社労士が教える!面接や採用で失敗しないための必須法律実務【開業支援セミナーレポート】
クリニックや病院の開業において重要なことのひとつが、オープニングスタッフの採用です。しかしスタッフの採用はミスマッチが起こりやすく、クリニック開業における最初の大きなハードルだと言えます。
そこで、ミスマッチが少しでも起こりにくい手法で採用を効率的に行うためのポイントについて、社会保険労務士法人ベスト・パートナーズの米田憲司氏にお話を伺いました。
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目次[非表示]
安易な採用は後悔のもと!知っておくべき解雇の法的制約
━━ クリニックや病院の新規開業を検討している医師の方にとって、オープニングスタッフの採用は重要です。失敗しない採用のためには何が必要でしょうか。
米田憲司氏(以下、米田) 採用の話をする前に、皆さんに覚えておいていただきたいのが「解雇は不自由」という点です。日本の労働法制は終身雇用が前提となっています。これは解雇が極めて不自由であることを意味しています。
労働契約法第16条には「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と書かれています。
解雇とは法律行為です。そして、法律行為は相手方に意思が到達すると有効に成立するという大原則があります。しかしこの条文では、相手方に意思が到達すれば成立する法律行為(解雇)を無効だと言っているわけです。
「客観的に合理的な理由」とは物的証拠があるかどうかです。そして「社会通念」に照らし合わせて厳しすぎるかどうか。この二つに抵触すると、日本国内における解雇は無効となります。
━━ 一度雇ったスタッフは簡単に解雇できないということですね。
米田 そのとおりです。故に採用は日本国内において非常に重要な作業になるということを、まずは頭に置いておいてください。
なお、採用には二つのパターンがあります。
一つ目は「内定」です。
内定も契約成立になるので注意をしてください。内定通知を出した瞬間、または内定の電話を入れた瞬間に「始期付解約権保留付の労働契約」が成立します。「始期付解約権保留付」と一応の停止条件は付いていますが、内定でも契約が成立するため、簡単に内定を出すことにもリスクがあることへの理解が必要です。
二つ目は「勤務開始」、こちらは完全な契約成立です。
労働契約が成立しているので、解雇する場合は労働契約法第16条に基づく必要があります。
採用面接は情報収集の場。聞きづらいことも積極的に聞き取りを
━━ 採用にあたって重視すべきポイントを教えてください。
米田 解雇の際に揉めないようにするには、内定を出す前段階、つまり面接の段階でしっかりと情報収集をすることが非常に重要です。
ハローワークでは「面接時にあれこれ聞いてはならない」とパンフレットを配布していますが、これには法的拘束力は何もありません。
例えば「家族構成を聞いてはいけない」「既往歴を聞いてはいけない」とパンフレットに書かれていることがありますが、家族構成が分からなければ、早番・夜勤ができるかどうかも分かりません。既往歴を聞いておかないと、運転業務に入ったときに発作を起こされたらとんでもない事態に陥ります。
━━ 聞きづらいことも面接時に聞いておくことが重要ということですね。
米田 このことは最高裁判所の判例にも存在しています。「三菱樹脂事件」と呼ばれている60年近く前のものです。
簡単に解説しますと、新卒で三菱樹脂に管理職候補として採用されたXさんが、面接時に「学生運動をしていたか」という質問に対して嘘をついていました。採用後、試用期間満了のタイミングでXさんは学生運動をしていたことが判明。企業側は「詐欺である」として、Xさんを解雇しました。
これに対してXさんは納得できないと訴訟を起こしています。争点は二つ、一つ目は「学生運動は憲法19条の思想信条の自由であり、解雇は憲法に違反する」こと。二つ目は「国籍・信条・社会的身分を理由として差別的取扱いをしてはならないという労働基準法第3条に違反する」ことです。
これに対して最高裁判所は明確にジャッジをしています。
一つ目の論点である「憲法の適用」についてですが、そもそも憲法とは国と個人を規律するものであり、私人に対して適用されるものではありません。一般民間企業は法人、つまり法律上の人ですから私人とみなされるため「憲法が適用されることはない」と最高裁は言っています。
二つ目の論点である「労働基準法第3条」についても「関係ない」というのが最高裁の判断です。労働基準法は雇い入れた後に対して制約をするものですが、今回の争点は面接時の嘘にあります。採用の可否を判断するタイミングで、思想信条を理由に採用を拒否することは違法ではありません。
面接時には、業務に関連すると思えば聞いて良いということです。したがって家族構成や既往歴といった情報を収集しても全く問題はありません。最高裁がお墨付きを与えていると理解してください。
採用の成否は面接で決まる、重視すべき3つの質問
━━ 採用においては面接が重要であることが分かりました。面接のポイントを教えてください。
米田 面接では三つのポイントに注目してください。
一つ目は「空白期間のチェック」です。
履歴書の職歴と職歴の間の空白期間を必ずチェックしてください。特にメンタル不全に陥られた方は職歴と職歴の間に3ヶ月から1年のブランクがあるケースが非常に多いです。面接時に履歴書の空白期間を発見された場合には必ず聞いてください。嘘をつかれる可能性もありますが、そこで「どのような顔色になった」「どのような回答をした」ということはしっかりと記録に残しておきます。
二つ目は「退職理由のチェック」です。
ほとんどの方は「自己都合」「一身上の都合」としか書いていません。しかしこれでは退職の理由になっていませんよね。実際には「院長先生と揉めた」「周りのスタッフと揉めた」という理由があって辞めたのかもしれません。必ずその理由を聞いて、内容を控えておくことが重要です。
三つ目は「採用基準を明確に伝えること」です。
求める人材像や、採用したくない人物像の基準を明確に伝えます。これを伝えると、面接を受けている方のほとんどは「はい」としか答えません。
例えば「挨拶ができない人はいりません」「上司先輩にタメ口で話す人はいりません」といった基準を明確に伝え、それに対して「Yes」の回答を得ておくこと、それを記録に残しておいてください。
━━ いずれのポイントでも「記録に残すこと」が重要なのでしょうか。
米田 その通りです。面接で得た情報は、のちの労務管理にも非常に役立ちます。
例えば経歴詐称があっても、面接時に聞いていなければ経歴詐称を問うことができません。したがって面接は情報収集の場であり、一つでも多くの情報を聞き入れることを徹底してください。そしてかならず記録に残しておくことが重要です。
これはテクニック的な話になりますが、面接記録を取ったら、その記録を面接を受けた方にチラリと見せるようにしてください。
例えば「今日の面接はこのように記録に残しました。今後内定採用になった段階では、今日おっしゃった内容に嘘偽りなくがんばってくださいね」と見せるだけで十分です。
もしその方が採用後に何か問題を起こしたときには、この記録を机に置いて面談に臨みます。相手も記録を取っていたことは覚えているでしょうから、それだけでこちらにアドバンテージができるわけです。もちろん経歴詐称の要件に対しての証拠にもなりますので、ぜひ面接記録を活用してみてください。
━━ 面接記録は録音でも良いのでしょうか。
米田 相手の同意が必要になるので、録音は避けたほうが良いでしょう。また面接記録をチラリと見せて相手の記憶に刷り込ませたり、面談の際に机の上に置いておくには紙の記録の方が良いと思います。
「知りませんでした」は通用しない、既往歴確認の重要性と注意点
━━ 特に収集しておくべき情報はありますか。
米田 既往歴の申告は必ず設けてください。ただし面接のときに既往歴を確認するのは避けた方が良いでしょう。面接でいきなり既往歴を聞かれると相手も引いてしまいます。内定を出してから勤務開始日までの間に既往歴の確認をしてください。勤務開始以降に既往歴の確認を求めた場合、仮に虚偽の申告があっても経歴詐称に問えなくなるため注意が必要です。
なお、既往歴については過去3年間の病歴を聞くのが基本ルールになります。入院の有無や治療継続の有無、現在治療中の病名、投薬名、病院などは確認できます。
━━ 既往歴は聞きづらいという声もありそうです。
米田 既往歴の確認に関しては参考判例があります。
10年以上前ですが京都で運転中にてんかん発作で大事故を起こし、7名の通行人と加害者が亡くなりました。雇用主の会社は1億円以上の賠償請求をされ、倒産しています。使用者は「持病があることを知りませんでした」と釈明しましたが、これは一切通じません。
業務に関して必要な範囲内であり、法律に反しない限りは健康状態の事前調査をすることは違法にはなりません。ただし、HIVやC・B型肝炎、色覚異常等は非常にセンシティブな情報になるため、無断で検査をすることは違法となります。また必ず事前の同意が必要であることを知っておいてください。
また、既往歴の取得には個人情報保護法も関連してきます。既往歴は要配慮個人情報に該当しますので、収集後にずさんな管理をすることはNGです。データで管理するのであればパスワードを設定する、紙で管理するのであれば鍵付きのキャビネットに保管するようにしてください。
ちなみに面接時に取り扱う要配慮個人情報には、犯罪歴や身体・知的・精神障害なども挙げられます。これらも収集した場合は厳重に管理することが必要です。
なお、個人情報は回答を拒否することができます。「個人情報を与えたくない」という権利があります。回答を拒否されたにもかかわらず、しつこく聞くことは採用調査の自由の範疇を越えているので注意してください。
▼ 個人情報保護法についてはこちらの記事でも解説しています
━━ 既往歴の確認は内定後とのことでしたが、回答拒否などあれば内定取り消しができるのでしょうか?
米田 可能です。必要書類として取っている既往歴の確認を拒否することは、健康状態に疑義がある状態だと言えますので、これを出さないのであれば内定を取り消すことができます。
また既往歴を聞いて「言いたくありません」と回答があれば、これは「既往歴があります」と言っているのと同じです。可能であれば、既往歴を言いたくないという人は採用を避けた方が良いでしょう。回答を拒否した人は、後々問題社員化する可能性もあるので、最初から採用しないことをルールにするのも一つの方法です。
「論より証拠」採用トラブルに効く記録と書類
━━ 最後に採用に際して、ここだけは押さえておくべきポイントを教えてください。
米田 とにかく紙です。論より証拠。労働法は証拠を一つでも多く残した方が勝ちます。
日本は労働者が有利と言われていますが、実はしっかりと準備をしておけば完敗することはまずありません。
特に重要になるのが「就業規則」と「雇用契約書」です。
すでに開業されている先生は、一度見直してみてください。これから開業される先生は、この二つが非常に重要だということをご理解いただければと思います。
雇用契約書の中に面接時の約束事を明記するのも有効です。
「挨拶をする」「担当件数を◯件まで持つ」といったことを備考欄に箇条書きで書き連ね、それに対して個別合意を取ります。署名捺印も取りますので、裁判官も雇用契約書に書かれている内容はかなり重視します。
━━ 面接記録や雇用契約書など、何かトラブルが起きた際に証拠となるものをしっかりと残しておくことがポイントということですね。本日はありがとうございました。
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また、クリニック開業に関連する内容は以下の記事でも詳しく解説しておりますのでご興味のある方はぜひご一読ください。