クリニックの院内ネットワーク構築や業者選定のポイントを医療系ネットワークエンジニアが徹底解説!【セミナーレポート】
電子カルテや医療機器がインターネット接続しているのが当たり前になりつつある医療業界。そこで重要になるのが院内ネットワークの構築と整備です。問題意識を持ってはいるものの、具体的に何をすればよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
今回は院内ネットワーク構築におけるクリニックや業者の悩みと解決方法、具体的なネットワーク構築のコツなどについて、株式会社テックデザインの河野哲治氏に話を聞きました。
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クリニックが抱える4つのネットワークの悩み
━━ そもそも院内ネットワークはどのように構築すれば良いのでしょうか。
河野 哲治 氏(以下、河野) 良いネットワークを作るためのコツは、闇雲に100点満点のネットワークを目指すよりも、失点を抑えることに注力し、80点くらいの不満の少ないネットワークを作るのがおすすめです。ネットワーク構築の際に陥りがちな落とし穴に気をつけ、できるだけ不満点を減らすことが、満足度の高いネットワークにつながります。
━━ 院内ネットワーク構築には、クリニック・業者ともに悩みを抱えているとのことですが、クリニックではどのような不満や悩みを抱えているのでしょうか。
河野 クリニックでは主に4つの不満や悩みを抱えています。
一つ目は「ネットワーク構築を誰に依頼すれば良いか分からない」。
新規開業であればコンサルタントや内装業者が相談に乗ってくれますが、開業済みの場合はどの企業が請け負ってくれるのか、どこが期待に答えてくれそうかの見当がつかずに困っている方が多いようです。
二つ目は「配線がカオスでどこに何がつながっているか分からない」。
開業して時間が立つと、どうしてもネットワークの配線が乱雑になりがちですが、改善しようにも怖くて手を付けられない。誰に頼めば良いのか見当がつかないという悩みです。
三つ目は「クラウドサービスはインターネット接続が遅かったり不安定だったりすると診療にならない」。最近は電子カルテをはじめ、さまざまな医療サービスがクラウド化しているので、インターネットに接続できないと診療に差し障るという不満です。
四つめは「セキュリティに対して漠然とした不安がある」。特にクリニックや診療所では、大病院のようにIT専任のスタッフを配置するのが難しいため、目に見えないサイバーリスクに対する不安があるようです。
━━ 一つ目の「依頼先が分からない」について詳しく教えてください。
河野 施設内でシステムを完結させるオンプレミス型の電子カルテが主流だった頃は、電子カルテを納入する企業が主導してLAN配線をするケースが多くありました。
しかし、今はクラウド型の電子カルテが主流になりつつあります。クラウド型サービスはインターネット上のサービスなので、設備の設置や配線工事が必要ありません。そのため院内ネットワーク構築を主導する立場の事業者が不在になりがちです。
また、オンプレミス型の電子カルテでも、業者が構築してくれるのはあくまでも自社システムを動かすためのネットワークだけで、メールやWeb閲覧に使うインターネット接続まで用意してくれることは稀です。
━━ 二つ目の「乱雑な配線」というのはどのようなケースでしょうか。
河野 時間の経過とともにネットワーク接続する機器が増え、配線が乱雑になってしまうケースです。配線が複雑化してから、電子カルテや医療機器メーカーに配線整理の相談をしても、サポート範囲外なので引き受けてくれません。メーカー側は基本的に自社の設備が接続している配線しか把握していないので、当然と言えば当然でしょう。
配線が乱雑でも各機器が正常に動いているうちは良いのですが、万が一トラブルが発生した場合に原因の特定と解決に非常に時間がかかってしまうため、危険な状況だと言えます。
━━ 三つ目は「インターネット接続の安定性」に関する不満やお悩みについても教えてください。
河野 前述の通り、クラウド型システムはインターネットに接続できないと使えなくなってしまうという不満です。実際に「いつでもトラブルなくネットワークを使いたい」「業務上ストレスを感じない程度にインターネットの速度が出るようにして欲しい」というご要望は最近非常に増えています。
安定したインターネット接続のために考慮すべき要素はたくさんあります。例えば、光回線を使っていても、利用するプロバイダによって速度は変わりますし、ルーターのようなネットワーク機器の性能や配線方法でも速度は変わります。無線LANであれば、アンテナの方向で電波の飛び方が変わるため、設置場所によって速度に影響が出ますし、オフィス街であれば昼間の通信量が多い傾向、住宅街では朝と夜の通信量が多い傾向にあるといった地理的な要因も考慮する必要があるでしょう。
安定的に使いたいのであれば、施設の環境に合わせた調整が必要です。
━━ 四つ目の「セキュリティ」はいかがでしょうか。
河野 セキュリティに関する漠然とした不安は、例外なく皆さんが感じていることです。なぜ漠然とした不安感があるかというと「そもそも問題が起きているかどうかが分からなくて不安」なのだろうと当社では考えています。
セキュリティに関しては、完璧な状態というものがありませんので、終わりのない課題です。ただし安心を得るためにできることはあります。
▼セキュリティに関しては以下の記事もぜひ参考にしてください▼
ネットワーク構築の課題を解決する鍵は「全体を把握する存在」
━━ ここまでクリニックが抱えている不満や悩みを解説いただきました。一方で、電子カルテや医療機器メーカー、コンサルタントなどの業者はどのような悩みを抱えているのでしょうか。
河野 こちらも大きく四点に分けることができます。
一点目が「ネットワーク構築を取りまとめる人がいない」です。
クリニックの内装工事は建築事務所や現場監督が取りまとめてくれますが、ネットワーク構築に関しては大抵の場合責任者がいません。例えば「IPアドレスの何番から何番まで使って良い」という技術的な調整を、誰とすれば良いのかがわかりにくいという悩みがあります。
━━ 他にはどのような悩みがあるのでしょうか。
河野 二点目は「院内ネットワーク全体の資料がない」です。
新規開業でも開業済みでも、設備を導入する際は院内ネットワーク資料がないと、確認作業や調査が必要となるため、余計な手間がかかってしまいます。
またネットワーク資料がないと、機器を動く状態にすることが優先されてしまい、乱雑なネットワーク配線になりやすいという点も問題です。
━━ クリニックが抱える二番目の課題である「乱雑な配線」につながるのですね。
河野 そうですね。続いて三点目は「院内ネットワーク全体を把握している人がいない」ことです。
ネットワーク責任者が不在の場合、ネットワーク全体を把握しようとする動機や必要性のある人がいません。専門的な内容になってしまうので、クリニックのドクターやスタッフが把握するというのも現実的ではないでしょう。
四点目は「クリニックから契約範囲外のサポートを求められる」、これは特にオンプレミス型の電子カルテメーカーが抱えている悩みです。
━━ こうして見るとクリニックと事業者で共通する悩みも多そうです。
河野 その通りです。そこで、「院内ネットワーク全体の設計」「ネットワーク資料の作成」「ネットワーク工事」「ネットワークの保守」を一括して対応してくれる事業者にネットワーク構築を依頼すると、双方の悩みを一気に解決できます。
実はほとんどの問題の原因は「院内ネットワーク全体に対して責任を持つ管理者の不在」に集約されます。
したがってネットワークを設計した事業者が資料を作成し、資料を作成した事業者がネットワーク工事を施工し、ネットワーク工事を施工した事業者が保守管理を行うのが理想的であり、この四つをまとめて請け負ってくれる一社に依頼するのがベストな選択だと言えます。
院内ネットワークの構築は、単なる配線工事ではなく、設計・工事・保守管理の三つが一体となったプロジェクトだと考えてください。
━━ 事業者の選定にあたってのポイントはありますか。
河野 電気工事業者ではなく、ネットワーク事業者に工事を依頼します。
電気工事業者が対応してくれるのは配線工事のみで、ネットワークの設計や機器の設定までは対応していません。
院内ネットワークを構築するために押さえておきたいポイント
━━ 解決方法について、もう少し詳しく教えてください。
河野 まず「院内ネットワーク全体の設計」についてです。各機器のメーカーがそれぞれ専用のネットワークを作っていく水平分業の形を取るのではなく、クリニックが用意したネットワークに電子カルテや医療機器を接続してもらう形にするのが理想的です。
各社がネットワーク機器を個別に配置すると、配線が急激に乱雑化し、ネットワークのブラックボックス化が進んでしまいます。それを防ぐためには、導入する医療機器やシステムに合わせて最適化したネットワークを設計することが必要です。
例えば、クリニックの内装は、動線も考慮して設計されていますよね。ネットワークも同じように利用者目線で使いやすく設計することが重要です。そのためにはできあがったネットワークを受動的に使うのではなく、クリニックが主導権を握ってネットワーク構築を進める必要があります。
━━ 2番目の「ネットワーク資料の作成」はどうすればよいのでしょうか。
河野 そもそもなぜクリニックにネットワーク全体の資料がないかと言うと「事業者に情報をまとめるメリットがない」「資料作成には専門知識が必要」「他社の仕様や構成を理解しないと全体の資料を作れない」「文書作成の工数が見積もりに含まれていない」などの理由が挙げられます。したがって、院内ネットワーク全体の資料を作るのであれば、別途資料作成を依頼する必要があります。
━━ ちなみにテックデザインさんではどのように資料を作成しているのでしょうか。
河野 当社では視覚的に分かりやすい資料を提供しており、特に直接のお客様であるクリニックよりも、エムネスさんのような事業者に喜ばれるケースがほとんどです。
物理的にどのような配線がされているかを図で表しており、例えば緑色の線は電子カルテのネットワーク、赤い線はインターネット、紫の線はオンライン資格確認といった形で、色ごとにどのネットワーク化が一目で分かるようにしています。
また各部屋ごとのLANポートの場所や個数、種類を表したり、Wi-Fiの接続設定や電波状況なども資料にまとめてお渡ししています。
━━ 3番目の「ネットワーク工事」はどのような点に気をつければ良いでしょうか。
河野 まず気をつけるのは通信機器の設置場所です。
情報盤に設置されるケースを多く見かけますが、当社ではサーバーラックに設置することを推奨しています。ごちゃごちゃした配線を隠すために、蓋のついている情報盤を使いたくなる気持ちはわかりますが、配線が見えるラックでも配線が整理されていれば見苦しいことはありません。
また通信機器は空調の効いた開放空間に設置することを推奨しています。蓋のできる情報盤に設置すると熱暴走のリスクが高まり、ネットワークの不安定につながるため、当社では推奨していません。人間が不快に感じる空間は通信機器にとっても好ましい場所ではないというのが一つの目安になります。
━━ どうしても情報盤を使わなければならない場合は、どうしたら良いのでしょうか。
河野 その場合は、動作環境温度が50度まで対応している製品を使っていただくと良いと思います。
例えば、業務用通信機器の多くは、動作環境温度が最大50度となっています。一方、家庭用通信機器の多くは最大40度のものがほとんどです。特に夏場は情報盤の温度が40度近くまで上がるので、この10度の差は大きいと言えます。
また、無線アクセスポイントの設置にも注意が必要です。情報盤は、金属製のボックスなので、電波が飛びにくくなる性質を持っています。いくら設定を良くしても、設置場所を誤ると、思うような性能がでないので注意が必要です。
━━ 機器を選定するにあたってのポイントはありますか。
河野 家庭用の機器ではなく、業務用の機器を使うのがおすすめです。
前述の通り温度の問題もありますが、業務用は機器の製造や試験にかけられているコストが大きい分、安定性や性能が家庭用よりも格段に上です。
━━ 4番目の「ネットワーク保守」についてはいかがでしょうか。
河野 一例として当社の保守サービスを紹介します。当社では、基本的に遠隔でサポートをしているほか、継続的なセキュリティ対策を施しています。また設備の追加や削除に伴うネットワーク資料の更新、自動監視システムによる障害の早期検知、NTTの工事・故障情報の配信などもしています。
例えば、お客様から「受付のパソコンの調子が悪い」とご連絡をいただいたら、リモートでネットワークの接続情報を確認し、状況に応じた最適な解決方法をお伝えしています。遠隔サポートのメリットは、業者がクリニックに訪問する必要がないので、診療の邪魔にならない点や、すぐに対応を開始できる点などが挙げられます。
━━ 継続的なセキュリティ対策というのは、どのようなことをするのでしょうか。
河野 例えば、Windowsのパソコンは毎月アップデートされていますよね。通信機器も不定期ではありますが、不具合を解消するための修正プログラムが提供されています。こちらも当社では遠隔でアップデートをかけられるので、常に最新の状態を保つことが可能です。
━━ 通信機器のアップデートはつい見落としてしまいそうです...。
河野 2021年につるぎ町立半田病院がランサムウェアに感染したニュースが非常に話題になりました。その原因として挙げられていたのが、セキュリティ対策のために導入した機器が最新状態になっておらず「セキュリティ機器の脆弱性を突かれて侵入を許してしまった」という皮肉なものでした。このような結果を招かないためにも、通信機器を最新状態にアップデートするのは非常に重要です。
また当社では、毎週ルーターの通信記録をチェックして、お客様にメールで報告をしています。不審なログがなければお客様も安心ですし、仮に不審なログがあってもメールで報告し、取るべき対処方法をご案内しているので、セキュリティに対する漠然とした不安感を解消できると思います。
━━ サイバー攻撃というと「わざわざ自分を狙わないだろう」と思ってしまいます。
河野 それは半分正解、半分不正解です。サイバー攻撃をする側は、わざわざ特定の施設を狙うことはありません。基本的に無差別ローラー攻撃で、侵入できそうな対象を探しています。目の前にあるドアノブを一つひとつガチャガチャとしてみて、空いているところがあれば入る空き巣のようなイメージだと思ってもらえると良いでしょう。
━━ 無差別攻撃を防ぐために、セキュリティ対策で押さえておくポイントはありますか。
河野 セキュリティ用の年間予算を決めておき、その予算内でできる限りの対策をするのが良いと思います。まずは機器やシステムよりも、スタッフのセキュリティ教育に予算を割くべきです。人間はかなり簡単に騙されてしまう脆弱な存在なので、UTM(統合脅威管理)と呼ばれるセキュリティ機器の導入をおすすめしています。
人間の脆弱性を突く攻撃の一つにホモグラフ攻撃があります。これはアルファベットの「o(オー)」とギリシャ文字の「ο(オミクロン)」のように見た目で判別できない文字をURLに悪用して偽サイトに誘導するサイバー攻撃です。
よく「URLに変なところがないかよく確認しましょう」と言われますが、人間の感覚はそれほど当てになりません。基本的に人間は騙されやすい存在であることを前提に、人間の弱点を機械でカバーできるようにセキュリティ対策をするのが正しいスタンスだと思います。
━━ 漠然としたセキュリティに関する不安は、継続的な機器アップデートやUTM導入など事前の対策にて大幅に解消できるんですね。本日は学びになるお話、ありがとうございました!
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