チーム医療の重要性と必要性とは?他職種連携のポイントと役割や課題を解説
2024年から施行された医師の働き方改革は、労働時間の短縮や生産性の向上などさまざまなメリットが期待される一方で、医師は少ない時間でこれまでと同じ業務量をこなす必要に迫られています。
これらの課題解決のために、ある職種が担っていた業務を一部他職種に移管、もしくは共同化するタスクシフト・タスクシェアが急速に進んでいます。
一方で、ただ医師の業務を他職種に移管すれば良いわけではなく、移管した上で安全性や効率性を維持するためには、多職種間での連携によって医療の質を向上させる「チーム医療」の促進が必要不可欠です。
そこでこの記事では、チーム医療の概要や必要性、課題について詳しく解説します。この記事を読むことで、チーム医療を円滑に回せるようになり、より質の高い医療を提供できるようになります。
目次[非表示]
- 1.チーム医療とは?
- 2.チーム医療の重要性と必要性
- 3.チーム医療のメリット
- 3.1.メリット1. 質の高い医療の提供
- 3.2.メリット2. 医療従事者の負担軽減
- 3.3.メリット3. 情報共有の促進
- 3.4.メリット4. 患者満足度の向上
- 4.チーム医療に携わる主な職種と各職種の担う役割
- 5.チーム医療の今後の課題と対策
- 5.1.課題1. 医療従事者の人材不足
- 5.2.課題2. チーム医療に対する不十分な教育
- 5.3.課題3. コミュニケーションエラー
- 6.チーム医療を円滑に回すためのポイント
- 7.まとめ
チーム医療とは?
厚生労働省の「チーム医療の推進について」によれば、チーム医療とは「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と定義されています。
よって、複数の職種が各々のプロフェッショナリズムを持ち、患者を起点とする医療に携わる状態を指しています。加えて、医師は複数の専門家がそれぞれの専門性を持ち寄り、一つの疾患に対して対応することも指しています。
1999年、とある病院で心臓外科手術と呼吸器外科手術の患者取り違えが発生し、両手術が終了した後にICUで患者取り違えが発覚しました。(参考記事)
この一件に端を発し、以前までの医師中心の医療体制が見直され、2009年には厚生労働省で「チーム医療の推進に関する検討会」が立ち上がりました。
近年では地域における医療資源の逼迫を背景に、チーム医療に対する考え方も少し変化してきています。限られた医療資源をより効率的に活用するため、政府は「地域医療構想」を打ち立て、その主な内容は地域における医療機関の機能分化と連携促進です。
地域における複数の医療機関同士が連携して1人の患者の健康を守る、いわゆる地域医療連携もまた、広義のチーム医療といえます。
チーム医療の重要性と必要性
チーム医療の重要性や必要性は年々増しており、その理由は下記の通りです。
- 医療の高度化によって高い専門性が求められている
- 人口動態の変化によって効率性が求められている
- 1人の患者に対し、チーム全体で包括的なケアが求められている
- 最適な医療提供のために、多職種連携が求められてれる
医療技術の高度化に伴い、1人の患者に対してより専門性の高い医療を提供することが求められる現代では、複数の専門家の知識や経験を集約することが望まれます。
また近年では、より良い医療を提供するためにはただ病気を治すだけでは不十分であり、患者の心理的側面や社会的側面も含めた包括的なケアが必要であると考えられてます。
そのため、医師や看護師のみならず、ソーシャルワーカーや公認心理士など、多くの職種が連携して1人の患者を包括的にケアすることが肝要です。
今後は少子高齢化のさらなる深刻化が予想されるため、医療現場や地域医療では需給の逼迫が予想され、より効率性を高めるためにもチーム医療のさらなる促進が必要となるでしょう。
チーム医療のメリット
チーム医療の主なメリットは下記の4つです。
- メリット1. 質の高い医療の提供
- メリット2. 医療従事者の負担軽減
- メリット3. 情報共有の促進
- メリット4. 患者満足度の向上
メリット1. 質の高い医療の提供
チーム医療によって、より質の高い医療の提供が可能となります。
各分野の専門家が連携して1人の患者に対して医療を提供するため、より一つの疾患に対して複数の目線から診療に当たることができます。
例えば、医療過疎地や地方では専門の分野でない傷病も医師が1人で診なければいけないケースが散見されますが、それぞれの分野の専門家が同時に診れば質が上がるのは明らかです。
メリット2. 医療従事者の負担軽減
残念ながら、今の医療現場では本来その職種がやるべき仕事だけに専念できる環境にはありません。
例えば医師の場合は、診療情報提供書の作成や診療記録の入力など、本来の診察業務の他にも書類業務をはじめとして、たくさんの業務が存在します。
近年ではこれらの事務作業をサポートしてくれる医師事務作業補助者を導入することで業務負担を軽減する医療機関も増えていますが、実際はまだまだ医師が行っているのが実情です。
他にも、病棟や外来へのクラーク配置や、薬剤師の病棟配置による業務分担など、多職種が連携することで医療従事者の負担軽減を目指せる点がチーム医療のメリットです。
メリット3. 情報共有の促進
刻一刻と変化する患者の状態に合わせて最適な医療を提供する必要があるため、チーム医療において医師同士だけではなく、看護師、放射線技師、検査技師、ケースワーカー、ソーシャルワーカーなど多職種での情報共有は必要不可欠であり、自ずと多職種間での情報共有が促進されます。
また、密な情報共有はそのまま医療安全の向上にもつながるため、チーム医療における大きなメリットと言えます。
メリット4. 患者満足度の向上
チーム医療のメリットの1つが、患者満足度の向上です。
患者が看護師に症状を伝えた際、すぐに医師や理学療法士が患者の元を訪れ「看護師から聞いたのですが〜」と話せば、患者はとても安心することでしょう。
実際の研究でも、医師や看護師の多職種連携は有意に患者満足度を向上させることを示しており、より満足度を向上させるためには患者が医療従事者間の連携を実感することが重要であるとしています。(参考資料「患者満足度を規定する要因の検討 ー医療従事者の職種間協力に着目してー」)
チーム医療に携わる主な職種と各職種の担う役割
チーム医療に携わる主な職種と担う役割の一例は下表の通りです。
職種 |
チーム医療においての役割 |
主にどのようなチーム形成時に必要になるか |
---|---|---|
医師 |
・診断や治療方針の決定 |
ほとんど全てのチームに必要 |
看護師 |
・多職種間の調整役 |
ほとんど全てのチームに必要 |
医療事務 |
・受付、予約管理、書類整備などの業務 |
・周術期管理チーム |
薬剤師 |
・薬剤の適正使用を促す |
・感染症対策チーム |
管理栄養士 |
・患者の栄養管理・指導 |
・摂食・嚥下チーム |
技師 |
・検体検査の分析 |
・医療機器安全管理チーム |
療法士 |
・患者のリハビリ計画の立案 |
|
臨床工学士 |
・医療機器の保守・点検・操作 |
・医療機器安全管理チーム ・医療安全管理チーム など |
公認心理士 |
・患者家族の心理的支援 |
・リハビリテーションチーム |
言語聴覚士 |
・会話や食事に関するリハビリ支援 |
・リハビリテーションチーム |
福祉士 |
・福祉サービスの紹介、案内 |
リハビリテーションチーム |
医療ソーシャルワーカー |
・患者家族の相談窓口 |
リハビリテーションチーム |
参考資料:チーム医療推進協議会
チーム医療の今後の課題と対策
チーム医療の今後の課題は主に下記の3つです。
- 課題1. 医療従事者の人材不足
- 課題2. チーム医療に対する不十分な教育
- 課題3. コミュニケーションエラー
課題1. 医療従事者の人材不足
チーム医療の今後の課題として医療従事者の人材不足が挙げられます。
既知の通り、日本は今後さらなる少子高齢化が予想され、医療・介護を受ける側の高齢者は増加し、医療を提供する医療従事者は減少していくため、需給の逼迫は避けられません。
理想的なチーム医療の実現には多分野の専門家を揃える必要がありますが、多くの病院では人材不足によって実現できない可能性があります。
そこで、課題解決のためにはタスクシフト・タスクシェアの促進が必要不可欠です。
タスクシフト・タスクシェアとは、これまである職種が担っていた業務を他の職種にシフト(移管)することやシェア(共同化)することです。
特に最近では看護師の人材不足が顕著で、手術中の器械出しを臨床工学士にタスクシェアする医療機関も増えています。
アメリカではすでに一般的ですが、医師をサポートする職種のPA(Physician Assistant)や、看護師と医師の中間のような役割を担うNP(Nurse Practitioner)などの新たな職種が日本でも拡充できるかが課題です。
課題2. チーム医療に対する不十分な教育
チーム医療に対する教育が不十分である点も課題です。
チーム医療が医療現場に浸透してからまだ20年も経過しておらず、多くの医療従事者はチーム医療について十分な教育を受けないまま、実践を余儀なくされています。
連携が不十分であれば、各職種がその技量や専門性を如何なく発揮することは困難であり、提供する医療の質も低下してしまいます。
そこで、課題解決のためには各医療機関での定期的な研修はもちろんのこと、医学生の時からIPEについての教育を受けることが重要です。
IPEとはInter Proffesional Eduationの略で、チーム医療推進協議会では「複数の領域の専門職者が連携およびケアの質を改善するために、同じ場所で共に学び、お互いから学び合いながら、お互いを学ぶこと」と定義しています。
すでに多くの医学部でIPE教育が導入されており、今後その効果が医療現場にもたらされる可能性が高いです。
課題3. コミュニケーションエラー
チーム医療ではいかにコミュニケーションエラーを減らすことができるかも課題です。
多職種が連携するということは、それだけ情報伝達にミスも生じやすく、また役割分担が不透明で業務に漏れが生じるリスクも上がります。
実際に、これまで多職種間での連携ミスが原因で死亡事故が複数起きており、関わった医療従事者の多くが裁判で過失ありとされているため、コミュニケーションエラーへの対策は喫緊の課題といえます。
そこで、課題解決のためにはチーム内での役割分担や責任の所在を明確にし、より密にコミュニケーションをとることが肝要です。
チーム医療を円滑に回すためのポイント
チーム医療を円滑に回すためのポイントは主に下記の3つです。
- ポイント1. 目標を明確にすること
- ポイント2. 円滑なコミュニケーションをとること
- ポイント3. ICTツールを上手に活用すること
ポイント1. 目標を明確にすること
チーム医療を円滑に回すために、まずはチーム内での目標を明確にしましょう。
目標を明確にすることでチームとして進むべき方向性が全員に共有されるため、より大きな成果を挙げられる可能性が上がります。
また、共通の目標を設定することで、各職種がそれぞれやるべきことを自覚し、役割分担や協力する方法を相互に認識できるようになります。
ポイント2. 円滑なコミュニケーションをとること
チーム医療には円滑なコミュニケーションが必要不可欠です。
円滑なコミュニケーションを密にとることで、情報共有の促進や医療安全の向上が期待でき、最終的には患者満足度の向上につながります。
会議室での対面式カンファレンスはもちろんのこと、web会議や電子カルテ上のメモ機能など、さまさまな方法を駆使してコミュニケーションをとると良いでしょう。
ポイント3. ICTツールを上手に活用すること
チーム医療を円滑に回すためには、ICTツールを上手に活用することも重要です。
対面式のカンファレンスは細かなニュアンスや文字では伝わりにくい情報を伝達するときに有効ですが、一方で多職種で時間や場所を合わせる必要があり、またリアルタイムな情報共有は困難であるため忙しい医療者にとって負担になることがあります。
そこで、クラウドなどのICTツールを情報共有のために活用すれば、情報を正確かつ迅速に把握できるため、チーム医療のさまざまな課題解決にも役立ちます。ICTツールにより事前に情報共有したり、文字でのコミュニケーションで十分足りる場合はお互いの時間を尊重しつつ、チーム医療としての役割を果たすことが可能になります。
まとめ
今回の記事では、チーム医療のもたらすメリットや円滑に促進するための注意点について解説しました。
働き方改革や少子高齢化によって医療現場では医療需給の逼迫が深刻化しており、その中でより高度で安全、かつ効率的な医療を患者に提供するためには、チーム医療の推進は必要不可欠です。
またチーム医療を円滑に回すためには、チーム全体で目標を共有し、普段から密にコミュニケーションを取ることが肝要です。
対面式のコミュニケーションはもちろんですが、クラウドなどのICTツールも十分に活用し、より質の高いチーム医療を目指しましょう。
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