです。
電子カルテの代行入力
医師が外来や病棟で行った診療内容を、診療録や電子カルテに代行入力することも業務の1つです。医療クラークが代行入力することで、医師は患者への診察により集中できますが、医療クラークが代行入力した内容は必ず医師の確認が必要となります。
電子カルテの代行入力以外にも、電子カルテ内のテンプレートやセットの内容見直し、診断書や紹介状などの文書作成補助も行います。
予約・検査などオーダーリングシステムの補助
予約・検査などオーダーリングシステムの補助も医療クラークの重要な業務です。
患者に対する注射や処方・血液検査・画像検査などの各種オーダーは、当然医師の判断のもとでオーダーされますが、申し込みや日程調整は医療クラークでも担うことができます。
医師の業務負担軽減はもちろんのこと、医師と医療クラークの2名でオーダーをダブルチェックできるため、ヒューマンエラーを予防できる点もメリットです。
診療データの入力・管理
医療クラークは行政上の業務や医療の質向上のための事務作業の大部分を代行入力・管理可能であり、具体的には下記のような業務を行えます。
- 医療統計などの入力補助
- 検査データの入力補助
- がん登録
- 行政上の各種システム(救急医療情報システム)への入力
- 学会やカンファレンス資料準備
電子カルテ同様、これらの代行入力はその後必ず医師による内容の確認が必要である点は注意しましょう。
その他
厚生労働省による「医師事務作業補助体制加算について」によれば、医療クラークの業務範囲は「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」(平成19年12月28日医政発第1228001号)に基づいて、病院の実態に合わせて院内規程を定めることとあります。
つまり、画一的に業務内容が規定されているわけではなく、それぞれの医療機関の実情に合わせて、ある程度自由に定められるわけです。そのため、上記で紹介した以外にも、電話対応や資料の検索・設備整備など、さまざまな業務を担うケースもあります。
一方で、下記のような業務を行った場合は医師事務作業補助体制加算を算定できなくなるため、注意しましょう。
- 医師以外の職種の指示の下に行う業務
- 診療報酬請求事務(DPCのコーディングに係る業務を含む)
- 窓口・受付業務
- 医療機関の経営、運営のためのデータ収集業務
- 看護業務の補助及び物品運搬業務
クラーク運用の効果
実際に医療クラークを導入することで、下記のような効果が得られます。
- 医師の作業負担軽減
- コメディカルの作業負担軽減
- 患者サービスの向上
- チーム医療の向上
効果1. 医師の作業負担軽減
医療クラークを導入することで、医師の作業負担軽減が期待できます。
これまで医師が自身で行っていた診療録入力・各種書類作成・オーダリングなどの作業を医療クラークが代行することで、医師の物理的な作業量が軽減されるためです。
それに伴い、精神的負担や残業時間の軽減、研究や教育への時間分配など副次的なメリットも得られます。
効果2. コメディカルの作業負担軽減
医師だけでなく、コメディカルの作業負担も軽減されます。特に小規模なクリニックでは、看護師や他のコメディカルが医師の補助的業務を行っているケースも少なくありません。
しかし、医療クラークを導入することでこれらの負担が軽減され、各職種が本来の業務により集中できるようになります。
効果3.患者サービスの向上
医療クラークの導入によって、患者サービスの向上も期待できます。
医師ではなく医療クラークが書類作成などを行うことで、よりスムーズな診療が可能となり、患者の待ち時間が短縮されるためです。
また、医師の作業負担軽減によって、より患者と向き合うための診療時間を作りやすくなります。
紹介状や医療情報の返信がスムーズになるため、近隣の医療機関からの評判も良くなるでしょう。
効果4. チーム医療の向上
医療クラークの導入は、チーム医療の向上を促します。
医療クラークの存在によって各職種が本来の業務に集中できるようになり、他職種間で積極的にコミュニケーションを取る余裕が生まれるためです。最近ではチーム医療の一旦を担う新たな職種として認識されています。
医療クラークを円滑に配置するポイント
医療クラークはただ導入すればいいと言うわけではなく、円滑に配置するために3つのポイントを押さえておくことが重要です。
- 現場体制を整える
- 教育体制を整える
- モチベーションを向上させる
ポイント1. 現場体制を整える
医療クラークを円滑に配置するためには、事前に現場体制を整えることが重要です。
医療クラークはまだ広がり始めて間もないため、旧態依然とした医療現場ではその立場や役割が明確化されていないケースもあります。
しかし、医療クラークの業務は医師のサポートにとどまらず、院内の多くの職種との連携が求められます。
医療クラークの効果的な活用のためには、事前に院内での医療クラークの周知や、業務内容のマニュアル作成・配布など、組織内での立ち位置や運用体制をしっかり固めておくことが重要です。
ポイント2. 教育体制を整える
日本医師事務作業補助研究会のアンケート調査によれば、医師事務作業補助者配置に関する課題として教育体制が最も多く挙げられており、採用前後でしっかり教育することが重要です。
この背景には、医療クラークに求められる業務内容が医療現場によっても異なる点や、医療クラークには国家資格は不要で予備知識に乏しい点が挙げられます。
電子カルテの基本操作や医療用語の理解・医師法や医療法の理解など、最低限の知識は事前に身につけておく必要があります。
院内での教育システムやキャリアパスを含むマニュアル整備と、継続的な教育体制の構築が肝要です。
ポイント3. モチベーションを向上させる
医療クラークの効果的な運用のためには、モチベーションの維持・向上を意識することも重要です。
国家試験などを必要としない医療クラークは専門的な医学教育を受けていないため、医師に高度な業務内容を求められると、パンクして仕事へのモチベーションが低下する可能性があります。
医療クラークのモチベーション低下は職場の雰囲気や患者サービスの質にも影響するため、焦らずに教育し、モチベーションが向上できるように配慮しましょう。
まとめ
この記事では、医療クラークの概要や業務内容・導入のメリットについて解説しました。
医療クラークは医師のさまざまな業務をサポートしてくれる職種のため、導入することで医師の作業負担の軽減・職場の雰囲気改善・患者サービスの向上などさまざまなメリットが期待できます。
実際に、診療報酬の加算点数は年々引き上げられており、医療クラークを導入する医療機関も増加傾向です。
現状では、無床診療所に限り医師事務作業補助体制加算を算定できませんが、今後の適応拡大も期待されるため、ぜひこれを機に医療クラークの導入を検討しましょう。