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医師の働き方改革とは?概要や課題、医療機関の取り組むべき対策を解説

労働環境や長時間労働の是正、多様な働き方の実現を目標に、2019年から多くの職種で施行された働き方改革。医師においては、応召義務を負っていることや地域医療への影響といった業務の特殊性を鑑みて、5年遅れの2024年から本格的に施行され、医師の労働負担の軽減や業務の効率化が期待されています。

一方で、これまで医師の長時間労働に支えられてきた医療現場も少なくないため、働き方改革によって実務面や経営面にもさまざまな課題や影響が出ているのも事実です。

この記事では、医師の働き方改革の概要や課題、医療機関が行うべき対策などについて詳しく解説します。
この記事を読むことで、医師の働き方改革における法改正への理解が深まり、より良い経営や労働環境の構築を目指せます。

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監修者情報:嶋田祐記(脳神経外科医)

2024年から施行開始された「医師の働き方改革」とは

医師

2024年から施行された医師の働き方改革とは、労務管理の徹底や労働時間の短縮により医師の健康を確保することを目的とした法改正のことです。(参考資料:厚生労働省「医師の働き方改革」)

医師の長時間労働、不十分な労務管理、医師への業務集中など、現在の医療業界にはさまざまな課題があります。
加えて、今後さらに深刻化していく少子化によって医療の担い手は減少していく中で、今後も医療の質や安全を確保し、持続可能な医療提供を行うためには、上記のような諸問題の解決が必要不可欠です。

医師の働き方改革では、医師の時間外労働上限規制の適用を中心とした法改正によって、より良い労働環境の構築と、医療の質の向上を目指します。

医師の働き方改革の背景とは?医師の労働実態と課題

医師の働き方改革の背景には、主に2つの課題が挙げられます。

  1. 長時間労働の現状
  2. 労働時間管理の不備

課題1. 長時間労働の現状

働き方改革の背景の1つが、医師の長時間労働です。

厚生労働省の報告する「医師の勤務実態について」によれば、時間外・休日労働時間が960時間/年以上が医師全体の21.2%、1920時間/年以上はなんと3.6%でした。

過去の調査と比較すれば減少傾向ではあるものの、いわゆる36協定(厚生労働省「36協定定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」)で規定される上限が原則360時間/年、最大720時間/年であることを鑑みると、医師の長時間労働は依然として解決すべき課題と言えます。

課題2. 労働時間管理の不備

医療機関側の労働時間管理体制の不備も、働き方改革を後押しする要因の1つです。

本来、労働者に時間外休日労働を課す場合、労働基準法第36条に基づき、使用者と労働者間で1日、1ヶ月、1年当たりの時間外労働の上限などを定める、いわゆる36協定の締結が必要です。

しかし、36協定が未締結、もしくは締結していても医師の労働時間を正確に把握できていない(しようとしない)医療機関も少なくありません。

労働時間管理体制の不備は医師の長時間労働が常態化する原因の1つと考えられており、早急に是正が求められています。

医師の働き方改革のポイント

医師の働き方改革のポイントは主に下記の3つです。

  1. 時間外労働の上限規制
  2. 医療機関勤務環境評価センターの設置
  3. 追加的健康確保措置の義務化

ポイント1. 時間外労働の上限規制

医師の働き方改革最大のポイントとして、時間外労働の上限規制の適用が挙げられます。

医療機関に適用される水準は、機能や特性によってそれぞれ下記のように分類されます。

医療機関に
適用される水準

対象

A水準

B・C水準以外のすべての医療機関

連携B水準

地域医療確保のためB水準の医療機関に医師を派遣する必要のある医療機関

B水準

高次救急医療施設やがん拠点施設など、地域医療確保のため自院内でやむを得ず長時間労働が必要な医療機関

C-1水準

臨床研修医や専攻医の研修のため、やむを得ず長時間労働が必要な医療機関

C-2水準

6年目以降の医師が高度な技能習得のために、やむを得ず長時間労働が必要な医療機関

以前までは時間外労働に上限は設けられていませんでしたが、働き方改革によって水準ごとに下記のような新たな基準が設けられました。

年間の上限労働時間

A水準

960時間

連携B水準・B水準

C-1水準・C-2水準

1860時間

一般の業種における時間外労働は最大720時間/年と規定されていますが、医療の公共性や医療提供体制の確保の必要性などを勘案し、医師の時間外労働は960時間/年と規定されています。

また、後述しますが、時間外労働の上限を超過した使用者に対しては罰則も設けられているため、注意が必要です。

ポイント2. 医療機関勤務環境評価センターの設置

医師の働き方改革の2つ目のポイントは、医療機関勤務環境評価センターの設置です。

医療機関勤務環境評価センターとは、医療法の規定に基づいて公益社団法人日本医師会が運営しており、B・C水準取得予定の医療機関における労務管理・健康確保の体制を確認・評価する機関のことです。

医療機関の労務管理体制、医師労働時間短縮計画、取り組みの実施効果などが評価対象であり、その評価結果も踏まえて、最終的に都道府県が水準を判断します。

医療機関の自主的な労働環境の改善だけでなく、外部組織である医療機関勤務環境評価センターを設置することで、より透明性の高い環境整備の促進が期待されます。

ポイント3. 追加的健康確保措置の義務化

医師の働き方改革の3つ目のポイントは、追加的健康確保措置の義務化です。

追加的健康確保措置とは、時間外労働が100時間/月を超える医師の健康確保を目的とした措置のことで、主に下表の通りです。

内容

義務化の有無

面接指導

管理者が医師からの意見・報告を踏まえ、就業上の措置を講じる

水準に関わらず義務

連続勤務時間制限

連続勤務時間の上限が28時間(初期研修医の場合、9時間以上の勤務間インターバルの確保の上、連続勤務時間の上限が15時間)

A水準:努力義務

B・C水準:義務

勤務間インターバル規制

終業時刻から次の始業時刻までの休息時間を9時間以上確保する

代償休息

多忙など理由に休息を取れなかった場合、他の勤務時間内での休息時間の確保や、勤務間インターバルの延長

特に、B・C水準の医療機関ではどの措置においても義務化されており、医師の休息確保に関する取り組みが強化されています。

医師の働き方改革に伴う罰則

労働基準法第36条第6項で規定される、罰則の基準は下記の通りです。

  • 時間外・休日労働の合計時間が100時間/月以上
  • 時間外・休日労働の合計時間が、2〜6ヶ月の平均のいずれかで80時間以上

上記のケースに該当した場合、使用者は労働基準法第36条違反となり、以下のいずれかの罰則が課されます。

  • 6ヶ月以下の懲役
  • 30万円以下の罰金

実際には違反したら即罰則、というわけではなく、労働基準監督署による調査が行われ、正式に違反が認められた場合は是正勧告や改善指導が実施されます。しかし、是正勧告に従わない場合は書類送検などの可法処分が行われ、最終的に罰則が与えられるため、必ず指摘された内容を是正することが重要です。

また、違反が公表されれば医療機関としての社会的信用や信頼は失墜し、患者や医療従事者が離れていく可能性もあるため、必ず法令を遵守するよう努めましょう。

医師の働き方改革を進めるうえでの課題

医師の働き方改革を進める上では、下記のような課題があります。

  1. 労働時間の短縮と医療提供のバランス
  2. 医師への業務集中
  3. 医療機関の人員不足
  4. コスト負担の増加による病院経営への影響

課題1. 労働時間の短縮と医療提供のバランス

労働時間の短縮と医療提供のバランスを取るのが難しい点が、医師の働き方改革における課題の1つです。

残念ながら、これまで医師の長時間労働によって支えられてきた医療機関も少なくないのが現状です。そのため、働き方改革によって強制的に医師の労働時間が短縮すれば、これまでの医療体制を維持できなくなる可能性があります。

特に、僻地や過疎地では働き方改革施行以前から医師不足や医師の過重労働が問題視されており、より大きな影響を受ける可能性が危惧されます。

課題2. 医師への業務集中

医師への業務集中も、働き方改革の課題です。

医師は日々の診療以外にもさまざまな業務を行っており、これによって医師の長時間労働や業務効率の低下が生じています。

血圧測定や各種書類作成、患者説明など、必ずしも医師でなければ遂行できない業務でない業務は、他職種に移管、もしくは分担する、いわゆるタスクシフト・シェアによって、医師への業務を分散する必要があります。

働き方改革推進のためには、タスクシフト・シェアの推進やそれに伴う各種法改正が必要です。

課題3. 医療機関の人員不足

医療機関の人員不足も、働き方改革の課題の1つです。

働き方改革によって労働時間が短縮する中、これまで同様の医療提供を可能にするためには、豊富な人員が必要となります。しかし、少子化に伴う医療の担い手の減少や、医師の地方偏在・診療科偏在など諸問題を抱えており、多くの医療機関は人員不足に陥っています。

こうした人員不足の中で、医療の質や提供体制をいかに維持しつつ働き方改革を推進していくかが今後の課題です。

課題4. コスト負担の増加による病院経営への影響

働き方改革に伴うコスト負担の増加や、それに伴う病院経営への影響も危惧されています。

働き方改革を実現するためには、新たな人員の確保や労務管理のためのシステム導入など、さまざまなコストが発生する可能性があります。

また、働き方改革では時間外労働の上限規制とともに、時間外労働の賃金割増率も見直され、月60時間を超える時間外労働においては「50%以上の割増賃金率」の適用が求められるため、さらに病院経営を圧迫する可能性があるのです。

医療機関が働き方改革に向けて取り組むべき具体的な対策

医療機関が働き方改革に向けて取り組むべき対策は主に下記の5つです。

  1. 労務管理方法の見直し
  2. タスク・シフト/シェアの推進
  3. IT・デジタルツールの導入による業務効率化
  4. 多様な勤務形態(非常勤医師・フリーランス医師)の導入
  5. 地域医療連携をはじめとした医療連携の強化

対策1. 労務管理方法の見直し

働き方改革では新たに時間外労働の上限規制や罰則規定が設けられており、医療機関には正確な労務管理が求められます。

ただし、医師の勤務形態は一般企業と比べて複雑です。日直・宿直・夜勤・外勤・オンコールなど多様な働き方が混在するため、労働時間の定義や集計方法の設計を工夫しないと、正確な把握は難しくなります。

医師の自己申告で管理している場合は、勤怠管理システムの導入など、これを機に労務管理方法を見直すと良いでしょう。

対策2. タスク・シフト/シェアの推進

働き方改革に向けて、医療機関内でのタスク・シフト/シェアの推進は必要不可欠です。

働き方改革によって医師の労働時間が短縮するため、医療体制の維持のためには医師に集中していた業務を他職種に分担、もしくは共同で行う必要があるためです。

血圧測定や患者説明、患者案内、各種書類作成など、医師以外でも実施可能な業務は積極的に他職種に分担し、特定看護師の起用や医師間でのチーム制の導入など、さまざまなタスク・シフト/シェアを実践する必要があります。

近年、法改正が進んだことにより各職種で実施できる業務内容も拡大傾向にあり、さらなるタスク・シフト/シェアの促進も期待されます。

対策3. IT・デジタルツールの導入による業務効率化

働き方改革実現のためには、IT・デジタルツールの導入による業務効率化も必要不可欠です。

短縮する労働時間の中でこれまで同様の医療体制を提供するためには、業務効率化が必要不可欠であり、そのためにはIT・デジタルツールの導入がおすすめです。

例えば、カンファレンスをweb会議で行えば時間や場所に縛られることなく効率的に他職種で話し合うことができます。

また、チャットツールや勤怠管理ツール、電子カルテ上のワークフローシステムなど、業務効率化を図れるツールは多岐に渡ります。

導入に初期コストがかかる点は難点ですが、長期的に見てメリットが大きいため、これを機に導入を検討すると良いでしょう。

対策4. 多様な勤務形態(非常勤医師・フリーランス医師)の導入

働き方改革実現のためには、医師の多様な勤務形態を取り入れていくことが重要です。

働き方改革によって、これまでのように長時間は働けなくなる医師が出てくるため、その医師が担っていた業務を非常勤医師やフリーランス医師で補うのも1つの選択肢です。

当直明けの外来や当直業務などを外部医師に委託することで、常勤医師の健康を確保しつつ、これまで同様の医療体制を提供できます。

一方で、非常勤医師やフリーランス医師の雇用には人件費がかさむため、導入する際は慎重な経営判断が求められます。

対策5. 地域医療連携をはじめとした医療連携の強化

働き方改革には地域医療連携をはじめとした医療連携の強化が必要です。

地域における構造的な医師の長時間労働の要因に対し、単一の医療機関だけでは解決することができないため、医療連携を強化することで解決を目指します。

例えば、休日・夜間救急の輪番制を地域で構築することで、各医療機関の医師の労働時間を短縮することができます。

また、医療連携の強化は地域における医師偏在の解消にもつながるため、働き方改革の推進にとって必要不可欠です。

まとめ

今回の記事では、医師の働き方改革の概要や課題、医療機関の行うべき対策について解説しました。

少子化によって医療の担い手の減少が危惧される中、医療を必要とする高齢者の割合は増加していくため、医師の負担増が予想されます。こうした中で、医師が健康的に働き続け、持続的な医療提供を可能とするためには、働き方改革による医師の健康確保が必要不可欠です。実現のためにはコスト面や人材確保の面で課題は残るものの、労務管理方法の見直しやITツールの導入など、医療機関が行うべき対策は少なくありません。

本記事を参考に、効率的に働き方改革を促進し、働く医師にとってより良い労働環境の構築を目指しましょう。

執筆者:H1113(ペンネーム)
執筆者:H1113(ペンネーム)
2014年に都内の医学部を卒業後、患者様の健康を守るべく臨床医として約10年間医療現場で活動。現在も麻酔科として急性期病院にて勤務。その傍ら執筆や発信活動を開始し、これまでに執筆した医療・健康系の記事は300を超える。
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