医療接遇の重要性と実践方法とは?患者満足度を高めながら増患増益するポイントを解説
近年の医療現場では、提供する医療の質ももちろん重要ですが、同時に医療接遇力も求められています。
医療接遇とは、不安を抱く患者に寄り添い、安心して受診してもらうための応対力のことを指します。適切な医療接遇を実践できれば患者満足度の向上や経営の改善、スタッフの満足度向上など多くのメリットが得られるため、ぜひ実践すべきです。
この記事では、医療接遇のメリットやスキルを高めるための基本的な5原則、実践するためのポイントについて詳しく解説します。
この記事を読むことで医療接遇スキルの向上が期待でき、患者満足度の向上が目指せます。
目次[非表示]
- 1.医療接遇とは
- 1.1.医療接遇の重要性
- 2.医療接遇がもたらすメリット
- 2.1.メリット1. 増患・増益が期待できる
- 2.2.メリット2. 患者満足度の向上しトラブルを未然に防ぎやすい
- 2.3.メリット3. 職場環境がよくなる
- 2.4.メリット4. 他院との差別化につながる
- 3.医療接遇と他分野の接客マナーとの違い
- 4.医療現場で求められる接遇マナーの5原則
- 4.1.原則1. 身だしなみ
- 4.2.原則2. 挨拶
- 4.3.原則3. 表情
- 4.4.原則4. 言葉遣い
- 4.5.原則5. 傾聴力・態度
- 5.医療接遇を実践するためのポイント
- 6.まとめ
医療接遇とは
医療接遇とは、不安を抱きながら医療機関を受診する患者・家族の心情に寄り添い、安心感を与える応対力のことを指します。
他サービスの接遇と異なり、医療における接遇では相手となる患者が不安や恐れを抱えているため、ただ丁寧に接するだけでは不十分であり、安心感を与える応対が必要不可欠です。
身だしなみや態度、表情や言葉遣いはもちろんのこと、さりげない所作や気配り・目配りなど、さまざまな面での配慮が必要です。
また、患者は医療機関で医師以外にも医療事務や看護師など多職種と接するため、スタッフ全員が統一された医療接遇を身に付けておく必要があります。
医療接遇の重要性
「お医者様は神様である」という時代は過去のものとなり、現代では患者の権利意識も高まっています。
実際に、平成7年の厚生白書では「医療は、人が生まれるときから死ぬときまで、国民一人ひとりに密接に関連するサービス」と定義しています。さらに、その後の1,412名の国民を対象としたアンケートでは、回答者のほぼ60%が「医療はサービス業である」との認識をもっていることが明らかになりました。
一方で、多くの患者が常に特別扱いを希望しているわけではありません。
同アンケートの「医療機関のスタッフに求めること」の項目においては、「患者を『お客様』として扱う」を選んだのは2%に過ぎず、「十分な説明」や「親身な診療」、「受診環境への配慮」を求める声が大多数でした。
以上のことからも、現代の医療では多くの患者が医療をサービスの1つと捉えている一方で、決してお客様扱いを望んでいるわけではなく、より安心できる丁寧な接遇や診療を重要視していることがわかります。
だからこそ、「お医者様」や「患者様」という偏りのある関係性ではなく、双方が対等な関係性の中で信頼関係を築くことが重要であり、そのためには適切な医療接遇が必要不可欠なのです。
医療接遇がもたらすメリット
医療接遇がうまく機能すれば、上図に示すようにメリットが新たなメリットを生み出すという好循環を作り出せます。
特に、医療接遇のもたらすメリットの中で重要なのは下記の4つです。
- 増患・増益が期待できる
- 患者満足度の向上しトラブルを未然に防ぎやすい
- 職場環境がよくなる
- 他院との差別化につながる
メリット1. 増患・増益が期待できる
増患・増益を期待できる点が医療接遇のメリットの1つです。
医療接遇の向上には特別大きなコストは発生しない一方で、うまく実践できれば患者離れを防ぐことができ、患者リピート率が向上します。
さらに、口コミが広がれば新規患者の獲得にもつながるため、増患・増益が期待できます。
より安定的な経営を目指す上でも、質の高い医療接遇を身につけることが重要です。
メリット2. 患者満足度の向上しトラブルを未然に防ぎやすい
医療接遇によって患者満足度が向上し、クレームやトラブルを未然に防ぐことができます。
患者からのクレームやトラブルの原因の多くは、不十分な医療接遇によって信頼関係を構築できていないためです。
大阪府医師会の行ったアンケート調査によれば、診療所のインシデントにおいて最も多い発生源は「薬剤関連(50.9%)」と「接遇(33.6%)」でした。さらに、接遇トラブルのうちの65.1%が「窓口対応」に原因があり、リスクマネジメントの観点からもいかに接遇が重要であるかがわかります。
メリット3. 職場環境がよくなる
医療接遇によって職場環境の改善につながる点もメリットの1つです。
先述したように医療接遇の向上によって患者トラブルやクレームが減少すれば、それに対応するスタッフの精神的苦痛は軽減され、労働時間も短縮されます。
また、患者満足度の向上によって増患・増益できれば、スタッフの賃金上昇につながる可能性もあります。
さらに、患者からの信頼獲得はスタッフのやり甲斐や満足度の向上につながり、結果として職場全体の雰囲気向上にもつながるため、より良い職場環境をスタッフ自らで作り出すためにも医療接遇は重要です。
メリット4. 他院との差別化につながる
医療接遇の強化によって他院との差別化も図れます。
提供する医療の質がどれだけ高くても、スタッフやクリニック全体の雰囲気が悪ければ患者のリピート率は低下してしまい、経営難に陥る可能性もあるため注意が必要です。
令和3年に厚生労働省により実施された医療施設調査によれば、病院の施設数や有床診療所の施設数が減少する一方、一般診療所の数は104,292施設と年々増加傾向であり、中でも一般診療所の94.1%を占める無床診療所の施設数は増加し続けています。
医療費の高騰や医療技術の進歩に伴う外来患者の増加などを背景に、今後もこの傾向は続くことが予想されるため、特に無床診療所においては他院との差別化が必要不可欠であり、そのためには医療接遇が必要不可欠です。
医療接遇と他分野の接客マナーとの違い
医療接遇と他分野の接客マナーとの違いは下記の通りです。
- 患者さんの心身の不安に寄り添う
- 過度な接遇ではなく、お互いに対等な関係性を築くこと
1. 患者さんの心身の不安に寄り添う
医療接遇と他分野の接客マナーの違いとして、患者さんの心身の不安に寄り添う必要があります。
他の業種でも接遇が重要視されていることに変わりありませんが、例えば飲食や観光などの業種の場合、そのサービスを受ける側はサービスを楽しみに受けにきています。
しかし、医療においては異なり、サービスを受ける側の患者は不安と恐怖、痛みに苦しんで受診しているため、心身の不安に寄り添う必要があります。
そのためには、挨拶や態度はもちろんのこと、目配りや心配りなども意識すると良いでしょう。
2. 過度な接遇ではなく、お互いに対等な関係性を築くこと
医療接遇では、過度な接遇ではなくお互いに対等な関係性を築くことが重要です。
他業種ではお客様を相手にサービスを提供するため上下関係がはっきりしていますが、医療接遇で同じ上下関係を作り出すとむしろ悪影響です。
過度に「患者様扱い」をすることは患者の求める医療の本質ではなく、また患者に対して上から目線で診療することももちろん望まれていません。
信頼と尊重のもと、双方が対等な関係性を築くことで、患者が初めてリラックスして自身の意見や不安を口にすることができます。
医療現場で求められる接遇マナーの5原則
医療現場で求められる接遇マナーの原則は主に下記の5つです。
- 身だしなみ
- 挨拶
- 表情
- 言葉遣い
- 傾聴力・態度
原則1. 身だしなみ
医療現場における接遇マナーとして、身だしなみが重要です。
身だしなみなどの外見の情報は第一印象に強く影響するため、身だしなみは患者の信頼獲得に直結します。
医療現場では、清潔で機能的・安全性の高い服装が好ましく、シミやしわ・汚れなどの多い服装は不信感につながるため注意が必要です。
服装以外にも、爪の色や長さ、髪型、アクセサリーなども患者からの印象に大きく影響するため、常に気を配るとよいでしょう。
原則2. 挨拶
医療現場における接遇マナーとして、挨拶も重要です。
挨拶は患者とのコミュニケーションの第一歩であり、患者の存在に気付いていることや気にかけていることを自然と伝えることができます。
ただし、威圧的で過度に元気な挨拶は患者にとってマイナスな印象を与えかねないため、程よい声量やトーンでの挨拶がおすすめです。
またこの際、しっかりと相手の目を見て挨拶することでより不安を解消できるため、ぜひ実践してみるとよいでしょう。
原則3. 表情
医療現場における接遇マナーとして、表情も重要です。
どんなに身だしなみが清潔で挨拶がしっかりしていても、会話する際の表情が固かったり、しかめっ面の場合、患者に不信感や緊張感を与えかねません。
基本的には柔和な表情で、患者が辛い症状を訴える時は心配して寄り添うような表情で接するとよいでしょう。
原則4. 言葉遣い
医療現場においては、当然ですが相手の年齢関係なく丁寧な言葉遣いが基本です。
正しい敬語を、高齢の方でも聞き取りやすいようにはっきり話すことで、相手に安心感を与えることができます。
一方で、堅苦しい敬語だけが正解ではなく、比較的同年代の患者に対してはある程度フランクな敬語を使うなど、患者の年齢や状態に合わせて言葉遣いも工夫できるとよいでしょう。
原則5. 傾聴力・態度
医療現場における接遇マナーとして、傾聴力や態度も重要です。
会話する際の姿勢や態度、目線など、多くの要因が患者の印象に影響を与えるため、注意が必要です。
多忙だからといっても、無意識にため息をついたり、会話中に時計を見るなどの行為は患者に不信感を与えます。
常に患者に対してまっすぐ姿勢を向け、背筋を伸ばして目を見て会話することで信頼を得ることができます。無意識でも実践できるように普段から意識しておくとよいでしょう。
医療接遇を実践するためのポイント
医療接遇を実践するためのポイントは主に下記の3つです。
- ポイント1. スタッフの教育と研修機会を設ける
- ポイント2. 日々の実践とフィードバックできる環境づくり
- ポイント3. カスタマーハラスメントに対する方針作成
ポイント1. スタッフの教育と研修機会を設ける
医療接遇を実践するためには、十分なスタッフ教育と研修を行うことが重要です。
医療従事者は大学や専門学校で接遇の教育や研修を十分に受けているとは限らないため、医療機関側が積極的に教育や研修の機会を設けることで接遇のスキルアップが期待できます。
具体的には、医療接遇のプロ講師を招いての研修会の実施や、各スタッフに接遇の目標を設定させるなど、さまざまな方法が挙げられます。
これらの研修や教育は1回限りの開催では効果は少なく、接遇向上のためには定期的に教育や研修を行うことが重要です。
ポイント2. 日々の実践とフィードバックできる環境づくり
医療接遇は日々実践し、その上で定期的にフィードバックすることが重要です。
多忙な診療業務に追われて自身の接遇を振り返る機会がないと、徐々に誤った医療接遇を実践してしまう可能性があります。
医療機関の中で接遇に関する自己評価や他者評価を定期的に行うことで、新たな気付きや改善点の発見につながります。
今後の接遇の取り組み方の参考にもなるため、スタッフ全員で定期的にフィードバックする機会を設けるとよいでしょう。
ポイント3. カスタマーハラスメントに対する方針作成
医療接遇を実践する上では、医療機関としてカスタマーハラスメントに対する方針も作成することが重要です。
明らかにスタッフに非がないにも関わらず、患者からの無理な要求や説教を受けた際、医療接遇を気にするあまり、スタッフがうまく対応できない可能性があります。
事前にカスタマーハラスメントに対する方針を決めておけば、マニュアルに則って毅然とした態度で応対することができ、また応対するスタッフの精神的ストレスも軽減されるため、医療接遇の向上とともに方針を決めておくことが重要です。
まとめ
今回の記事では医療接遇の重要性やメリット、実践する際のポイントについて詳しく解説しました。
今日の医療現場ではスタッフ全員の医療接遇の向上が強く求められており、うまく実践できれば増益増収や患者満足度向上、スタッフの満足度向上など、患者・スタッフ・医療機関全員にメリットが享受されます。
医療接遇向上のためには、スタッフ個人個人の努力はもちろんのこと、定期的な研修の開催やマニュアルの策定など、医療機関側からの支援や協力も必要不可欠です。
ぜひこの記事を参考に、より質の高い医療接遇を実践し、患者から信頼される医療機関を目指しましょう。