
検診におけるAI活用とは?規制改革と肺がん検診におけるクラウド型PACS活用を解説【セミナーレポート】
医療現場におけるAI活用が広がるなか、検診領域でも画像診断支援AIの導入に注目が集まっています。一方で、自治体がん検診における二重読影のルールや、AI活用時の責任の所在、精度管理など、実装に向けた制度面・運用面の課題も残されています。
また、国立がん研究センターにより「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」が公開され、重喫煙者に対する低線量CT検査の位置づけが明確になりました。今後、肺がん検診の現場では、撮影体制、読影体制、画像データ管理、精密検査への接続など、検診運用全体の見直しが求められる可能性があります。
本セミナーでは、画像診断支援AIを提供するエルピクセル株式会社 PM室室長 奥村 伸子氏をお招きし、検診におけるAI活用と規制改革の最新動向について解説いただきました。また後半では、株式会社エムネスの嶋野 直大より、肺がん検診におけるクラウド型PACS・遠隔画像診断の活用について紹介しました。
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登壇者
エルピクセル株式会社
PM室室長
奥村 伸子
大学卒業後、オリンパスにて軟性内視鏡用処置具の開発に従事。NOTESやPOEMなど、未確立の内視鏡治療手技の検討・関連するデバイス開発に携わる。その後、軟性内視鏡事業のマーケティング部門にて、事業戦略の立案等を担当。2025年よりエルピクセルに入社、同年4月より現職に従事し、EIRL(エイル)製品企画全般を統括。また、同年6月よりAI医療機器協議会の理事を務める。

登壇者
株式会社エムネス
営業ビジネスディベロップメント本部
セールススペシャリスト
嶋野 直大
営業として体外診断用医薬品および医療機器にて20年以上のキャリア、並行し営業企画部として営業戦略立案、セミナー運営やSalesforceなどのSFA/CRM導入およびシステム管理者に従事。2024年4月にエムネス入社、医療機関向けのクラウド提案に従事。
検診領域でAI活用が求められる背景

―― 検診領域では、なぜAI活用が注目されているのでしょうか。
奥村 伸子氏(以下、奥村) 日本の医療は、医療従事者の人手不足、医師の偏在、医療費の増大といった課題を抱えています。こうした課題に対して、AI医療機器は医療安全の向上、医療の持続可能性の向上、医療の均てん化、医療費削減などに貢献することが期待されています。
検診領域に目を向けると、受診率向上に向けた基盤づくりに加え、精度管理と業務効率化を両立させることがより重要になっています。たとえば肺がん検診では、多くの受診者のなかから異常所見の可能性がある方を適切に見つける必要があります。一方で、二重読影ルール等の医療規制もあり、読影医の確保や読影業務の負荷軽減をどのように進めていくかも課題です。
そうした背景から、画像診断支援AIを活用して医師の読影を支援し、検診業務の効率化や見落としリスクの低減につなげることへの期待が高まっています。
―― AIは医師の診断を代替するものなのでしょうか。
奥村 最終的な判断を行うのは医師であり、AIは医師の診断を支援する技術です。たとえば画像診断支援AIは、X線やCTなどの医用画像を解析し、異常所見の候補や確認すべき領域を提示します。
AIの解析結果はあくまで参考情報として活用し、医師が確認・判断することが基本になります。

自治体がん検診における二重読影とAI活用の課題
―― 検診領域でAI活用を進めるうえで、制度上の課題はありますか。
奥村 自治体がん検診では、二重読影のルールが存在します。たとえば胸部X線写真については、2名以上の医師が読影し、そのうち1名は十分な経験を有することが望ましいとされています。
このルールは検診の精度を担保するために重要な仕組みです。一方で、読影医の確保が難しい地域や、検診件数が多い施設では、二重読影の体制を維持すること自体が大きな負担になっています。
そのため、AIを活用して検診業務を効率化したいというニーズはありますが、現行制度のなかでは、AIをどのように読影フローに組み込むのかが大きな論点になります。
―― 海外では、検診にAIを組み込む事例も出ているのでしょうか。
奥村 海外では、すでにAIが検診運用フローに組み込まれている事例があります。たとえば、オーストラリアのある地域では、乳がん検診でAIと医師を組み合わせた読影が行われていたり、アメリカでは一定の条件下でAIによるスクリーニングが導入されている事例もあります。また、ドイツでは低線量CT検診においてAI活用が必須化されている事例もあります。
日本でも、こうした海外事例を参考にしながら、医療現場の実態に合った制度設計を検討していく必要があります。
規制改革の最前線|医師+AIの読影体制は実現するのか
―― 日本では、検診におけるAI活用についてどのような議論が進んでいるのでしょうか。
奥村 2025年以降、検診におけるAI活用について、政府や関係団体を巻き込んだ議論が進んでいます。内閣府の規制改革推進会議 第9回 健康・医療・介護ワーキング・グループでも「医師による画像読影等におけるAI活用の促進」が議題として取り上げられました。
この会議には、医療機関、大学病院、業界団体、厚生労働省などの関係者が参加し、画像読影におけるAI活用の可能性や課題について議論が行われ、AI医療機器協議会を代表して私も参加させていただきました。
―― 具体的にどのようなことを提言されたのでしょうか。
奥村 AI医療機器協議会としては、現状の「医師+医師」による二重読影に加えて、まずは「医師+AI」という選択肢を検討すること、さらに将来的には一定の条件下でAIスクリーニングの実現も見据えていくべきではないかという提言を行いました。
当日は私の予想以上に、将来的なAIスクリーニングへの期待や、医師のリソースをより重要な診療に集中させるための規制整備の必要性が示されていました。
―― AIスクリーニングとは、どのような考え方なのでしょうか。
奥村 AIスクリーニングとは、たとえばAIが「異常所見なし」と判定した場合に、医師による読影を実施せずに結果報告へ進むような仕組みです。もちろん、いきなりすべての検診で実現できるものではありません。
まずは医師とAIを組み合わせる体制から始め、エビデンスや運用基準を整備しながら、将来的に特定の条件下でAIスクリーニングを検討していくという段階的な進め方が必要だと考えています。
―― 医療現場の方々からはどのような課題があがっていたのでしょうか。
奥村 医療現場の方々からは、地域格差や持続可能性への不安、検診現場における二重読影の負担やコストに対して、強い課題感が示されていたことが印象的でした。
また、医師1名と高性能なAIを組み合わせる選択肢の導入や、AIを二次読影に活用するための基準策定と規制改革など、AI活用に対する要望がある一方、AI活用における懸念点があがっていました。
―― 具体的にAI活用における懸念点はどういった意見があったのでしょうか。
奥村 懸念点としては、偽陽性の増加による負荷増大や、精度検証の必要性などが挙げられていました。
AIの活用によって偽陽性が増えれば、精密検査の対象者が増え、医療現場の負担や受診者の不安につながる可能性があります。また、AIの精度検証や責任の所在、運用基準の整備も重要です。
―― 検診領域におけるAI活用については、エビデンスも出始めているのでしょうか。
奥村 検診領域におけるAI活用については、エビデンスも出始めています。たとえば、胸部X線検診において第一読影医とAIの検出性能を比較した研究や、医師2名による読影と、医師1名+AIによる読影を比較した研究があります。
後者の研究では、医師1名+AIの読影精度が医師2名による読影を上回り、読影時間も短縮されたという結果が示されています。
もちろん、こうした研究結果をそのまますべての検診運用に適用できるわけではありません。AIの性能は、対象疾患、画像条件、学習データ、運用フローによって変わります。そのため、実際の現場導入では、AIの得意領域や限界を理解し、医師による確認体制と組み合わせて運用する必要があります。
―― AI読影で見逃しが発生した場合、責任の所在はどうなるのでしょうか。
奥村 現状では、AIは医師の診断を支援するツールであり、最終的な判断は医師が行うという考え方が基本です。
一方で、将来的にAIスクリーニングのような運用を検討する場合には、メーカー側も含めた責任のあり方をより強く考える必要があります。海外では一定の条件下でAIスクリーニングが実装されている事例もありますが、それは限られた疾患や条件において成立しているものです。
AIがすべての領域で医師の判断を代替できるわけではありません。AIの活用範囲をどこまで認めるのか、見逃しが発生した場合にどのように責任を整理するのかは、今後も重要な論点になると考えています。
―― 将来的には、複数のAIを組み合わせた読影も考えられるのでしょうか。
奥村 可能性としてはあると思います。AIごとに学習データや得意・不得意が異なるため、複数のAIを組み合わせることで精度向上につながる可能性はあります。
ただし、AIの性能は対象疾患や画像条件、学習データによって変わります。人種や年齢層の違いが影響する疾患もあれば、あまり影響しない疾患もあります。そのため、複数のAIを使えば必ず精度が上がるという単純な話ではなく、領域ごとの検証が必要です。
―― 医療AIには課題もある一方で、日本の医療をよりよくする可能性もありそうですね。
奥村 医療AIを社会実装するためには、技術開発だけでなく、制度面・運用面の整備を同時に進める必要があります。今後も政府等を巻き込んだ検診における規制改革の議論をさらに発展させ、業界全体で社会実装に向けた取り組みを進めていくことが重要だと考えています。
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肺がん検診ガイドライン2025年度版で何が変わったのか

―― 後半では、肺がん検診ガイドライン2025年度版について解説いただきました。今回の改定では、どのような点が大きなポイントなのでしょうか。
嶋野 直大(以下、嶋野) 大きなポイントは、重喫煙者に対する低線量CT検査が強く推奨されたことです。低線量CTは、Low-dose CTとも呼ばれ、LDCTと表記されます。
対象年齢は50歳から74歳、喫煙指数は600以上が目安とされています。喫煙指数は、1日の喫煙本数に喫煙年数を掛けたものです。また、禁煙後15年以内の方も対象に含まれるとされています。検査頻度は年1回が望ましいとされています。
―― 従来の胸部X線検査や喀痰細胞診はどうなるのでしょうか。
嶋野 今回の改定で、重喫煙者に対する胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法は推奨されない方向が示されました。
ただし、胸部X線検査そのものが否定されたわけではありません。胸部X線検査は、喫煙状況にかかわらず引き続き推奨されています。重要なのは、対象者のリスクに応じて、適切な検査方法を選択することです。
―― なぜ喀痰細胞診の位置づけが変わったのでしょうか。
嶋野 喀痰細胞診は、主に扁平上皮がんの発見を目的として用いられてきた検査です。しかし、日本人の喫煙率の低下や、低タール・低ニコチンといったタバコの質の変化により、扁平上皮がんそのものが減少してきています。
また、喀痰が出ている場合は、すでに症状がある状態とも考えられます。検診は原則として無症状者を対象とするため、症状がある場合は検診を待つのではなく、医療機関への受診を検討すべき段階だと整理されています。
低線量CT検診で想定される3つのボトルネック

―― 低線量CT検診が広がると、現場ではどのような課題が出てくるのでしょうか。
嶋野 低線量CT検診は、従来の胸部X線検査と比べて、得られる情報量が大きく変わります。胸部X線は平面の画像ですが、CTは数百枚の断層画像を確認する必要があります。
数ミリ程度の微細な病変を発見できる可能性がある一方で、現場の負担も増えることが想定されます。主なボトルネックは、撮影体制、読影体制、データ管理の3つです。
―― まず撮影体制について教えてください。
嶋野 低線量CT検診では、通常の診療用CTよりも低い線量で撮影する必要があります。被ばくリスクを抑えながら、検診として必要な画質を担保する必要があるため、撮影条件の管理や、専門的なトレーニングを受けた診療放射線技師による撮影体制が求められます。
CT装置があるだけではなく、低線量CT検診として安定した品質で撮影できる体制を整えることが重要です。
―― 読影体制についてはいかがでしょうか。
嶋野 CTは画像枚数が多いため、読影負荷が大きくなります。また、肺がん検診ガイドラインでは、放射線診断医や呼吸器画像診断に習熟した医師などによる読影が必要とされています。
低線量CT検診の対象者が増えれば、読影医のキャパシティ不足が大きな課題になる可能性があります。さらに、今後の運用で二重読影が必要となる場合には、読影体制の確保はより重要なテーマになるでしょう。
―― データ管理の面では、どのような課題がありますか。
嶋野 CT画像は、胸部X線画像に比べてデータ容量が大きくなります。1症例あたりの容量が大きくなるだけでなく、対象者数が増えれば、保存・管理すべき画像データも大幅に増えます。
画像を安全に保管し、必要なタイミングで読影医に共有し、結果を検診システムや受診者フォローにつなげるためには、画像管理の仕組みが不可欠です。
クラウド型PACS・遠隔画像診断が肺がん検診に果たす役割
―― こうした課題に対して、クラウド型PACSはどのように活用できるのでしょうか。
嶋野 クラウド型PACSを活用することで、撮影されたCT画像をクラウド上で管理し、院内外の医療従事者と共有しやすくなります。
エムネスが提供する「LOOKREC」では、画像の保管だけでなく、読影依頼、問診情報の入力、所見入力、結果管理までを一連の流れとして扱うことができます。
―― 肺がん検診においてはどのようなメリットがあるでしょうか?
嶋野 たとえば、肺がん検診では、喫煙歴、喫煙本数、禁煙年数、家族歴、既往歴などの情報が重要になります。これらを自由記述で入力すると、表記揺れが発生し、後から集計・抽出・リマインドを行う際に抜け漏れが生じる可能性があります。
そのため、問診情報や読影結果を選択式・定型化された項目で管理することが重要です。情報を標準化することで、検診後のフォローアップや精密検査への接続にも活用しやすくなります。
―― 情報が標準化されることで外部への読影依頼もスムーズになりそうです。
嶋野 そうですね。クラウド型PACSを活用すれば、施設内の医師だけでなく、院外の医師にも画像を共有しやすくなります。施設内に読影医が常駐していない場合でも、遠隔で読影を依頼する運用がしやすくなります。
また、検診件数が増え、施設内の読影キャパシティを超える場合には、遠隔画像診断サービスを併用することも選択肢になります。
低線量CT検診では、撮影して終わりではありません。画像を適切に管理し、専門性のある医師が読影し、結果を受診者フォローにつなげる必要があります。クラウド型PACSと遠隔画像診断は、その一連の流れを支える基盤になります。
検診DXはどこから始めるべきか

―― 低線量CT検診の体制を整えるためには、最初から高度なシステムを導入する必要があるのでしょうか。
嶋野 医療DXは、ツールを導入すれば完了するものではないため、必ずしもそうではありません。まずは、自施設の運用課題を把握し、できるところから段階的に整備することが重要です。
―― 具体的にはどのような段階を踏めばいいでしょうか。
嶋野 たとえば第一段階として、Excelなどの台帳を使い、対象者リスト、検診結果、アクション期限、受診ステータスを管理することから始めてもよいと思います。
次に、共有データベースやフォーム、リマインダーを活用し、期限管理や通知を効率化します。そのうえで、検査件数や運用負荷が増えた段階で、クラウド型PACSやAI、遠隔画像診断を組み合わせたシステム化を検討するという進め方も有効です。
―― まずは運用全体を見える化することが重要なのですね。
嶋野 そのとおりです。低コストで始められるものから整備し、必要に応じてシステム化していくことが現実的です。
一方で、検診件数が多い施設や、今後の低線量CT検診に向けて早期に体制を整えたい施設では、最初からクラウド型PACSや遠隔画像診断を含めた仕組みを検討することも選択肢になります。
重要なのは、将来的に読影キャパシティやデータ管理がボトルネックになる可能性を見据え、早い段階から準備を進めることです。
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まとめ
検診領域におけるAI活用は、読影医不足や業務負荷の増大といった課題に対して、有効な選択肢になる可能性があります。特に、胸部X線や低線量CTなどの画像検査を伴う検診では、画像診断支援AIによる所見候補の提示が、医師の確認作業を支援し、検診業務の効率化に貢献することが期待されます。
一方で、AIは万能ではありません。AIの性能や限界を理解し、医師の判断と組み合わせた運用設計が必要です。また、責任の所在、精度管理、偽陽性・偽陰性への対応、制度面の整備も重要な論点です。
肺がん検診では、ガイドライン2025年度版により、重喫煙者に対する低線量CT検査の位置づけが明確になりました。今後、低線量CT検診の導入が進む場合、撮影体制、読影体制、画像データ管理、精密検査への接続といった運用面の整備が不可欠になります。
AI、クラウド型PACS、遠隔画像診断を組み合わせることで、検診の質を維持しながら、医療機関や自治体にとって持続可能な検診体制を構築しやすくなります。今後の制度改革や実証事業の動向を踏まえながら、自施設に合った運用体制を早めに検討することが重要です。
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