現役開業医が教える!開業前に聞いておきたかった医療機器導入の注意点5選

【サムネイル】現役開業医が教える!開業前に聞いておきたかった医療機器導入の注意点5選

医師にとってクリニック開業は人生を大きく左右する一大イベントです。
​​​​​​​開業においては様々な判断を次から次へとしていかなければなりませんが、その中でも医療機器の選定は開業後の診療がうまくいくかにとても影響のある重要事項です。

今回は医療機器の選定時の5つの注意点について、内科クリニックを開業・経営した私の開業医としての体験も参考にしながらご説明いたします。これから開業を志す先生方の参考になれば幸いです。


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監修者情報:島村泰輝(放射線診断専門医)

目次[非表示]

  1. 1.注意点1. 医療機器の導入費用の問題
    1. 1.1.電子カルテ
    2. 1.2.PACS(医療用画像管理システム )
    3. 1.3.筆者(消化器内科) の一例
  2. 2.注意点2. 更新の必要性とそこに潜む課題
  3. 3.注意点3. 電子カルテやPACSは機種の変更が困難
  4. 4.注意点4. 故障のリスク
  5. 5.注意点5. あったほうが良い、はなくても良い
  6. 6.まとめ

注意点1. 医療機器の導入費用の問題

医療機器の導入費用

医療機器を選定する際にはまずどの種類の医療機器を導入するかを決定し、その後どの社のどの機種を導入するべきか検討することになります。

特に開業時に自院にどの種類の医療機器を選定するかはとても重要なポイントになります。
その際にこの機器が欲しい!これを使えば診療の質があがる!という気持ちは大事なのですが、まずはその気持ちを横に置いておいて、この機器がどれくらい経営に貢献してくれるかをしっかり考える必要があります。この機器をどれくらい使用する可能性があるのか、どれくらい使えば採算が合うのかを経営者としてしっかり考えましょう。採算が合うかどうかの判断のためには以下の2点をしっかりと把握する必要があります。

  • 初期費用がいくらなのか
  • 消耗品と保守費用がいくらなのか

開業時資金の範囲内で納めるためには開業当初は何かを我慢する必要があると思っておいたほうが良いでしょう。開業時に検討する代表的な医療機器については以下の通りです。

電子カルテ

今の時代に開業される先生にとって、電子カルテはどの診療科でも必須になります。電子カルテは高額な機器ですが、日々の診療点数の計算が早くなったり、紙カルテを探して診察室まで運び終われば片付けるなどの医療事務の労働力を軽減したりすることで、診療効率をあげて結果としてコストカットにつながるというメリットがあります。またこれから始まる電子処方箋の義務化や医療情報連携にも大きな役割を果たすことが想定されます。

  電子カルテとは?導入によるメリット・デメリットを徹底解説! 多くの病院で導入されている電子カルテですが、「必要ない」「入力が面倒くさくて時間がかかる」「コストがかかる」などの声があるのも事実。開業を検討している先生方は電子カルテの導入、機種選定に悩むことでしょう。   2015年に政府は「日本再興戦略 改訂2015」内で「2020年度までに400床以上の一般病院における電子カルテの全国普及率を90%に引き上げる」と発表しました1)。目標達成に至っていない状況の中、奇しくもコロナ禍で医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目され、強力に推進されることとなりました。   この記事では、電子カルテについて基本的な事項からメリット・デメリットについておさらいしていきます。そしてなぜ今電子カルテが必要とされているのか、特にクラウド型電子カルテが持つ意味について詳しく解説します。 株式会社エムネス


PACS(医療用画像管理システム )

画像を扱う科目ではPACSなどの画像管理システムとの連携も必須です。内科では胸部レントゲンや心電図を昨年と比較する、一昨年と比較するなどはほぼ毎日発生する業務ですから過去画像をすぐに呼び出せるようにしておくことは重要です。

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  医療用画像管理システムPACSとは?課題や選ぶときのポイントも解説 PACS(Picture Archiving and Communication System)とはデジタル画像を効率的に保存、取得、共有するための医療用画像管理システムです。医療画像をデジタル形式で保存し、迅速かつ容易にアクセス可能にすることで、診断や治療の効率を劇的に向上させます。 本記事では、PACSが医療の世界にもたらす進化や課題ついて掘り下げ、その技術の理解と選ぶときのポイントについても紹介します。 株式会社エムネス

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筆者(消化器内科) の一例

さらに将来を見据えれば読影の外部委託やAI診断に対応するためにも必須機器となります。
私(消化器内科)の場合は、電子カルテ、PACS、レントゲン装置、上部下部内視鏡(中古)、内視鏡洗浄機、エコー(中古)、心電図、血球計数機(血算とCRPのみ)の装備で開始しました。

最も得意とする内視鏡とエコーの装置を中古品で開始することは苦渋の決断ではありましたが、クリニック院長はプレイイングマネージャーですので経営者としての視点を優先して決定していました。開業後余裕ができたときに追加で新たな機器や装置を購入するようにしましょう。


注意点2. 更新の必要性とそこに潜む課題

開業初期の医療機器選定の際に価格が重要なのはもちろんですが、忘れてはいけないのが保守や修理、更新に膨大なコストがかかるということです。

医療機器はPMDA(医薬品医療機器総合機構)の高度な基準をクリアして医療現場に出てきます。その後も定期的なメンテナンスを受ける必要があり、これは医療機関の責任になっています。この保守・修理にかかる費用も計算にいれて機器選定をしておく必要があります。必ずイニシャルコストとランニングコストをメーカーから聞き取って、一定期間(例えば5年間)の総コストを比較して費用の判断をするようにしてください。イニシャルコストが安く見えてもランニングコストが高いメーカーから購入してしまうとトータルコストが高くなってしまいます。

また機器によっては更新が必要なものもあり、思っていた以上にコストがかかることがあります。私の場合は電子カルテのOS(開業時はwindows7でした)サポート終了時に更新が必要になりました。これまで通り使うためには同じ会社のwindows10仕様の電子カルテにPCごと全て交換する必要があり、500万円ほどかかりました。この時の更新にかかった費用は初期購入額の実に2倍に相当しました。調べてみるとランニングコストや更新費用が経営上無視できないことが多い点も注意して決定してください

私が開業した頃にはなかったですが、初期導入費用や更新費用が掛からないタイプの機器も登場していますので選択肢は広がっています。先生方それぞれの状況にあった最適の選択をしてください。

注意点3. 電子カルテやPACSは機種の変更が困難

悩む医者


医療機関には様々な医療機器がありますが、電子カルテとPACSは患者情報を格納するという意味で特別な機器です。

内視鏡装置やCT、MRIなどは新しいものが出た際には費用を出せば変更できます。また他社の機器に変更することも可能です。私の場合、オリンパスの内視鏡を使って開業し、途中から保守の費用や性能を比較検討して富士フィルムの内視鏡に変更しましたが、全く困難なことではありませんでした。

一方電子カルテとPACSは使い始めて患者情報を格納していった後に他社の機器に変更することが困難または不可能なことが多いです。電子カルテやPACSのメーカーごとに過去データや画像の格納方法が異なっているため、他社のカルテやPACSのデータを引き継いで新しい機器にうまく表示できないことが多いです。何とか引き継ぐためにはそのためにデータ移行ソフトを作って出力と入力の作業をしてもらうことになるため高額な費用が発生することになります。

私の場合も電子カルテとPACSをほかの会社の機器に変更する計画を立てたのですが、過去データを移行する作業が困難だったので断念した経験があります。ですから一度決めた電子カルテやPACSは長く使い続けることになるでしょうし、更新が必要な場合も同じ会社の後継機種を使うことになります。電子カルテとPACSは先のことも考えて選択する必要があるでしょう。


注意点4. 故障のリスク

医療機器の故障はクリニックにとって一大事です。機器が故障するとその代替え機器を持ってきてもらうか、修理が完了するまでその診療ができなくなってしまいます。故障時にどのようなバックアップの体制を敷いているかは購入前によく確認しておきましょう。事前にチェックしておきたい代表的なポイントは以下の通りです。

  • メーカーの事務所の連絡体制はどうか?
    (土曜日診療中に発生したトラブルが月曜まで連絡つかないようでは困ります)
  • 事務所は自院の近くにあるか?
  • ソフト的なトラブルにはリモート修理に対応可能か?

私の場合は内視鏡の故障(内視鏡はかなり頻繁に故障する機器です)によって内視鏡検査を他の日に変えてもらったりしたことがありました。ただ内視鏡やレントゲンなどの装置は高額ですが、たとえ壊れても修理したり新たに買えばこれまで通りの診療が可能になります。

しかし患者の過去の診療記録や過去画像は万が一取り出せないことになってしまうと新たに電子カルテやPACSを購入しても取り戻すことが困難です。最近は水害等によって医療機関の医療データを喪失することが増えていると聞いています。私は電子カルテのデータを院内のサーバーとクラウドのサーバーへ保管するサービスに追加費用を支払って加入しました。幸いクラウドのデータを使って復旧作業をすることはありませんでしたが、かかりつけている患者さんの診療データを失うことはクリニックにとっては致命傷になりかねませんのでクラウドバックアップは検討していただいたほうが良いと思います。

最近ではそもそも院内サーバーをおかず、診療情報をすべてクラウド保管するタイプの電子カルテやPACSもあるようです。院内に設置するのはすべてクライアントPCになるので、データ喪失のリスクはありませんし、故障時のリスクも少ないようです。このタイプの電子カルテやPACSも有力な候補になります。

注意点5. あったほうが良い、はなくても良い

医療機器

開業の計画を進めているときには、以下のように医師としてこれまで経験したことがない判断が続くと思います。

  • 開業場所
  • 開業時期
  • 物件(戸建てかテナントか)
  • 内装の設計・建築
  • 医療機器の選定
  • スタッフの雇用
  • 広告
  • 資金調達
  • 自分の給与

まずは全てにおいてミニマムで作ることをお勧めします。

クリニック開業はリスクの少ない事業とは言われているものの都市圏では経営が軌道に乗らずに撤退するところも増えてきています。医療機関は飲食店やショップとは異なり、新規開店で多くの人の注目を集めたり人が集まってくる業種ではありません。時間とともに信頼を積み重ねて患者数を増やしていく業種ですので、新規開業時が一番リスクの高い時期になります。できるだけコンパクトに開業して、軌道に乗ってから拡大していくのが安全だと筆者は考えます。

医療機器は高額ですし、使われなければメンテナンス費用ばかりかかってマイナスになる場合もあり得ます。自院にとって「この機器がなければ診療できない」必要最低限の装備でスタートするのが安全です。「あったほうが良い」程度の機器はなくても良いかもしれません。

私も最低限の装備で開業し、12年間で3度の増築工事と診療機能の拡張をしています。今振り返ってみても開業時は不安とピンチの連続ですから最初は小さく生んで大きく育てる意識が大事だと考えます。

まとめ

医療機器にかかる費用は開業時の支出の中でも大きなウェイトを占めます。開業直後は患者さんは多くは来てくれません。その中でも購入した医療機器の費用を支払っていかなければなりません。最も大事なことは先生が創立したクリニックがきちんと存続することですから、必要な医療機器にも優先順位をつけて選定していきましょう。最低限度の装備で開業する!という気持ちで望むのがベストです。

次にコストを考えるときはイニシャルコスト+ランニングコストを計算して判断しましょう。またどのような場合に更新が必要となるのか、その際の費用はいくらかかるかもメーカーに確認しておきましょう。メーカーの担当者と会ったり、デモ機を見るとどうしても機能・性能の説明が中心になりがちですので、事前に質問リストを作成してランニングコストと更新の質問を忘れないようにするのがお勧めです。

最後に電子カルテやPACS等のデータ保存系はクラウドにしましょう。
最大の利点は万が一の院内サーバーのクラッシュ時(ソフト的故障や災害によるハード的故障)にデータを復旧できることです。利点が地味なのでこれから開業される先生方には少しイメージしにくいかもしれませんが、開業後数年たつと院内で最も大事なものは自院に対する信頼そのものと保管してある診療記録であると気が付かれると思います。金銭で後から取り戻せない診療の記録をキチンと保全することはとても大切です。

今回は開業時の医療機器の選定と費用について私の経験を踏まえて説明させていただきました。開業には本当に多くの判断をしていかなければなりませんが、私の経験が先生方の参考となれば幸いです。

その他のクリニックの開業にまつわることは以下の記事でもまとめています。ぜひこちらもあわせて参考にしてください。​​​​​​​

  クリニック開業までの7つの手順!必要設備・費用を抑える裏技も合わせて紹介 医師の収益を増やす選択肢の一つとして、クリニックの開業が挙げられます。独立や事業承継など理由はさまざまですが、クリニック開業を円滑に進めるにあたり、手順や設備、かかる費用を知りたいという医師は多いのではないでしょうか。 この記事では、クリニック開業を考えている医師へ向けて、手順・設備・費用を詳しく紹介します。 株式会社エムネス


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Dr.Ma
Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。

※導入時に訪問を伴う対応が必要な場合は、別途費用が発生する場合がございます。