
低線量CT肺がん検診(LDCT)とは?新ガイドラインと運用のポイントを徹底解説【セミナーレポート】
2025年に国立がん研究センターにより改定された「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」により、重喫煙者に対して低線量肺がんCT検診(LDCT)の導入に向けたモデル事業が開始される予定です。
今回のセミナーレポートでは、ガイドラインの変更点、低線量CT肺がん検診への対応やリスクや課題、体制作りなど、医療機関や自治体の方に向けて実務に直結する運用のポイントを解説します。
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低線量肺がんCT検診(LDCT)とは?2025年ガイドライン改定の要点

――「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版が公開されました。今回の改定のポイントについてお聞かせください。
島村泰輝(以下、島村) 最も大きな改定ポイントは「重喫煙者に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法」が廃止の方針になったことです。
喀痰細胞診は主に扁平上皮がんを発見ターゲットとしていますが、日本人の喫煙率の低下やタバコの質の変化(低タール・低ニコチン)に伴い、扁平上皮がんの発生そのものが減少しています。
そこで検診と診療の役割分担の明確化を理由に推奨グレードが「D(対策型として実施しない)」となりました。検診は原則として無症状者を対象としていますが、喀痰が出るということは有症状ですから「検診ではなく医療機関を受診すべきではないか」と議論がされたことが影響しています。
―― 一方で「重喫煙者への低線量CT検査」は推奨グレードが「A(強く推奨)」になりましたね。
島村 低線量CT(Low-dose CT、以下LDCT)がグレードAになった背景には、前回ガイドライン変更が行われた2006年当時に存在しなかった「LDCTによる死亡減少効果」を証明するエビデンスが、海外の研究によって確立されてきたことが挙げられます。
―― CTには放射線被ばくというネガティブ要素もあります。
島村 確かにネガティブ要素はありますが、CTを使えばより多くの発見が可能です。放射線被ばくによって起こる「肺がんリスク」と「死亡率の低下」のリスクベネフィットを計算した上で、推奨グレードがAになりました。

―― LDCTは誰でも受けることができるのでしょうか。
島村 今お話したメリットとデメリットのバランスが取れるところに集中するため「対象年齢が50~74歳」「喫煙指数が600以上」の重喫煙者を対象にしています。喫煙指数とは1日に吸うタバコの本数に喫煙期間の年数を掛けたものです。20歳から50歳まで休みなく1日1箱のタバコを吸ったときの喫煙指数が600になります。
―― 50歳以上で喫煙指数が600になった人は重喫煙者としてLDCTによる肺がん検出対象となるわけですね。
島村 そのとおりです。また検診は何度も受けられるイメージがありますが、LDCTは被ばくの影響がありますし、何度も受けたからと言って発見率が大きく変わるものでもないので、年に1回受けるのが良いとされています。
――50歳未満や75歳以上の重喫煙者、50~74歳の非重喫煙者はLDCTを受けられないのですか。
島村 LDCTの対象に該当しない人たちについては、推奨グレード「I(対策型として実施しない)」となっています。推奨グレードDは「対策型検診でも個人検診でも推奨しない」ものですが、推奨グレードIは「個人で実施する分にはそれを妨げない」という意味です。
したがって対象外の人は、公的な検診としてLDCTを受けることはできませんが、個人的に受けることが禁止されているわけではありません。
低線量肺がんCT検診のリスクベネフィットと被ばく線量
―― そもそもの質問になりますが「低線量CT」の「低線量」とはどのような意味なのでしょうか。
島村 ガイドライン上、低線量はCTDIvol(ボリュームCT線量指標:1cmあたりに照射される放射線の吸収線量)が2.5mGy(ミリグレイ)以下のものを指します。
また被ばく線量で見ると、通常の胸部CTが7.14mSv(ミリシーベルト)であるのに対し、低線量CTは1.05mSvとなっています。これは自然界の年間被ばく量である2.4mSvの約半分です。
―― 通常のCTに比べ被ばく線量がかなり低いのですね。
島村 単純に線量を下げるだけでは画質が劣化して病変が見えなくなるリスクがあります。LDCTは線量を低くしつつ画質を担保できるレベルのものです。運用上は線量指標だけでなく、再構成法や画質の根拠を仕様書で担保する必要があります。
―― LDCTの撮影機器について何か課題はありますか。
島村 低線量を維持しつつ画質を担保する必要があるので、画像の最適化技術が重要です。五大メーカーの機器を見ると、2018年以降に製造されたものにはディープラーニング技術が搭載されていることが多いです。また2011年以降の機器にも逐次近似法が使われていることが多いので、低線量が問題になることは少ないと言えます。
それ以前のものになると、画質にざらつきが目立つことが想定されます。
肺がんCT検診の運用課題|参加率・読影体制・結果回収

―― 実運用に伴い、現場ではどのようなことに注意すべきでしょうか。
島村 現場でボトルネックになる場所を確認しておくことが必要です。主にボトルネックになるであろうことは「参加率」「読影キャパシティ」「結果回収と反映」です。
CT検査自体ができる施設があっても、対象者が検査を受けないと参加率が上がりません。また撮影後の読影先がなければ検査の意味がありませんし、読影結果が回収できなければ次のアクションを取れません。検診の価値は発見だけでなく適切に次につなげることですから、この3点を軸に運用品質を見ることが必要です。
―― まずは「参加率」の課題ですね。
島村 米国の調査によると、そもそも重喫煙者は肺がん検診を受けたがらないという現実があります。がん検診の受診率を見ると、乳がん(マンモグラフィ)が80%、子宮頸がんが75.4%、大腸がんが67.4%であるのに対し、肺がん(LDCT)は18.2%と極端に低い数値となっています。
―― なぜそれほどまでに低いのでしょうか。
島村 乳がんや子宮頸がんは「自分の意思とは関係なく病気になってしまった」感覚が強いのですが、肺がんは「自分が喫煙していたのだから仕方ない」といった考え方が強く出がちです。
ただ米国の考え方が日本と同じとは限りません。そこでLDCTの対象を定義するだけでなく、検診に抵抗感を持つ層に対して、どのように案内をするかを運用に組み込んでいく必要があります。
―― どれほど読影依頼や結果回収の仕組みが整っていても、受診する人がいなければすべて空回りに終わってしまいますね。
島村 また重喫煙者をどのように集めるかも課題です。喫煙歴までデータとして取っているところは少ないので、基本的に自己申告になります。そこで問題になるのが過大申告です。
過少申告であればLDCT検診の対象にならないので、今までの肺がん検診と変わりません。しかしそれほどタバコを吸わない人が、公費で安くCTを受けるために喫煙歴を過大申告する可能性は十分ありえます。
―― タバコをたくさん吸う人はそもそも受けたがらない、逆にそれほど吸わない人が重喫煙者を装って受けてしまう、逆転現象が起きてしまうということですね。
島村 その結果、過剰医療につながる可能性もあるので、このことを想定しながら運営基準を作っていくことが必要です。
―― 本来LDCTを受けるべき重喫煙者の参加率を上げる方法はあるのでしょうか。
島村 喫煙歴データをもとに対象者をリスト化したり、肺がんに関するアンケートを取ったりして、重喫煙者かどうかを見える化し、個別にアプローチすることが重要です。
もちろんLDCTのメリットだけでなく、費用や不利益、非対象者の扱いなども誠実に伝えることも必要でしょう。ここが曖昧だとクレームや混乱につながる可能性があります。
―― ボトルネックの二つ目は「読影キャパシティ」でした。
島村 せっかくCTを撮っても読めない状況が起きる可能性が想定されています。国内で発見されるがんの過半数が肺腺癌であるため、過剰診断割合が大きくなり、適切な経過観察を重視する必要があるとガイドラインには記載されています。
そこで胸部CT検査の専門的トレーニングを受けた放射線技師による低線量撮影の遵守が必須であること、放射線診断医もしくは呼吸器画像診断に熟練した医師による読影が必要であるとしています。
―― 読影する医師に制約が設けられているということですか。
島村 CT読影はX線読影よりも負荷が大きいため、単純X線写真の読影をしていた医師が、そのままLDCT読影にスライドできるわけではないことを意味しています。LDCTの読影に対する体制を設計することが必要です。
さらに読影を施設内で完結させるのか、読影センターや遠隔画像診断を活用するのか。また二重読影が必要になるのかについてはマニュアルを策定中です。これらが必要になった場合、医師確保の難易度が上がることが予想されます。
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―― ボトルネック三つ目の「結果回収と反映」について解説をお願いします。
島村 LDCTの結果、要精密検査が必要となった場合、その通知をしても受診に至らない。逆に経過観察期限前のに精密検査の受診に来てしまうといったことが想定されます。
精密検査機関との事前調整や予約導線、結果回収、期限管理、リコールといったものを検診の一部として設計することで、課題解決の糸口が見えてきます。
―― フォローも検診の一部であると考えるわけですね。
島村 ただし、これを実現するとステークホルダーが増えていきます。単に一施設だけで完結できるものではなく、さまざまな調整を経た上でLDCT検診は成り立つといえるでしょう。
―― フォローに関する注意点はありますか。
島村 まず誰がフォローするかが問題です。LDCTを行った施設がフォローするのか、精密検査ができる専門機関がフォローすべきなのか、現時点では明確な決まりはありません。個人的には「どちらがフォローをしてもよい」となることを予想しています。
低線量肺がんCT検診を成功させるIT活用と段階設計

―― LDCTにおいては、ITツールやシステム連携などはをどのように設計すべきでしょうか。
島村 これまで紹介してきた運用課題は、いずれも医療技術ではなく、ワークフローの整備に関わるものでした。まずは連携以前に、運用の全体像を把握し、段階設計することが重要です。
第一段階として手動で回せる「共通台帳と運用ルール」を整備します。
①対象者である重喫煙者リスト、②検診結果の判定区分、③いつ受診してもらうかのアクション期限、④受診ステータスの4項目を最低限でも管理する必要があります。
次に期限管理と通知を自動化する「セキュア共有DBとフォーム、リマインド」を用意します。
最終的には「システム連携と構造化レポート」による読影効率化を図り、大規模運用にも耐えられる形を目指すといった、段階的な設計が求められるでしょう。
――既存の単純X線写真の検診管理システムがLDCTの流れも応用できそうですね。
島村 そのとおりです。重喫煙者のピックアップについては課題が残りますが、大きな流れとしては単純X線写真検診と重なる所も多いので、既存システムをうまく使うことでローコストで実現できます。
問題を把握する段階においては、なるべくコストをかけないのがポイントです。またコストには設備投資だけでなく、人的コストも含まれることを忘れないでください。
――ソリューション導入の問題点はどのようなことがあげられますでしょうか。
島村 失敗の要因となるのは、技術よりもガバナンスにあります。主に「責任分界」「個人情報」「標準化不足」の三つです。
「責任分界」は追跡や結果回収を誰がするのかが曖昧で流れが止まってしまうことを指します。「個人情報」は自治体・施設・精密検査機関の間で権限設計が十分にできていないため連携が止まることです。撮影条件や判断基準、結果表がバラバラで「標準化不足」に陥ると現場が混乱します。

―― 事前に問題になりそうなポイントを洗い出して、ステークホルダーと合意形成をする必要がありそうです。
島村 ステークホルダーとの連携においては、仲良くやることも大事ですが、それよりも情報の流れと責任を明確化することが重要だと個人的には考えています。
今後の肺がん検診の方向性と自治体モデル事業の展望

―― 今後、低線量肺がんCT検診は、どのような流れで導入されるのでしょうか。
島村 2025年の10月に厚生労働省で開催された「第45回がん検診のあり方に関する検討会」の資料によると、2026年にはLDCT運用に関する具体的な内容が記載されたマニュアルが設定される予定です。
なお、このマニュアルは希望する自治体でのモデル事業の成果を通じて改定されることが想定されています。
―― 最初からマニュアルを固めるのではなく、実際の運用を通じてより現実的なものに変えていくわけですね。
島村 モデル事業では医療技術の優劣ではなく、現場実装できる運用かどうかが評価されます。「対象抽出・勧奨ができているか」「検査の標準化ができているか」「フォロー・回収ができているか」の3点が対策型がん検診の運用に耐えられるかの評価ポイントです。
―― 低線量肺がんCT検診を運用するあたり注意点はありますか。
島村 フォローまで含めて検診の一部とする必要がある点です。単純写真が20~30ミリの病変を見つけるのに対し、LDCTは2~5ミリの病変を見つけられます。LDCTによって発見能力が上がる一方で、フォローアップがしっかりとしていないと検診として成立しません。
特に精密検査が必要な場合は、通知だけでは受診に至らないケースもありますから受診までの導線作りが求められます。要経過観察の場合も改めて検査を促すリコールが必要です。こういった運用ルールを最初から仕組みとして組み込んでおくとスムーズに回せると思います。
―― 検診後のフォローアップを考慮しておくことが必要なのですね。
島村 ただし過剰診療にならないよう注意することも必要です。何でも精密検査に回してしまうと、検査先がパンクしてしまいます。フォローアップ期間に「高い確率で悪性腫瘍が疑われるのはどこか」を見極めるのがよいでしょう。
―― 最後にまとめをお願いします。
島村 LDCTは新たな取り組みですが、ステークホルダー同士の話し合いとITの力を活用することで、現場の混乱を少なくしつつローコストで事業を構築することは十分可能です。今回のポイントを念頭に置き、重喫煙者向けの対策型肺がん検診をスムーズに行えるような準備を進めていただければと思います。
―― 改定にあたりどのような設計や体制を組めばいいか迷うことも多いと思いますが、すべきことが整理されたのではないでしょうか。ありがとうございました。
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