
【2026年10月義務化】医療機関・クリニックのカスハラ対策とは?社労士が具体的な対応方法を解説
患者からの暴言や威圧的な言動、長時間にわたる拘束、不当な要求など、医療機関においてもカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応が課題となっています。
2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント防止のために必要な措置を講じることが、すべての事業主に義務付けられます。
クリニックや病院では、患者への適切な対応を行う一方で、医師や看護師、受付スタッフなどの職員を守るための体制づくりも欠かせません。
本記事では、社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ 代表社員の米田 憲司氏にご登壇いただいたセミナー内容をもとに、2026年10月のカスハラ対策義務化で医療機関・クリニックに求められる対応から、カスハラの具体例、患者対応時のポイント、応招義務まで詳しく解説します。
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登壇者
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ 代表社員
社会保険労務士
米田 憲司
医療・介護事業を中心に労務コンサルを展開。関西から関東まで地域も幅広く対応。机上の空論ではなく具体的な実践指導でクライアントより多くの定評を受ける。コロナ前の2019年は、年間83本のセミナー実績。テレビ出演、書籍出版なども展開。
2026年10月から医療機関・クリニックでもカスハラ対策が義務化
━━ 医療機関でもカスタマーハラスメントは大きな問題になっているのでしょうか。
米田憲司氏(以下、米田) 病院やクリニックでは、患者さんから長時間拘束されたり、大声で怒鳴られたり、過度な要求を受けたりするケースがあります。
医療の場合は「患者さんだから対応しなければならない」と職員側が我慢してしまうケースも少なくありません。その結果、受付スタッフや看護師など、患者さんと直接接する職員に負担が集中してしまいます。
━━2026年10月からは、カスハラ対策そのものが事業主の義務になるのでしょうか。
米田 そうです。これまでも自主的に対策を行っている医療機関はありましたが、今後は「対策するかどうか」という話ではなくなります。
院長先生や病院側が、「患者さんからどのような言動を受けた場合に、誰が、どのように対応するのか」をあらかじめ決めておくことが重要です。
2026年10月1日から、事業主にはカスハラ防止のための方針の明確化・周知、相談体制の整備、発生後の迅速かつ適切な対応、特に悪質なカスハラへの対処方針の整備、相談者のプライバシー保護、相談したこと等を理由とする不利益な取扱いの禁止などが求められます。
医療機関におけるカスタマーハラスメントとは

━━ 今回のメインテーマである「カスハラ」ですが、改めてどのようなものか教えてください。
米田 カスタマーハラスメント・通称「カスハラ」は、患者さんなどからの言動のうち、要求内容やその手段・態様が社会通念上許容される範囲を超え、職員の就業環境を害するものを指します。医療現場では「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」と呼ばれることもあります。
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」では、過去3年間にカスハラに関する相談があったと回答した企業は27.9%でした。パワハラ64.2%、セクハラ39.5%に次いで高い割合となっています。
━━ そもそも、法律上のカスタマーハラスメントとは、どのようなものを指すのでしょうか。
米田 患者さんからのクレームが、すべてカスハラになるわけではありません。
厚生労働省では、①顧客等による言動で、②社会通念上許容される範囲を超えたものによって、③労働者の就業環境が害されるもの、この3つすべてを満たすものをカスタマーハラスメントとしています。医療機関の利用者も「顧客等」に含まれます。
正当なクレームとカスハラを混同しない
━━ 一方で、「逆カスハラ」のような状態にも注意が必要と聞きました。
米田 ここは非常に重要です。法改正によってカスハラという言葉が広く知られるようになると、患者さんから少し厳しいことを言われただけで「カスハラです」と受け取ってしまう可能性があります。
しかし、医療機関側の説明不足や対応ミスについて、患者さんが正当な意見や要望を伝えているのであれば、それを一方的にカスハラと扱うべきではありません。
━━「患者からのクレーム=カスハラ」ではないということですね。
米田 そうです。まず事実関係を確認して、患者さんの要求内容や言動の方法が社会通念上許容される範囲を超えているのかを判断する必要があります。
カスハラ対策とは、患者さんからの意見を排除するためのものではなく、職員が安心して働ける環境を守りながら、適切な患者対応を続けるための仕組みだと考えることが大切です。
クリニックで起こり得るカスハラの具体例
━━ 具体的にはどのようなカスハラがあるのでしょうか。
米田 カスハラとは、暴行や脅迫、侮辱、暴言といった行為だけではありません。
長時間にわたって居座る、同じ要求を執拗に繰り返す、提供している医療サービスの範囲を著しく超えた要求をするといった行為も、状況によってはカスハラに該当します。
厚生労働省の指針でも、身体的・精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、不退去や居座りなどの拘束的な言動、不当な損害賠償要求などが例示されています。
━━ クリニックで想定される具体的なケースを教えてください。
米田 SNSや口コミサイトへの投稿をほのめかしながら、不当な要求を行うケースなどにも注意が必要です。言動の内容や態様によっては、カスハラに該当する可能性があります。
詳しくはカスハラの行為類型については、厚生労働省が発行している「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」でも紹介されていますので、あわせてご確認ください。
2026年10月の義務化に向けてクリニックが行うべきカスハラ対策
━━ 義務化に向けて、クリニックでは具体的に何から準備すればよいのでしょうか。
米田 まず重要なのは、院長先生だけが「カスハラがあったら対応する」と考えるのではなく、院内全体で対応できる仕組みにすることです。
厚生労働省の指針では複数の措置が示されていますが、そのなかでも実務上の基盤として、「クリニックとしての方針表明」「基本方針の作成・周知」「通報窓口の設置」の3つを特に意識していただきたいです。
対策1.カスハラに対するクリニックの方針を表明する

━━ 最初に行うのが、方針の明確化ですね。
米田 はい。「当院ではカスタマーハラスメントに対して組織として対応し、職員を守ります」という方針を明確にします。
ここで一番大切なのは、患者さんへの警告だけではありません。
むしろ職員に対して、「何かあったら一人で抱え込まなくていい」「院長や組織が守る」というメッセージを伝えることに大きな意味があります。
対策2.基本方針を作成し、院内外へ周知・徹底する

━━ 作成した方針は、院内だけで共有すればよいのでしょうか。
米田 職員への周知はもちろんですが、患者さんにも分かるようにしておくとよいでしょう。例えば、ホームページへ掲載したり、院内の待合室に掲示したりする方法があります。
作って保管しておくだけではなく、「当院はこういう方針で対応します」と院内外へ周知することが重要です。
厚生労働省の指針でも、カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化して労働者へ周知・啓発することが、事業主に求められています。
対策3.カスハラを含むハラスメントの通報窓口を設置する

━━ カスハラが発生したとき、スタッフがどこへ報告すればよいのかも決めておく必要がありますね。
米田 そうです。「何かあったら院長に言ってください」だけではなく、受付スタッフが患者さんから暴言を受けた場合は誰へ報告するのか、その人が不在なら誰に引き継ぐのかまで決めておきます。
特に、現場のスタッフが患者さんと一対一で対応し続ける状態は避けた方がよいでしょう。
━━「相談」だけでなく「通報」という考え方もあるのでしょうか。
米田 院内での一次報告については、「何が起きたのか」という事実を簡潔に共有できる仕組みにしておくことをおすすめしています。
長時間にわたって一人の担当者が話を聞き続けて疲弊してしまわないよう、報告を受けた後に組織として事実確認や対応判断を行う体制をつくることが大切です。
なお、法令上は相談窓口をあらかじめ定め、窓口担当者が適切に対応できる体制を整えることが求められています。院内の一次報告フローと相談窓口の役割を整理して設計する必要があります。
カスハラが発生した場合の具体的な対応方法
━━ 方針と窓口を作った後は、実際に対応できる状態にする必要がありそうです。
米田 そのために研修が重要です。例えば、患者さんから大声で怒鳴られたとき、受付スタッフがその場でどこまで対応していいのか。誰を呼ぶのか。どの段階で院長や管理職へ引き継ぐのか。
こうしたことを決めていなければ、いざというときにスタッフは動けません。
「カスハラ対策をしています」と掲げるだけではなく、実際に起きたときに院内全体で同じ対応ができる状態をつくることが必要です。
発生した事実を客観的に記録する
━━ 実際にカスハラが疑われる言動があった場合、まず何をすればよいのでしょうか。
米田 まず重要なのは、問題となった言動や対応経緯を院内で共有し、事実関係を記録として残すことです。また、スタッフ一人だけで抱え込ませず、組織として対応できる状態をつくっておくことも重要です。
例えば、「長時間にわたって同じ要求を繰り返した」「スタッフへの暴言があった」といった事実を記録しておけば、次回来院時にも受付、看護師、事務長、院長などで情報を共有し、組織として対応できます。
大切なのは、患者さんの印象や推測ではなく、実際にどのような言動があったのかを客観的な事実として残すことです。
逆に、その場にいたスタッフしか知らなければ、毎回ゼロから対応することになってしまいます。
━━ 記録を残すことも重要なのでしょうか。
米田 非常に重要です。「怖かった」「ひどい患者さんだった」という感想だけではなく、いつ、どこで、誰が、どのような発言や行動をしたのかを具体的に記録します。
必要に応じて、電話応対の記録や院内での対応履歴なども残しておくと、後から事実関係を確認しやすくなります。
厚生労働省の指針でも、カスハラ発生後には事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた職員への配慮や再発防止措置を行うことが求められています。
━━ 録音や録画も有効な手段になりますか。
米田 暴言や脅迫などが繰り返されている場合には、客観的な記録が重要になります。電話応対の録音や院内での対応記録など、後から事実関係を確認できるようにしておくことが重要です。
ただし、録音・録画を含む記録の方法については、個人情報やプライバシーへの配慮も必要です。実際の運用方法は、弁護士や社会保険労務士など専門家にも確認しながら院内ルールとして定めておくとよいでしょう。
暴力や脅迫などは職員だけで対応しない
━━ 暴力や脅迫、長時間の居座りなど、特に悪質なケースではどうでしょうか。
米田 職員だけで何とかしようとしないことです。患者さんだからといって、暴力や脅迫まで受け入れる必要はありません。
どの段階で院長や管理職へ引き継ぐのか、どのようなケースで警察や外部の専門家へ相談するのかをあらかじめ決めておくことが重要です。
厚生労働省も、事業主が事前に定める対処例として、可能な限り労働者を一人で対応させないことや、犯罪に該当し得る言動について警察へ通報することなどを示しています。
━━ 退去を求めても居座り続ける場合は、どのように対応すればよいのでしょうか。
米田 まずは「これ以上の対応はできませんので、お引き取りください」と明確に伝えることが重要です。それでも退去せず、院内に居座り続ける場合には、不退去など犯罪に該当する可能性もあります。
そのようなケースでは職員だけで対応を続けず、院長や管理職へ共有したうえで、必要に応じて警察への相談・通報を検討してください。
電話での長時間・執拗なクレームにもルールを設ける
━━ 医療機関では、電話で長時間クレームを受けるケースもありそうです。
米田 電話対応もルールを決めておいた方がいいですね。同じ要求を何度も繰り返され、受付スタッフが長時間電話から離れられなくなれば、通常業務にも影響します。
「一定時間を超えたら責任者へ交代する」「同じ説明を繰り返しても理解いただけない場合には対応を終了する」など、院内で判断基準を決めておくとよいでしょう。
また、「この電話はサービス向上のため録音させていただきます」といった、通話を録音する旨の自動音声案内を導入することも、対策の一つです。
医療機関のカスハラ対策で注意したい応招義務

━━ クリニックの場合、一般企業のカスハラ対応と異なる点として「応招義務」もありますね。
米田 ここは医療機関特有の重要なポイントです。医師には医師法第19条に基づく応招義務があります。そのため、「カスハラをした患者だから、今後は一切診ません」と単純に判断してよいわけではありません。
だからこそ、問題となった言動やこれまでの対応経緯を記録しておくことが重要になります。
厚生労働省は、診療を求められた際に診療しないことが正当化されるかどうかについて、患者の緊急性を最も重要な考慮要素としながら、診療時間内・外であるか、患者と医療機関・医師との信頼関係なども考慮すると整理しています。
また、緊急対応が不要な患者について、診療内容と関係のないクレームを繰り返すなどの迷惑行為によって診療の基礎となる信頼関係が失われている場合には、新たな診療を行わないことが正当化され得るとの考え方も示されています。
━━「カスハラだから診療拒否できる」と一律に判断するのではなく、個別に考える必要があるということですね。
米田 そうです。患者さんの状態や緊急性、それまでにどのようなやり取りがあったのかなど、状況によって判断は変わります。
だからこそ、院内で感情的に判断するのではなく、事実を記録し、必要であれば専門家へ相談したうえで対応することが大切です。
パワハラなど職場内ハラスメントにも注意

━━ 今回のテーマはカスタマーハラスメントですが、その他のハラスメントについても簡単に教えてください。
米田 今は「○○ハラスメント」という言葉が非常にたくさん生まれていますが、重要なのは言葉そのものではなく、何が法律上のハラスメントに該当するのかを正しく理解することです。
特にクリニックや病院では、院長や管理職がスタッフへ指示・指導を行う場面も多いため、「パワハラと言われるのが怖いから何も言わない」となってしまうことにも注意が必要です。
━━ どのような言動が、職場におけるパワーハラスメントに該当するのでしょうか。
米田 職場内のパワハラについては、「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「就業環境が害される」の3要素を満たすものが該当します。一方、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導はパワハラには該当しません。
━━ スタッフから「パワハラだ」と訴えられた場合も、言われた時点ですべてパワハラになるわけではないのでしょうか。
米田 そうですね。一方で、相手が不快に感じているのであれば、なぜそう感じたのかを確認することも必要です。
自分には問題がないと決めつけるのではなく、こちらの言い方や態度に改善すべき点がなかったかを確認する。そのうえで、必要な指導は適切に行う。このバランスが大切です。
▼パワハラに関してはこちらの記事でも解説しています
まとめ|カスハラ対策は患者を排除するためではなく、職員を守る仕組みづくり
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント防止措置がすべての事業主に義務付けられます。クリニックや病院も例外ではなく、患者からの著しい迷惑行為から職員を守るための体制整備が必要です。
カスハラ対策では、単に「迷惑な患者を断る」という考え方ではなく、まず院としての方針を明確にし、職員が相談・報告できる体制を整え、実際の対応方法を院内で共有することが重要です。
また、問題が発生した際には、スタッフ一人に対応を任せず、具体的な言動や対応経緯を記録しながら組織として対応する必要があります。暴力や脅迫など、犯罪に該当する可能性のある行為については、あらかじめ定めたルールに沿って警察や外部専門家との連携も検討します。
一方で、患者から寄せられる正当な意見やクレームまでカスハラと扱わないことも重要です。医療機関では応招義務という特有の論点もあるため、患者対応と職員保護の双方を踏まえた院内ルールを整備していく必要があります。
2026年10月の義務化を機に、自院のカスハラ対応方針、相談窓口、院内の報告フロー、職員研修、悪質な事案が発生した際の対応方法まで、一度見直してみてはいかがでしょうか。
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ハラスメント対策をしたうえで、同時に医療接遇のポイントを押さえておくことで患者満足度の向上が目指せます。医療接遇に関しては以下の記事で解説してますのであわせてご覧ください。
※本記事はセミナー開催時点および2026年8月時点の公表情報をもとに一般的な内容を整理したものです。個別事案におけるカスタマーハラスメントへの対応や診療の可否については、状況によって判断が異なるため、必要に応じて弁護士、社会保険労務士、関係行政機関等へご相談ください。






