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医療接遇とは?接客との違い・基本5原則・言葉遣い例・チェックリストを解説

医療接遇とは、不安や悩みを抱えて来院する患者に寄り添い、安心して受診できる環境を整えるための応対力です。一般的な接客マナーとは異なり、医療現場では過度なおもてなしではなく、患者の心身の状態に配慮した丁寧でわかりやすい対応が求められます。

医療接遇を適切に実践することで、患者満足度の向上やトラブル防止、スタッフ間の対応品質の均一化、医療機関への信頼獲得につながります。一方で、接遇を個人の経験や感覚だけに任せると、スタッフごとに対応のばらつきが生じやすくなります。

本記事では、医療接遇の意味や接客との違い、医療現場で求められる基本5原則、場面別の言葉遣い例、院内で活用できるチェックリスト、接遇を定着させるためのポイントについて解説します。

株式会社エムネス メディカルソリューション本部長 執行役員 放射線診断専門医 島村泰輝

この記事の監修者
株式会社エムネス
メディカルソリューション本部長 執行役員

放射線診断専門医
島村 泰輝

2012年に名古屋市立大学医学部を卒業。同大学大学院医学研究科を修了し、医学博士を取得。放射線診断専門医。名古屋市立大学病院および地域の基幹病院での勤務を経て、2019年に株式会社エムネスへ入職。遠隔画像診断に従事する傍ら、医師視点を活かしたプロダクト開発・設計にも携わる。2025年1月より執行役員 メディカルソリューション本部長に就任。医学部生を中心とした学生団体「MNiST」の監修も務める。

医療接遇とは

医療接遇とは、不安を抱きながら医療機関を受診する患者・家族の心情に寄り添い、安心感を与える応対力のことを指します。

他サービスの接遇と異なり、医療における接遇では相手となる患者が不安や恐れを抱えているため、ただ丁寧に接するだけでは不十分であり、安心感を与える応対が必要不可欠です。

身だしなみや態度、表情や言葉遣いはもちろんのこと、さりげない所作や気配り・目配りなど、さまざまな面での配慮が必要です。

また、患者は医療機関で医師以外にも医療事務や看護師など多職種と接するため、スタッフ全員が統一された医療接遇を身に付けておく必要があります。

医療接遇が重要視される背景

「お医者様は神様である」という時代は過去のものとなり、現代では患者の権利意識も高まっています。

実際に、平成7年の厚生白書では「医療は、人が生まれるときから死ぬときまで、国民一人ひとりに密接に関連するサービス」と定義しています。さらに、その後の1,412名の国民を対象としたアンケートでは、回答者のほぼ60%が「医療はサービス業である」との認識をもっていることが明らかになりました。

一方で、多くの患者が常に特別扱いを希望しているわけではありません。

同アンケートの「医療機関のスタッフに求めること」の項目においては、「患者を『お客様』として扱う」を選んだのは2%に過ぎず、「十分な説明」や「親身な診療」、「受診環境への配慮」を求める声が大多数でした。

以上のことからも、現代の医療では多くの患者が医療をサービスの1つと捉えている一方で、決してお客様扱いを望んでいるわけではなく、より安心できる丁寧な接遇や診療を重要視していることがわかります。

だからこそ、「お医者様」や「患者様」という偏りのある関係性ではなく、双方が対等な関係性の中で信頼関係を築くことが重要であり、そのためには適切な医療接遇が必要不可欠なのです。

医療接遇と他分野の接客マナーとの違い

医療接遇と他分野の接客マナーは、相手に配慮して丁寧に対応するという点では共通しています。一方で、医療現場では患者が不安や痛み、緊張を抱えて来院していることが多く、一般的な接客以上に心身の状態に配慮した応対が求められます。

飲食や観光などの接客では、楽しさや快適さを提供することが重視される場面が多くあります。しかし、医療機関を受診する患者は、症状や検査、治療に対する不安を抱えている場合があります。そのため、医療接遇では、明るく丁寧に接するだけでなく、患者の表情や声のトーン、体調に気を配りながら、安心して受診できるように寄り添う姿勢が大切です。

また、医療接遇では過度な接遇や一方的なお客様扱いではなく、患者と医療従事者が対等な関係性を築くことも重要です。患者を過度に「患者様扱い」することは、かえって距離感を生む場合があります。一方で、医療従事者が上から目線で接することも望ましくありません。

信頼と尊重のもとで対等な関係性を築くことで、患者は自身の症状や不安、希望を伝えやすくなります。医療接遇は、単なる丁寧な接客ではなく、患者が安心して医療を受けるためのコミュニケーションの土台だといえるでしょう。

医療接遇がもたらすメリット

医療接遇力向上による好循環の図

医療接遇がうまく機能すれば、上図に示すようにメリットが新たなメリットを生み出すという好循環を作り出せます。

特に、医療接遇のもたらすメリットの中で重要なのは下記の4つです。

  1. 患者満足度の向上とトラブル防止につながる
  2. 増患・増益が期待できる
  3. スタッフの働きやすさにつながる
  4. 他院との差別化につながる

メリット1. 患者満足度の向上とトラブル防止につながる

医療接遇によって患者満足度が向上し、クレームやトラブルを未然に防ぐことができます。

患者からのクレームやトラブルは、説明不足や対応時の印象、待ち時間への不満など、コミュニケーション上の行き違いがきっかけとなる場合があります。

大阪府医師会の行ったアンケート調査によれば、診療所のインシデントにおいて最も多い発生源は「薬剤関連(50.9%)」と「接遇(33.6%)」でした。さらに、接遇トラブルのうちの65.1%が「窓口対応」に原因があり、リスクマネジメントの観点からもいかに接遇が重要であるかがわかります。

メリット2. 増患・増益が期待できる

医療接遇の向上には大規模な設備投資を伴わずに取り組めることが多い一方で、うまく実践できれば患者離れを防ぐことができ、患者リピート率が向上します。

さらに、口コミが広がれば新規患者の獲得にもつながるため、増患・増益が期待できます。

より安定的な経営を目指す上でも、質の高い医療接遇を身につけることが重要です。

メリット3. スタッフの働きやすさにつながる

医療接遇によって職場環境の改善につながる点もメリットの1つです。

先述したように医療接遇の向上によって患者トラブルやクレームが減少すれば、それに対応するスタッフの精神的苦痛は軽減され、労働時間も短縮されます。

また、患者満足度の向上によって増患・増益できれば、スタッフの賃金上昇につながる可能性もあります。

さらに、患者からの信頼獲得はスタッフのやり甲斐や満足度の向上につながり、結果として職場全体の雰囲気向上にもつながるため、より良い職場環境をスタッフ自らで作り出すためにも医療接遇は重要です。

メリット4. 他院との差別化につながる

医療接遇の強化によって他院との差別化も図れます。

提供する医療の質がどれだけ高くても、スタッフやクリニック全体の雰囲気が悪ければ患者のリピート率は低下してしまい、経営難に陥る可能性もあるため注意が必要です。

令和3年に厚生労働省により実施された医療施設調査によれば、病院の施設数や有床診療所の施設数が減少する一方、一般診療所の数は104,292施設と年々増加傾向であり、中でも一般診療所の94.1%を占める無床診療所の施設数は増加し続けています。

医療費の高騰や医療技術の進歩に伴う外来患者の増加などを背景に、今後もこの傾向は続くことが予想されるため、特に無床診療所においては他院との差別化が必要不可欠であり、そのためにも、医療接遇の考え方が求められます。

医療現場で求められる接遇マナーの5原則

医療接遇のポイント

医療現場で求められる接遇マナーの原則は主に下記の5つです。

  1. 身だしなみ
  2. 挨拶
  3. 表情
  4. 言葉遣い
  5. 傾聴力・態度

原則1. 身だしなみ

医療現場における接遇マナーとして、身だしなみが重要です。身だしなみなどの外見の情報は第一印象に強く影響するため、身だしなみは患者の信頼獲得に直結します。

医療現場では、清潔で機能的・安全性の高い服装が好ましく、シミやしわ・汚れなどの多い服装は不信感につながるため注意が必要です。

服装以外にも、爪の色や長さ、髪型、アクセサリーなども患者からの印象に大きく影響するため、常に気を配るとよいでしょう。

原則2. 挨拶

医療現場における接遇マナーとして、挨拶も重要です。挨拶は患者とのコミュニケーションの第一歩であり、患者の存在に気付いていることや気にかけていることを自然と伝えることができます。

ただし、威圧的で過度に元気な挨拶は患者にとってマイナスな印象を与えかねないため、程よい声量やトーンでの挨拶がおすすめです。

またこの際、しっかりと相手の目を見て挨拶することでより不安を解消できるため、ぜひ実践してみるとよいでしょう。

原則3. 表情

医療現場における接遇マナーとして、表情も重要です。

どんなに身だしなみが清潔で挨拶がしっかりしていても、会話する際の表情が固かったり、しかめっ面の場合、患者に不信感や緊張感を与えかねません。

基本的には柔和な表情で、患者が辛い症状を訴える時は心配して寄り添うような表情で接するとよいでしょう。

原則4. 言葉遣い

医療現場においては、当然ですが相手の年齢関係なく丁寧な言葉遣いが基本です。

正しい敬語を、高齢の方でも聞き取りやすいようにはっきり話すことで、相手に安心感を与えることができます。

一方で、堅苦しい敬語だけが正解ではなく、比較的同年代の患者に対してはある程度フランクな敬語を使うなど、患者の年齢や状態に合わせて言葉遣いも工夫できるとよいでしょう。

原則5. 傾聴力・態度

医療現場における接遇マナーとして、傾聴力や態度も重要です。

会話する際の姿勢や態度、目線など、多くの要因が患者の印象に影響を与えるため、注意が必要です。

多忙だからといっても、無意識にため息をついたり、会話中に時計を見るなどの行為は患者に不信感を与えます。

常に患者に対してまっすぐ姿勢を向け、背筋を伸ばして目を見て会話することで信頼を得ることができます。無意識でも実践できるように普段から意識しておくとよいでしょう。

場面別に使える医療接遇の言葉遣い例

医療接遇では、身だしなみや表情、態度だけでなく、患者に伝える言葉の選び方も重要です。

同じ内容を伝える場合でも、命令口調や事務的な表現になってしまうと、患者に不安や不快感を与えてしまう可能性があります。特に、患者に何かを依頼する場面や、待ち時間が発生する場面では、「恐れ入りますが」「お手数ですが」「申し訳ございません」などのクッション言葉を添えることで、柔らかい印象になります。

ここでは、医療現場でよくある場面別に、事務的に聞こえやすい表現と、望ましい言い換え例を紹介します。

場面

言い換え前

望ましい表現

受付で来院理由を確認するとき

今日はどうされましたか?

本日はどのような症状でいらっしゃいましたか?

問診票の記入を依頼するとき

問診票を書いてください

こちらの問診票にご記入いただけますでしょうか。

保険証・診察券を確認するとき

保険証を出してください

保険証またはマイナンバーカードを確認させていただけますでしょうか。

電話で名前を確認するとき

お名前は?

お名前をフルネームでお伺いしてもよろしいでしょうか。

待ち時間が発生しているとき

まだ呼ばれていませんのでお待ちください

お待たせして申し訳ございません。順番にご案内しておりますので、もう少々お待ちください。

診察室へ案内するとき

中に入ってください

○○様、診察室へお入りください。

検査の案内をするとき

検査するので移動してください

これから検査室へご案内いたします。ご不明な点がありましたらお声がけください。

会計時に金額を伝えるとき

○円になります

本日のお会計は○円でございます。

会計後に見送るとき

お大事にどうぞ

お大事になさってください。

すぐに対応できないとき

今はできません

申し訳ございません。確認のうえ、順番に対応いたします。

また、医療現場では、患者が不安や痛みを抱えて来院していることも少なくありません。形式的に丁寧な言葉を使うだけでなく、相手の表情や状況を見ながら、声のトーンや話すスピードにも配慮することが大切です。

医療接遇チェックリスト

チェックリスト

医療接遇を院内で定着させるためには、スタッフ一人ひとりが自分の接遇を振り返る機会を持つことが重要です。

以下の項目は、朝礼や定期面談、接遇研修、院内マニュアル作成時の確認項目として活用できます。

身だしなみ

◻︎ 制服や白衣に汚れ、しわ、乱れがない

◻︎ 髪型や爪、メイク、アクセサリーが清潔感や安全性を損なっていない

◻︎ 名札を患者から見えやすい位置に着用している

◻︎ 靴や足元まで清潔に保たれている

挨拶・表情

◻︎ 患者が来院した際に、目線を向けて挨拶できている

◻︎ パソコンやカルテを見たままの「ながら挨拶」になっていない

◻︎ マスク着用時でも、目元の表情や声のトーンで安心感を伝えられている

◻︎ 患者の状態に応じて、笑顔と真剣な表情を使い分けている

言葉遣い・説明

◻︎ 患者の年齢や理解度に合わせて、わかりやすい言葉で説明している

◻︎ 専門用語を使う場合は、日常的な言葉で補足している

◻︎ 高齢者や聞こえづらい患者には、声量や話すスピードを調整している

◻︎ 「恐れ入りますが」「お手数ですが」などのクッション言葉を適切に使えている

◻︎ 命令口調や事務的な言い方になっていない

◻︎ 説明後に「ご不明な点はありませんか」など、患者の理解度を確認する一言を添えている

傾聴・態度

◻︎ 患者の話を遮らず、最後まで聞く姿勢を持っている

◻︎ 患者の方へ体や視線を向けて対応している

◻︎ 腕組み、ため息、時計を見るなど、不快感につながる態度をとっていない

◻︎ 忙しい時間帯でも、早口や冷たい印象の対応になっていない

プライバシーへの配慮

◻︎ 受付で症状や個人情報を確認する際、周囲に聞こえないよう声の大きさに配慮している

◻︎ 診療情報や検査結果に関する会話を、待合室など不特定多数に聞こえる場所で行っていない

◻︎ 書類や画面上の個人情報が、他の患者から見えないよう注意している

待ち時間・トラブル対応

◻︎ 待ち時間が長くなる場合は、理由や目安を伝えている

◻︎ 患者を待たせた場合は、表情や言葉でお詫びの気持ちを示している

◻︎ クレームを受けた際は、まず相手の話を遮らずに聞いている

◻︎ 暴言や過度な要求など、カスタマーハラスメントが疑われる場合の対応方針を理解している

◻︎ スタッフ個人で抱え込まず、院内で共有・相談できる体制がある

医療接遇を院内で実践・定着させるためのポイント

医療接遇を院内で実践・定着させるためのポイントは主に下記の3つです。

  • ポイント1. スタッフの教育と研修機会を設ける
  • ポイント2. 日々の実践とフィードバックの機会をつくる
  • ポイント3. カスタマーハラスメントに対する方針を作成する

ポイント1. スタッフの教育と研修機会を設ける

医療接遇を実践するためには、十分なスタッフ教育と研修を行うことが重要です。

医療従事者は大学や専門学校で接遇の教育や研修を十分に受けているとは限らないため、医療機関側が積極的に教育や研修の機会を設けることで接遇のスキルアップが期待できます。具体的には、医療接遇のプロ講師を招いての研修会の実施や、各スタッフに接遇の目標を設定させるなど、さまざまな方法が挙げられます。

これらの研修や教育は1回限りの開催では効果は少なく、接遇向上のためには定期的に教育や研修を行うことが重要です。

ポイント2. 日々の実践とフィードバックの機会をつくる

医療接遇は日々実践し、その上で定期的にフィードバックすることが重要です。

多忙な診療業務に追われて自身の接遇を振り返る機会がないと、徐々に誤った医療接遇を実践してしまう可能性があります。

医療機関の中で接遇に関する自己評価や他者評価を定期的に行うことで、新たな気付きや改善点の発見につながります。

今後の接遇の取り組み方の参考にもなるため、スタッフ全員で定期的にフィードバックする機会を設けるとよいでしょう。

ポイント3. カスタマーハラスメントに対する方針を作成する

医療接遇を実践する上では、医療機関としてカスタマーハラスメントに対する方針も作成することが重要です。

明らかにスタッフに非がないにも関わらず、患者からの無理な要求や説教を受けた際、医療接遇を気にするあまり、スタッフがうまく対応できない可能性があります。

事前にカスタマーハラスメントに対する方針を決めておけば、マニュアルに則って毅然とした態度で応対することができ、また応対するスタッフの精神的ストレスも軽減されるため、医療接遇の向上とともに方針を決めておくことが重要です。

カスタマーハラスメントについては、以下のセミナーレポート記事でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

まとめ

今回の記事では、医療接遇の重要性やメリット、基本5原則、場面別の言葉遣い例、院内で活用できるチェックリストについて解説しました。

現在の医療現場では、医師や看護師、医療事務など、スタッフ全員で医療接遇に取り組むことが求められています。適切な医療接遇を実践できれば、患者満足度の向上やトラブル防止、スタッフの働きやすさ、医療機関への信頼獲得につながります。

一方で、医療接遇はスタッフ個人の努力だけで定着するものではありません。基本5原則の共有、場面別の言葉遣いの確認、チェックリストを活用した振り返り、定期的な研修やフィードバックの機会づくりなど、医療機関全体で継続的に取り組むことが重要です。

ぜひこの記事を参考に、より質の高い医療接遇を実践し、患者から信頼される医療機関を目指しましょう。

執筆者:H1113(現役医師/麻酔科医)
執筆者:H1113(現役医師/麻酔科医)
2014年に都内の医学部を卒業後、患者様の健康を守るべく臨床医として約10年間医療現場で活動。現在も麻酔科として急性期病院にて勤務。その傍ら執筆や発信活動を開始し、これまでに執筆した医療・健康系の記事は300を超える。
セミナー開催中


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