地域医療連携の始め方とは?システム導入によるスムーズな連携を事例を交えて現役医師が解説!【セミナーレポート】
より質の高い地域医療の実現には、病院同士の連携が不可欠です。
今回は宮城県にある仙台厚生病院の地域医療連携の先進事例や変革を踏まえ、現役医師の視点から医療連携の進め方を解説します。
本記事では、医療連携の先進事例としてのプロジェクトに携わられた相馬中央病院の齋藤宏章氏と、エムネスの北村にお話を伺いました。
周囲の病院との連携方法やシステム導入のポイント、導入前後の変化について、また医療画像診断の変革についてなど、多岐に渡りお話しいただいています。
現場の悩みや定着するポイントを抑えながら、患者中心の地域医療を構築するためにもぜひお役立てください。
なお、地域医療連携の概要についてはこちらの記事でもご確認いただけます。あわせて参考にしてください。
本セミナーを動画でご視聴されたい方は、
以下のアーカイブ配信フォームよりお申込みください
▼
目次[非表示]
病院連携にLOOKRECを活用、医療の質向上への新たな試み
━━ まず、仙台厚生病院の医療連携プロジェクトについて教えてください。
齋藤 宏章氏(以下、齋藤) はじめに、宮城県の医療状況について簡単にお話しします。
宮城県では、仙台市に大学病院や大規模病院が充実してますが、その一方で仙台市以外の地域の方が高度な医療を受ける場合、仙台市の病院を紹介してもらう流れが少なくありません。
仙石病院がある石巻市も、近くに赤十字病院や地域医療を担っている病院はあるものの、高度な救急医療となるとやや手薄であることは否めません。
そういった地域の医療体制があったうえで、私が以前勤務していた仙台厚生病院と、そこから約50km離れた仙石病院で、オンライン画像を通じた医療連携プロジェクトが開始することとなりました。
このプロジェクトが始まった経緯は、元々利用していたLOOKRECを「LOOKRECを画像診断だけでなく、病院連携で使えないか」という発想から始まったプロジェクトです。
━━ 医療連携の強化を考えられている方々も、同様の医療体制で悩まれている方は多そうですね。そこからどのようにプロジェクトを進められたのでしょうか。
齋藤 実はこのプロジェクトの構想は2020年初頭からはじまっているんです。当初は、仙台厚生病院の放射線技師に中のシステムを聞いたり、救急紹介時のワークフローを確認したりと、準備を進めていました。
しかし、コロナが流行り出し、発熱に対して非常にナーバスな状態へとなり、以前よりも病院への紹介時の確実性が重視されるようになりました。図らずとも、画像診断の重要性が高まり、プロジェクトのタイミングとしては最適だったと思います。
北村 直幸(以下、北村) そもそもプロジェクトを始めるきっかけとして、課題はあったのでしょうか。
齋藤 課題があったというよりも「LOOKRECを使うことで医療の質が上げられるのではないか」という期待があったという方が正しいかもしれません。
例えば、仙石病院で高度な内視鏡治療が必要な方、膵臓がんや胆管がんで黄疸が生じている方は、すぐに搬送して治療するという治療体制、あるいは循環器疾患でも大動脈解離のような、救急かつ高度な治療を必要とする場合は、仙台厚生病院に搬送する仕組みはできている状態でした。
しかし、LOOKRECで画像情報をすぐに共有できれば、救急患者の連携に効果を発揮するのではないか?という考えで始まったプロジェクトだと言えます。
北村 その着眼点はさすがです。もともとLOOKRECは、我々放射線診断医が遠隔画像診断をするツールとして開発したものなんです。視点を変えれば、一般の診療科の先生方も画像を使い、そこから得られる情報が多数あるということですよね。
スマホでキャプチャした画像だけでも得られる情報があるのは事実ですが、ウィンドウレベルを変えたり複数枚数を確認できることで、より質の高い診断ができますよね。
システム導入の進め方と導入後の変化
━━ そこからどのようにシステム導入を進めていったかも教えてください。
齋藤 基本的には「患者を紹介してもらう・受け入れる前提」で導入を進めました。
患者を受け入れるかの判断目的として利用すると、そもそものツール使用が控えられてしまうと考えたためです。
そもそも、紹介が発生するシチュエーションは、「画像を見て判断して欲しい」というより、「依頼先科目での疾患でトラブルが起こっていそう」だからお願いするわけです。
なので、基本的には患者を受け入れる前提で、紹介時に画像を一緒に付けてもらう形で運用を始めました。
━━ 導入前後でどのような違いが生まれましたか?
齋藤 以前であれば、紹介の電話を受けたら、患者の状態や採血の値、大まかな診断を教えてもらったうえで「まずはこちらで検査します」と、まずは患者さんに移動してもらっていました。
しかし、LOOKRECを利用した画像連携の導入後は、ご紹介時の電話で患者の状態や処置内容はもちろん、画像からも患者の症状の程度を読み取ることができます。病床の状況も同時に確認したうえで、「すぐにできる処置なので今日来てください」「この状態であれば何日後に来てください」といった転院や、搬送の目処が立ちやすくなりました。
現場のフィードバックとしても、心臓血管外科の先生からは「画像が見えるのがとても良い」「手術の段取りがしやすい」といったコメントをいただきましたね。
北村 実際に画像連携を用いた紹介は、どのくらいの件数がありますか。
齋藤 導入から2年間で、大動脈解離の症例は10例ほど紹介しています。消化器内科領域であれば30例は紹介していますね。
医療の課題に共通することですが、いきなり劇的な効果というのは見えにくい状態です。ただし、現場は最適化された方法で回っており、大動脈解離の症例でも段取りがものすごく上手くいくのであれば、それだけでも大きな成果と言えると思います。
逆に、システムを導入することで今までのフローが途絶えてしまうと、現場としても「使えないな」となってしまいます。一例でも「これがあったから良かった」というのがあれば十分な成果だと思っています。
北村 私たちも遠隔画像診断で日々至急の読影依頼を受けています。
例えば「急性腹症で虫垂炎が破裂している」といったコメントを返しているのですが、治療に直結する情報をいかに早く現場の先生や患者に届けられるかという観点からすると、理想的な連携に近づきつつあるように感じます。
齋藤 自分が専門としていない科の紹介のときに求められる情報と、実際の治療に必要な情報は全く違うので、紹介時点で画像を見て、ある程度の当たりを付けられるのは大きなメリットだと思います。
例えば、内科の先生が普段からきちんと勉強をしていて、膵臓がんや胆管がんといった消化器内科の診断は確実にできるとしても、それが手術できるものなのか、実際に処置をするのであればどのようなアプローチが考えられるかといったことは、毎日治療を行っている専門の先生の見立てと異なることがあります。そこをフォローしてもらえるのは心強いですね。
北村 まさに画像が治療に即影響するような疾患に対しては、患者さんが到着する前に画像が届くことは大きなメリットですね。
齋藤 そうですね。それに言葉で説明できることには限界があります。
例えば、研修で脳梗塞の所見を教わっているので、頑張れば説明することはできます。しかし、果たして専門の先生に届くようなプレゼンテーションが救急の場で可能かと言われると実際は難しいはずです。
救急の現場はさまざまな情報が錯綜するので、本当に手術が必要な場合もあれば、手術が必要か迷ったまま送られてくる場合もあります。
言葉の情報だけで手術が必要かどうかは、受ける側の先生からしても「おそらく手術は必要だろう」と思っていても、患者が搬送されてくるまでは判断がつきません。
今回のプロジェクトのいいところは「画像では手術が必要そうだ」という判断ができるので、手術スタッフに呼びかけたり、麻酔科の先生に声をかけたりといった仕事の段取りのスピードアップにつながる点だと思います。実際に患者が病院到着してから、最短40分程度でオペを行えるケースもありました。
病院間連携には医師の能動的な動きではなく自動化が必要
━━ 導入時に感じられた課題にはどのようなものがありましたか。
齋藤 現場の負担を考慮して流れを作るのが、導入時の課題でしたね。
病院間連携で難しいのは、段取りを整えることだと思います。医師が動かないと止まってしまうシステムでは意味がありません。
最初に画像をアップロードしたら、自動で流れ作業的に進むフローを作っておけば済むのですが、医師がどの画像を送るかを判断したり、放射線科に問い合わせたりしてしまうと流れが止まってしまい「面倒だからもういいか」となってしまいます。
北村 医師としてもそこに神経を使いたくありませんからね。
齋藤 おっしゃるとおりです。病院間連携そのものはどの地域にも必ずあるのですが、実際の事例が少ないのは、能動的に動かないと連携されないからです。
したがって基本的に指示を加えなくても、自動で画像が共有されるようなシステムにするといいのですが、施設によっては患者の同意といったハードルがあるのでなかなか医療連携が進みづらいといった状況です。
━━ システム導入を医療現場に根付かせるポイントはありますか?
齋藤 スムーズなコミュニケーションが取れる関係性が出来上がっており、なおかつ使用頻度が高そうな医療機関同士から始めることもポイントです。
使う頻度が低いとサービスの存在自体を忘れてしまいます。相手の先生とコミュニケーションを密に取って、ライトな症例から導入を始めるといいでしょう。
紹介の頻度が決まっている病院や、グループ系の病院は導入しやすいでしょうね。一方で診療科が多くて、さまざまな病院から広く浅く紹介が集まる病院だと運用は大変だと思います。
今回の事例がうまくいった背景には、仙台厚生病院と仙石病院であらかじめ紹介する流れができていた点があります。
撮影技術の進化とITインフラ整備による医療画像診断の変革
━━ 医療連携の変化について、北村先生にお聞きしたいと思います。そもそも遠隔読影を始められた経緯は何だったのでしょうか。
北村 エムネスを立ち上げた2000年当時は、インターネットも光ファイバーも普及しておらず、通信環境は電話回線がメインでした。CTやMRIといった撮影装置はデジタル化していましたが、読影するときはフィルムが主体だったため、デジタル装置で撮ったものをアナログに落として見ていたんです。
遠隔画像診断という言葉は当時もありましたが、実際はフィルムを郵送していたので、届くまでに数日かかります。今でも覚えているのですが、急性虫垂炎が穿孔している症例があって、レポートには「すぐ手術をお勧めします」と書かざるをえないのですが、既に検査日から3-4日経過しているわけです。
またフィルムのデメリットとして、物理的にスペースを取るため保管が大変ですし、過去画像と比較するときにはそれを探しだし、さらに袋から引っ張り出さなければなりません。
それらを解消するために、まず始めたのがデジタル画像の圧縮です。通信速度の遅い電話回線を使っているので、ギリギリ診断に耐えられるところまで圧縮した画像を、一症例につき10分以上かけて送って診断していました。
撮影装置も当時はちょうどヘリカルCTが出始めた頃で、今から見ればまだまだ陳腐なものでした。例えば胸部CT検査で40-50枚、多くても200枚くらいの画像を撮るのが普通でしたので、なんとか事足りていました。
その後、撮影装置の進歩により一回の息止めで頭の先から足の先まで撮れるようになり、一症例で数百枚はあたりまえ、場合によっては数千枚の画像を見る必要に迫られましたが、ほぼ時を同じくして通信インフラも整備され、遠隔画像診断業界のあり方も変わってきたと思います。
齋藤 北村先生が遠隔サービスを始められたとき、今のようにインターネットが進歩することを予測されていたのですか。
北村 具体的な予想はしていませんでした。しかし、テレビでリアルタイムに海外からの映像を見ることができていたので、医療画像も同じようにできるのではないかとは考えていました。
今でも忘れられないのが初めて光ファイバーを使ったときのことです。当時は圧縮した画像を15分ほどかけて送信していたのですが、専用線を引いたら非圧縮の画像が10秒もかからずに送れるようになりました。これは衝撃でしたね。
患者のメリットと病院の事情、遠隔医療普及の鍵は経営的視点
━━ 遠隔医療全体に対してどのように考えられているかをお二人にお伺いしたいです。
北村 コロナの流行で「遠隔医療」という言葉はメジャーになりましたが、現場ではどうですか。
齋藤 コロナによってオンライン診療はある程度定着していると思います。しかし、大きな病院を見ていると、現場レベルで遠隔医療が速やかに導入されるフットワークの軽さはありませんね。
北村 臨床現場の医師の立場から見て、オンライン診療が普及してほしいと思いますか。
齋藤 私自身は新しい技術が好きですし、今回のプロジェクトに関わることで使いやすさやメリットを実感しているので、もっと普及して欲しいとは思います。
一方で、今ある仕組みを変えるのは難しいという現実もあります。どのようにサービスを定着させるかを考えたときに、新しいものを導入するには、エネルギーを必要とすることを今回のプロジェクトの立ち上げで実感しました。
北村 なるほど。患者さんの変化を感じられることはありますか?
齋藤 コロナを境に、患者側にもオンライン診療や遠隔診療の概念が広まりました。一度オンライン診療を知ってしまった患者から「他の病院ではできたけど、こちらの病院ではできないのですか」という圧力が病院にかかり、導入検討の必要性が高まります。
言葉は悪いですが、患者が逃げてしまうことにもなりかねないので、ある意味正しい技術の広がり方だとは思います。
北村 患者の立場からするとメリットは大きいですもんね。
私は将来的に遠隔医療を突き詰めていくと、患者が自分のデータをクラウド上に持ち、そのデータに医師がアクセスして診断に利用していく形「PHR(パーソナルヘルスレコード)」になると考えています。
齋藤 そうなったときに病院は遠隔医療から逃げられなくなるのではないでしょうか。抽象的で壮大な未来の話かもしれませんが、20年前にインターネットが無かったことを考えると、そう遠くない将来にそうなっていてもおかしくないと思います。
北村 医療機関にとっては自施設で画像保管をすることにコストがかかってしまう。患者からすれば複数の病院に分散しているデータをまとめてみて欲しい。それぞれの事情があるので、データを一箇所にまとめることができれば、双方にとってメリットがありますよね。
患者と医師、双方が意識改革をして、かつ病院経営者にとってもメリットのある状況になれば、状況は一気に変わっていくような気がしますね。
画像診断AIの進化によってクラウド上で手軽に利用できる未来
━━ 今後、クラウド製品に期待することがあればお聞かせください。
齋藤 今話題のAIは遠隔医療との相性が良いと思います。一度クラウドにデータを上げておけば、AIを使っていろいろなことができそうです。
AIで革新的なサービスが登場したときに、それが使えるのが遠隔でしかないとなったときには導入が一気に進みそうなきがしますが、このあたり北村先生はいかがお考えですか。
北村 齋藤先生のおっしゃるとおり、クラウドにデータを上げて、医療機関が安価かつ簡単に使えるAIができれば、医療機関・AIベンダーの双方にメリットがありそうです。
もしクラウドを利用しないとなると、CT画像から全部の病気を見つけるようなAIって、なかなか現実的じゃないですよね。肺炎や脳動脈瘤とか、個別のAIを入れるとなると、医療機関はそれぞれにお金を払わないといけない。医療機関の収入が減っているなか、AIで保険点数がそれほどつくと思えないので、購入費や利用料を払うのは厳しいし、普及は難しいんじゃないかと思います。
齋藤 例えば、クラウドにDICOM画像を入れるだけでAIが自動的にレポートを作成するサービスが出たら、それを使う医療機関はすごく増えそうな気がします。これまでの画像診断に取って代わる存在というよりも、補佐する形ですね。
その可能性や拡張性の高さ絡みても、私は遠隔医療に期待していますし、おそらく近い将来そうなるのではと楽しみにしています。
▼画像診断とAIに関することはこちらの記事もぜひ参考にしてください。
熱意ある人材と小さな一歩が遠隔医療・地域医療連携成功の鍵
━━ 遠隔医療や地域医療連携の成功の鍵について教えてください。
齋藤 今回の事例がうまくいった背景は、人に恵まれた点が大きいです。
関わってくれる人がモチベーション高く進めてもらえたので、今後新しいところで導入する場合は、少しでも興味がある方と一緒に進めていくことが大事だと思います。
━━ 何かを新しく購入したり、設備を整えたりする観点ではいかがでしょうか。
齋藤 今は遠隔医療連携に関わるコストはかなり下がっています。興味がある医療機関であればすぐに検討できるコストで始めることはできると思います。
北村 最初に新しいことにチャレンジする人は少ないものです。特に大きな病院になればなるほど、周囲の様子を見ながらってことが多いんじゃないかと思います。
でも、今回の東北の事例を見れば、多くの医療機関が「自分たちも導入できるかもしれない」と感じていただけるのではないかと思います。
遠隔での病診連携に取り組んでいるところは、少なからず同じような悩みを抱えていると思うので、導入時のメリットを感じてもらえるのではないでしょうか。
齋藤 遠隔医療はあくまでもひとつのツールです。連携にもさまざまな方法があり、これまでに多くの地域の方がチャレンジしていると思うので、その一つの手段として参考にしてもらえればと思います。
━━ 齋藤先生、北村先生、本日はありがとうございました!
いかがでしたでしょうか?地域医療連携を推進したくともなかなか難しいと感じられている方の参考になれば幸いです。
なお、本記事内のプロジェクトに関して、斎藤先生が英語論文を発表されております。ご興味のある方は、以下のリンクよりぜひあわせてご確認ください。
本セミナーを動画でご視聴されたい方は、
以下のアーカイブ配信フォームよりお申込みください
▼