クリニックのためのカスタマーハラスメント対策を社労士が徹底解説!【セミナーレポート】

【サムネイル】社労士が徹底解説!クリニックのためのカスタマーハラスメント対策


パワハラやセクハラ、カスハラなど、企業におけるハラスメント問題が加熱しています。ハラスメント問題は病院やクリニックにおいても例外ではありません。増え続けるハラスメント問題に対してどのように対処すべきなのでしょうか。

今回は最新のハラスメント問題から、カスハラ防止法制定に向けて病院・クリニックが取るべき対策まで、社会保険労務士法人ベスト・パートナーズの米田憲司氏に話を聞きました。


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セミナー登壇者_社会保険労務士・米田憲司 氏

目次[非表示]

  1. 1.ハラスメント大国・日本、 知っておくべきハラスメントの定義とは
  2. 2.医療現場に迫る「カスハラ」の脅威から職員を守るためのアプローチ
  3. 3.医療現場におけるカスハラ対策、不退去罪の適用から診療拒否の可能性まで

ハラスメント大国・日本、 知っておくべきハラスメントの定義とは

カスハラセミナー資料_最新ハラスメント類型


━━ ハラスメントというと「パワハラ」「セクハラ」「カスハラ」などを耳にする機会が多いですが、他にはどのようなハラスメントがあるのでしょうか。

米田憲司氏(以下、米田) 最近よく見られるハラスメントをいくつかご紹介しましょう。

1つ目が「フキハラ」、不機嫌ハラスメントです。実は医療の現場で多いハラスメントで、いつも何かに怒っていたり、ため息ばかりついていたりして職場環境を悪くするハラスメントだと言えます。

2つ目が「ペイハラ」。カスタマーハラスメントの医療版が、ペイシェントハラスメントです。患者やその家族からのクレームが該当します。

3つ目が「ハラハラ」。最近何でも「それはハラスメントだ」と言う人が増えていますが、ハラスメントハラスメントの略です。

他にも特定の人にだけお菓子をあげない「オカハラ」、食べ方を強要するグルメハラスメント「グルハラ」、メッセージに句点をつけられることを嫌がる「マルハラ」、ホワイトな職場環境を押し付ける「ホワハラ」、ITリテラシーが低い人を下に見る「テクハラ」、方言を馬鹿にしたり標準語を強要したりするダイアレクトハラスメント「ダイハラ」、人種や国籍で嫌がらせをする「レイハラ」などがあります。

ざっと10個のハラスメントをご紹介しましたが、実はこれ以外にも40~50ものハラスメントが日本には存在していると言われています。日本はハラスメント大国ですから、経営者はしっかりとハラスメント対策をとることが重要です。


━━ こんなにたくさんのハラスメントがあるんですね!そもそもハラスメントとはどのように定義されるのでしょうか。

米田 まず前提として押さえておきたいのが「ハラスメント罪」という罪は世の中に存在しない点です。

その前提でハラスメントは理論上「親告罪」に該当します。被害者が訴えたら罪になるのが親告罪です。被害者が訴えなければ罪にならないとも言えます。ハラスメントを受けた人の主観的尺度が基準となり、受け手の意に反するようであればハラスメントが成立する可能性があるということです。

カスハラセミナー資料_ハラスメントとは

ハラスメント問題で厄介なのは、この親告罪の分類に当たる点です。同じ事象でも受け手がどう感じるかによって方向性が全く変わってきます。端的に言ってしまうと、人の好き嫌いです。

例えば好きな上司からは多少何をされてもOKであっても、嫌いな上司からは何をされてもアウトになります。これがハラスメント問題をややこしくしているわけです。

もちろんパワハラやセクハラには構成要件があるので、すべてがパワハラになるわけではありません。何でもかんでも「パワハラだ」と言う人がいれば、それは冒頭で紹介した「ハラハラ」になります。


━━ 構成要件というキーワードが出てきましたが、パワハラの構成要件を教えてください。

米田 パワハラの構成要件は3つあり、すべてが揃って初めてパワハラになります。

まず1つ目は「優越的な関係」です。上司部下の関係で言えば、上司は優越的な関係を有しているので、不適切な言動はパワハラの要件を満たすことになります。

2つ目は「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」です。この範囲を超えない業務命令・指示・注意・指導は基本的にパワハラになることはありません。ただ語尾に「馬鹿野郎」「アホボケカス」などを付け加えてしまうとパワハラになることもありますのでご注意ください。

3つ目が「労働者の就業環境が害されるもの」です。

この3つを満たすものがパワハラであり、逆に言えば何でもかんでもパワハラになるということはありません。ただしいずれも受け手の主観によるところが大きいので注意が必要です。


厚生労働省のホームページに「職場におけるハラスメント 対策パンフレット」として、6つのパワーハラスメントに該当すると考えられる分類例が掲載されています。「身体的攻撃」「精神的攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「プライバシーの侵害」の6つです。

今の主流は「精神的攻撃」と「人間関係からの切り離し」です。まずは「精神的攻撃」、例えば皆の面前で無能扱いをしたり怒ったりするのはNGです。業務の適正な範囲内であっても、さらし者にするような行為は「精神的攻撃」に該当します。また必要以上長時間(基準は2時間)にわたる叱責もだめです。

医療業界で非常に多いのが「人間関係からの切り離し」です。挨拶をされたのに無視してしまうと、パワハラに該当することもあるので注意してください。

カスハラセミナー資料_パワーハラスメントとは


━━ セクハラの構成要件についても教えてください。

米田 職場における性的な言動によって相手を不快にさせるのがセクハラです。身体接触を伴うセクハラは「強制わいせつ罪」が即適用されるので最近は減っていますが、昨今多いのが「環境型」のセクハラです。

代表的なのが下ネタですね。同じ空間で一部の人が下ネタで笑っている、それが第三者にも聞こえてしまって不快な気分にさせてしまうのが「環境型」のセクハラです。これは病院でも非常に多く、男性から女性だけでなく、女性から男性へのセクハラの報告事例も増えています。今は同性に対するセクハラも成立するので、異性・同性関係ないことを覚えておいてください。

また「職場における性的な言動」の「職場」ですが、この範囲はほぼ全てだと思っていただいて結構です。職務の延長と考えられる場所は職場に該当するので、歓送迎会や忘年会といった場も含まれます。今の時代に「無礼講」という言葉は死語、存在しないものとご認識ください。

カスハラセミナー資料_セクシャルハラスメントとは

━━ 最近のハラスメントで注意すべきものはありますか。

米田 今後増えると思われるのが「SOGIハラ」です。「Sexual Orientation Gender Identity」の頭文字を取って「SOGI」で、性的指向・性自認に関するハラスメントを指します。特にLGBT問題に関して暴露をしてしまうことが「SOGIハラ」の代表です。

職員から性的指向や性自認などの相談をされた場合、了解を得ずに暴露してしまうとアウトになります。例えばクリニックの院長先生であれば先生がしっかりと受け止め、専門家に相談する。大きな病院であれば所属長が相談を受け、必ず本人の了承を得た上で、然るべき部署に報告することが必要です。

こういった相談は部署一つでどうにかできるものではありません。病院であれば制服や着替え、トイレの利用などが問題になりますから、法務部や理事長、病院長に報告をして、専門家を交えて検討する必要があります。

実際に、2023年7月にアウティング(暴露)がパワハラに認定された判例があります。暴力も精神的攻撃をしたわけでもなく、性自認を暴露したことがパワハラに該当し、労災認定されました。
この背景には2023年6月に成立した「LGBT理解増進法」や、トイレ利用の最高裁判決などがあり、世間にもこの問題が広く認識されたことがあります。そのため今後「SOGIハラ」は増えていくことが予想されますので、くれぐれもご注意いただければと思います。

カスハラセミナー資料_SOGIハラ

医療現場に迫る「カスハラ」の脅威から職員を守るためのアプローチ

━━ 今回のテーマである「カスハラ」ですが、改めてどのようなものか教えてください。

米田 顧客が企業に対して理不尽なクレーム・言動・行動をするのが「カスハラ」です。

具体的には事実無根の要求や法的根拠のない要求、暴力的・侮蔑的な方法による著しい迷惑行為を指します。これが病院になるとペイシェントハラスメント「ペイハラ」になります。

「カスハラ」は急増中で、特に医療業界では深刻な問題となっています。
厚生労働省が発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」でも、令和2年度・令和5年度ともに、「パワハラ(令和2年度:48.2%、令和5年度:64.2%)」「セクハラ(令和2年度:29.8%、令和5年度:39.5%)」に次いで「カスハラ(令和2年度:19.5%、令和5年度:27.9%)」と3位にランクインしています。

カスハラの行為類型も厚生労働省が発行している「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」9ページに掲載されています。電話での暴言やクレームなどのほか、脅迫行為も該当します。例えば、金銭を要求した瞬間にカスハラが成立するだけでなく、場合によっては恐喝罪も成立します。

最近多いのがSNSやGoogleマップへの投稿のほのめかしです。これも十分なカスハラに該当します。

カスハラセミナー資料_カスタマーハラスメントとは


━━ パワハラ、セクハラにつづき、カスハラも深刻な社会問題となっているのですね。企業側はどのような対策を取ればいいのでしょうか。
米田 この状況を鑑みて、国も法制化に乗り出しました。また各地で条例が施行されており、東京都・群馬県・北海道で2025年4月からスタートしています。2025年の秋から2026年4月には法制化されると思いますので、今から対策を取っておくことが必要です。

ここで言う対策というのは、顧客や患者に向けたものではありません。従業員や職員に対してアピールすること、これがカスハラ対策の肝になります。

2018年の話になりますが、介護業界でハラスメントの被害を受けている人が7割を超えているという新聞記事がありました。さらにそのうちの94%が利用者からのハラスメントを受けているとあります。しかし、この記事が示す問題はそこではありません。「上司に相談しても何も変わらない」というところです。

7年前なので、今よりもハラスメントに対して我慢する姿勢がありましたが、今の時代に上司に相談したにもかかわらず何の対処もなければ、すぐに離職につながります。職員に向けて適切なアピールをすることがカスハラ対策の肝になります。


━━ 具体的にはどのようにアピールすれば良いのでしょうか。

米田 早急に職員に向けた指針を作って公表してしまうことです。

各地で条例ができ始めており、国も法律を作ろうとしている今がチャンスだと言えます。法律が成立してしまってからでは「法律で言われたから指針を作ったのだろう」と職員に思われてしまうので、法律ができる前に公表する。これが非常に重要です。

カスハラセミナー資料_カスハラ対策②

具体的には、ホームページ上にカスハラ対策のページを作り、対患者・対職員に向けて公開します。カスハラの内容を示し、カスハラを放置せずに職員を守る、組織として「カスハラは絶対に認めない」という毅然とした対応を明示することが必要です。


カスハラセミナー資料_カスハラ対策①

次に、ハラスメント対策を担う相談窓口を設置します。クリニックであれば院長先生、もしくは弁護士事務所。大きな病院であれば法務部や人事部で受付をし、最終的に理事会に報告する形になると思います。ハラスメントを受けたときの相談窓口を設置し、周知しておくと職員の安心感につながるでしょう。

カスハラセミナー資料_カスハラ対策③

━━ 患者に対するカスハラ対策はどのように取ればよいのでしょうか。

米田 まずはカスハラをするであろう患者を選別することが必要です。カスハラ行為が疑われる患者は、次に来たときに対策ができるよう目星をつけておくことが重要になります。目星をつけたら、カルテにわかりやすい印をつけるといった形で記録を残します。

次に目星をつけた患者の言動がエスカレートしてきたら、エビデンスを残します。カスハラ対策はエビデンスを残しておくことが重要です。


━━ カスハラの種類に応じた個別の対応例も知っておきたいです。

米田 ここでは4つの対応例をお伝えします。

まずは「時間拘束型」。診察室から出ていかない患者です。
対処法としては一定時間を超えたらお引き取りいただきます。先生によって診察時間は異なると思いますが、同じ話を繰り返すようであれば15~30分で十分でしょう。あらかじめ対応できる時間をお伝えしておくことも有効です。

そこで乗り込んできたり、暴言を吐くなど度が過ぎるようであれば警察を巻き込んでください。警察は「変な患者がいる」と伝えてもすぐには来てくれませんが、一度報告をしておけば警察に記録が残るので、二度目以降からすぐに来るようになります。エビデンスを残すという意味でも警察をうまく使ってください。

次は「暴言型」。怒鳴り声をあげたり「アホ・ボケ」といった侮辱的発言、名誉を棄損する発言が該当します。これもエビデンスが重要なので、度が過ぎる場合は録音をしましょう。

ベストなのは動画撮影です。相手方の許可なく録音・動画撮影をしても良いのかと思われるかもしれませんが、そもそも暴言を吐いている人に許可は取れませんし、暴言を吐いているところの動画を撮っていただきたいので許可は不要です。暴言も場合によっては刑法違反の可能性があるので、録音・動画撮影は緊急避難措置に該当します。

またここでも警察をうまく利用してください。警察は基本的に民事不介入ですが、刑法に抵触する可能性がある場合はしっかりと説教してくれます。

3つ目は「セクハラ・暴力型」です。これは刑法に抵触します。

殴る・蹴るの暴力は傷害罪、お触りは強制わいせつ罪が適用されるので、躊躇なく動画を撮影し、警察をうまく使ってエビデンスを残してください。エビデンスは診療拒否の判断にも使えるものですから、しっかりと残しておくことが重要です。

4つ目「威嚇・脅迫型」。脅迫的発言や反社会的勢力とのつながりをほのめかす場合、これは一発アウトです。こちらも必ず録音や動画撮影を行い、警察を巻き込んで対処します。

医療現場におけるカスハラ対策、不退去罪の適用から診療拒否の可能性まで

━━ エビデンスを残すことと、場合によっては警察を巻き込むことが重要だということがわかりました。これ以外に知っておくべきことがあれば教えてください。

米田 カスハラ対策でぜひ知っておいていただきたいキーワードがあります。

まずは帰らずに居座り続けたり、暴言を吐いたりする患者には「どうぞお引き取りください」と伝えます。これを伝えても帰らない場合、刑法第130条「不退去罪」に抵触します。実はこの不退去罪というキーワードを警察に伝えるとすぐに動いてくれます。

ただ伝え方にもコツがあって「これは不退去罪ですよね」と決めつけるのではなく「これは不退去罪と言うのですよね?」と下から目線で伝えると、警察は協力的に動いてくれます。

次は、電話モンスター対応です。
いつまでも話がループしている場合は「これ以上のお話はできないと判断しましたのでお電話を切らせていただきます」と伝えて電話を切ります。各職員の判断で電話を切って良いと伝えておけば「いつまでも電話対応しなくてよい」という安心感につながります。

実は、電話モンスターをゼロにする裏技があります。それが最近増えている「音声録音アナウンス」です。「この電話はサービス向上のため録音させていただきます」という自動音声案内ですね。電話モンスターは録音に非常に弱いので「録音します」と言われた瞬間に電話を切ってしまいます。多少の設備投資はかかりますが、非常に有効な方法だと思います。


━━ カスハラがひどい場合、医師は診療拒否をできるのでしょうか。

米田 医師法第19条に「応召義務」という義務が定められています。医師はいついかなるときも患者を診なければならないという義務が存在するので、簡単には診療拒否ができません。

ただ、今の時代はこの応召義務がかなり緩やかになっています。昭和の時代は24時間応召義務がありましたが、今は診療時間が終われば義務も切れます。

カスハラに対して応召義務が適用されないようにするためには、正当な理由が必要です。

カスハラセミナー資料_診療拒否できるカスハラ

━━ どのようなものが正当な理由になるのでしょうか?
米田 「自己判断による診療の要求」「医師に対する暴言・暴力」「診療室からの退去を再三にわたり拒否」「長時間の居座りや大声での不満で病院業務を妨害」に該当する場合は正当な理由となります。これらのカスハラをする患者がいた場合には、しっかりとエビデンスを残すようにしてください。

ちなみに日本で一番最初にカスハラ対策を取り上げた企業はJR東日本です。2024年4月にはカスハラ対策指針を作っており「カスハラをするお客様はお客様ではありません」と言い切っています。医療業界においても「カスハラをする患者は患者ではありません」という考えを持つことが重要です。

ただし、そのためには正しいプロセスを踏むことが重要です。医師には「応召義務」がありますが、患者との信頼関係が破綻すれば診療拒否をすることもできます。カスハラに対して泣き寝入りをするのではなく、職員が気持ちよく安心して働ける環境を作っていただければと思います。


━━ 職員同士はもちろん、患者との関係も信頼があってこそですね。本日はありがとうございました。


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執筆者:エムネス マーケティングチーム
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